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叙勲を受けた日から三日後、私とダグラス様は公爵邸へと帰還した。
ゆっくり王都を観光したかったが、ダグラス様のご両親がお見えになると聞いて急いで帰って来たのだ。
私たちが公爵邸へ到着すると、ダグラス様のご両親が出迎えてくださった。
「おかえりなさい。もう少し王都でゆっくりしてきても良かったのよ。」
「そうだぞ。私たちのことは気にするなと手紙に書いただろう。」
お母様が優雅に微笑み、お父様も朗らかに笑っていた。
「ラナがどうしても早く会いたいというので急いで帰って来たのだ。」
「ダグラス様、恥ずかしいです。」
なんだか気恥ずかしくてダグラス様の袖をつかんだ。
「まあまあ!可愛らしい。お手紙いつもありがとう。改めまして、私がダグラスの母、シルヴィアよ。」
お母様に手を取られる。
目元がダグラス様にそっくりだったが、成人男性の母とは思えないほどに若々しく美しかった。
「は、初めまして。ラナでございます。お母様、いつもお手紙ありがとうございます。」
「可愛い娘ができて嬉しいわ!」
なんとか返事をすると、お母様が飛び跳ねるように喜んでくれる。
手紙でも優しい人柄は伝わっていたが、実物は想像以上に優しい雰囲気をまとっていた。
「おいおい。早速娘を独り占めしないでくれないか。私はダグラスの父、オリバーだ。いつも便りを楽しみにしていたよ。シルヴィアだけでなく私のこともお父様と呼んでおくれ。」
今度はお父様に声を掛けられる。その姿はダグラス様とそっくりで、ダグラス様は将来こんな風に年を取っていくのねと思わず見とれてしまった。
「初めまして、お父様。ラナでございます。お出迎えができず申し訳ありませんでした。」
「謝らないで大丈夫だよ。私たちが勝手に押し掛けたのだから。」
私の謝罪に、お父様もお母様も気にしなくていいと首を振った。
「父上、母上、積もる話は談話室に移動してからにしましょう。」
ダグラス様の提案を受けて、私たちは談話室に移動した。
談話室では、戦時中の話やダグラス様の幼少期の話など多岐にわたる話を聞かせていただいた。
話が途切れることはなく、夕食中もお母様とお父様がたくさん話してくださった。
こんなに賑やかな食卓は、私の誕生日会以来かもしれない。
夕食後もまだ話し足りない様子のお母様と、明日お茶会をする約束をしてそれぞれの部屋へと戻った。
部屋に戻った私はレーヌに、仕立屋を明日呼べないかどうか確認するよう指示を出した。
仮縫いが完成したと連絡が入っていたのだが、その予定をまだ決めていなかった。
せっかくなのでお母様に同席してほしくて、明日、仕立屋に来てもらおうと思いついたのだ。
明日仕立屋が来てくれるのなら、一日中お母様と過ごすことになりそうだ。
初めて会ったはずなのに、不思議と緊張はしなかった。
―――――
翌日、レーヌから仕立屋が今日来てくれると報告を受けた。
朝食を食べた後、お母様と一緒に婚礼衣装の試着をする部屋へと向かった。
部屋へ到着するとすでに仕立屋が待機していた。
「大奥様、お久しぶりでございます。仮縫いが仕上がりましたので、細部の確認をさせていただきたく伺いました。」
私たちが部屋に入るとすぐに仕立屋が頭を下げた。
「久しぶりね。それにしても、私と同じ仕立屋に注文したというのは本当だったのね。なんだか嬉しいわ。」
「お母様の婚礼の際の絵姿があまりに素敵だったので…」
改めて本人に伝えるのは少し恥ずかしい。
「まあ!嬉しいことを言ってくれるのね。早速袖を通して見せてちょうだい。」
お母様の言葉を受けて、部屋の奥に立てられた衝立の向こう側へと移動した。
そこには、トルソーに飾られた純白の婚礼衣装があった。
胸元や袖は繊細なレースで作られており、ふんわりと広がったスカートは後ろに向かって長く伸びている。
装飾は少ないがスカート部分には幾重にも布が重ねられていた。
仕立屋に手伝ってもらい仮縫いの婚礼衣装を着用する。
少し胸元が苦しい。
それ以外に気になるところはなかった。
お母様に婚礼衣装を見ていただくため、裾を踏まないように気を付けながら慎重に移動する。
どんな反応をしてくれるだろうかと期待に胸を膨らませた。
「いかがでしょうか?」
お母様の前に立ち、全身を見せるようにその場でゆっくりと回る。
「とても上品ね。似合っているわ。特に胸元と袖のレースがラナちゃんの可愛らしさを引き立てているわね。」
お母様はたくさん褒めてくれたが、褒められ慣れていないのでどう反応していいかわからない。
熱くなる頬を手で冷やしながら、私は微笑むことしかできなかった。
「着心地はいかがでしょうか?」
仕立屋の女性が私に尋ねた。
「胸元が少し苦しいの。少し太ってしまったのかもしれないわ…」
私がそう答えると、お母様と仕立屋が一瞬目を合わせた後、一斉に私の方に視線を移した。
「成長期だものね。」
「そうでございますね。」
二人は何やら分かり合っているようだ。
「もう少しやせたほうがいいでしょうか?」
「ラナちゃん、あなたは今成長の途中なの。だから、減量など考えてはいけないわ。ドレスはサイズを調整すればいいのだし、毎食きちんと食べることが大切よ。わかったかしら?」
お母様に両肩をつかまれ諭される。
太ったわけではないと言われたことに少しだけほっとした。
その後は、仕立屋に採寸をやり直してもらったり、意匠の最終確認をしたりした。
その中で、お母様が腰元に布で作った大きなバラを付けることを提案してくれた。
せっかくなのでそのデザインで再度、仮縫いをしてもらうこととなった。
その後のお茶会では幼少期のダグラス様の話をたくさん教えてもらった。
虫取りが好きだったことや、それをお母様のところに持って行って驚かせたこと。
いたずらが好きで、リンダによく叱られていたこと。
庭園の池に落ちて大泣きしたこと。
そのどれもが愛らしく、私も見てみたかったと少しうらやましく思った。
それから一週間ほどの間、お母様とお父様と共に過ごすことができた。
特にお母様とはお茶会をしたり、街歩きをしたり、友人のような距離感で日々を楽しむことができた。
ダグラス様と過ごす日常も大好きだが、女同士で過ごす時間もとても楽しかった。
お父様とお母様はとても仲が良く、二人で出かけることも多かった。
私たちも将来こんな夫婦になるのかなと想像しては、心を躍らせていた。
帰り際には、お母様が私を連れて帰りたいと言ってダグラス様を困らせていた。
また遊びに来ると言って帰る二人はとても名残惜しそうで、私も別れがたかった。
結婚式まで約八か月。
それまでにまた会えるといいな。
手紙も今以上にたくさん書こう。
去っていく馬車を見つめながら私はそんなことを考えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




