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片翼の英雄と飛べない花嫁  作者: ayaペンギン
第五部

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今日は朝からダグラス様と共に馬車に乗っていた。

戦後処理がようやく終わったので叙勲式と祝勝会を行うとの連絡があり、王都へ向かっているのだ。

車窓から見えるのは、美しい秋晴れの空。

私の誕生日会からひと月が経っていた。

遠くに見える農村には様々な作物が実りの時期を迎えているようであった。


飛べるようになってから知ったのだが、貴族家や王宮へは鳥人族であっても馬車での移動がマナーなのだそうだ。確かに、以前開かれた私の披露目の夜会でも招待客の方々は馬車で移動していた。

どうして飛んで移動しないのかと思ったこともあったが、緊急時や求愛行動、飛行訓練以外での飛行は貴族にとっては品がない行為とされるらしい。


王都までは馬車で三日ほどかかると聞いている。

今回は王家の方々をお待たせするわけにはいかないので、途中の街での寄り道はできなかった。

それでも、ダグラス様との二人旅は思いのほか楽しく、あっという間に時が過ぎた。


「あと二時間ほどで王都へ入る。本日はタウンハウスでゆっくりと過ごそう。」

「明日はいよいよ王家の方々との面会ですね…」

急に現実に引き戻されたようで、じわりと手に汗がにじんできた。


ダグラス様と婚姻契約を結んだ当初は、王家の方々と言葉を交わすことになるなんて思いもしなかった。

王太子殿下には一度ご挨拶したことがあるが、はたして公爵夫人としてうまく立ち回れるだろうか。

それに、私の翼についての説明もある…

気づけば私はスカートを握りしめていた。


「そのように緊張する必要はない。」

ダグラス様が私の手を優しく包んでくれた。

その手のぬくもりに強張っていた体から少し力が抜けた。

「私が守るから。」

そう呟いたダグラス様の真剣な表情から視線を外すことができない。

守ると言ってくれた、その声は低く甘く私の耳に響く。

つい先ほどまで不安でいっぱいだったのに、もうダグラス様のことしか考えられなくなっていた。


「…はい。」

なんとか返事をしたが、それ以上の言葉は出てこなかった。

ダグラス様が私をそっと抱き寄せ、私の髪に顔を埋める。

鼓動がうるさいくらいに早鐘を打っていた。


―――――


王都に入った次の日の朝、私はいつもより時間を掛けて支度をしていた。

今日は叙勲式と王家の方々との顔合わせに出席する。

そして、私の翼について国王陛下へ報告しなければならない。

今日の予定を考えるだけでため息が出てしまった。


この日のために仕立てたドレスに袖を通し公爵夫人に代々受け継がれてきた装飾品を身につける。

普段身につけない豪奢なドレスと、装飾品に込められた歴史の重さに潰されてしまいそうだった。


「準備はできたか?」

部屋の扉が叩かれ、外からダグラス様の声がした。

こちらに一緒に来ていたレーヌが私に代わって扉を開いてくれる。

ダグラス様の姿に目を向けるとその凛々しい姿に釘付けになってしまった。

黒の軍服に輝く勲章や飾りが眩しい。

手には黒い手袋をはめている。

絵画から抜け出してきたような端正な顔立ちと相まって、最高傑作の美術品のようだった。


一方、ダグラス様も目を見開いて私を見つめていた。

「変でしょうか…?」

ダグラス様の視線の意味が分からず、不安で落ち着かない。

「美しい…普段の装いも愛らしいが、本日は女神のようだ。皆の目にさらしたくない…」

ダグラス様がほうっとため息を吐いた。

言葉の意味は分かるが、それが自分に向けられているというのが理解できない。

顔に熱が集中するのを感じて思わず俯いてしまった。


「あ、あの…」

お礼を言わなければと思うのに言葉が出ない。

「どうした?やはり王宮へ上がるのはやめに――」

「それはいけません!」

ダグラス様がとんでもないことを言おうとしたことに驚いて思わず顔を上げてしまった。

見上げたダグラス様は腑に落ちないというような顔をしていた。


「早く行きましょう。約束の時間に遅れてしまいます。」

私はダグラス様の腕に手を絡め、早く行こうと促した。

「む、そうか。やはり行かなくては駄目か?」

「私が行きたいのです。一緒に並んで叙勲を受けるのですよね?」

往生際が悪いダグラス様を何とか説得する。

私の思いが通じたのか、ダグラス様の機嫌が急によくなった。


やっとのことで、王宮へ向かう馬車に乗った時には緊張よりも、やっとダグラス様が行く気になってくれたと安堵する気持ちが勝っていた。


王宮へ上がった私たちは、談話室へ通された。

ここは王家の方々が親しい人物を招く、私的な部屋らしい。

緊張しすぎて、出されたお茶や菓子が喉を通らない。

それでも一口食べるのがマナーだと聞いていたので、なんとか口に入れる。


「顔色が優れないようだが大丈夫か?」

ふいにダグラス様が私を覗き込む。

声を掛けられて初めて自分の背が丸まってしまっていることに気がついた。

「大丈夫です。この日のためにしっかり準備してきましたから。」

背筋を伸ばして座り直し、ダグラス様を真っすぐに見つめる。

そんな私を見てダグラス様が笑みを深めた。


「王族の方々がお越しです。」

王宮の侍女に声を掛けられ、席を立つ。

しばらくすると、陛下を筆頭に王家の面々が部屋に入ってきた。

「楽にしてくれ。ダグラス、息災であったか?嫁を迎えて立派になったな。」

部屋へ入るなり、陛下がダグラス様の肩に腕を回す。

その光景に驚きすぎて、私はカーテシーのタイミングを逃してしまった。

口を挟むわけにもいかずただただ立ち尽くしてしまう。


「ルキウス、妻が困っている。いつまでも子ども扱いはやめてくれ。」

ダグラス様が陛下の手を振り払うと、陛下は声を上げて笑っていた。

そのやり取りにひやひやさせられる。


「すまん、すまん。いつまでもダグラスは可愛い弟分なのだ。許してくれ。」

ひとしきり笑い終わった後、陛下がダグラス様にそう言った。

ダグラス様は嫌そうに眉間にしわを寄せていた。


陛下の勧めもあり、皆で着席して少しの間だけ談笑を楽しむことになった。

王妃のカタリーナ様やセレン第二王子殿下も優しいお人柄で、私を温かく迎えてくださった。

レオナルド王太子殿下は以前にお会いした時よりも落ち着いた印象を受けた。


「それで、翼の件は教えてくれないのか。」

話も一段落したころ、陛下が私の翼について話題を出した。

自然と私の体に力が入る。

大丈夫だとでも言うように、私の手にダグラス様の手が重ねられた。


「叙勲式の前に報告しておきたい。だが、今回の件に関しては王のみに伝えたいと考えている。それでいいだろうか。」

ダグラス様の鋭い声に、一同が息をのむ。

「もちろんだとも。では私の執務室へ移動しよう。」

そう言って陛下が立ち上がった。

私たちもそれに倣い、席を立つ。


陛下以外の王族の皆様とはここで一度別れた。

カタリーナ様からは、叙勲式の後の祝勝会でまた話をしようと声を掛けていただいた。


陛下の執務室へ到着した私たちはソファに着席した。

その後、陛下が人払いをしてくださった。

「ダグラス、奥方の翼について事情を聞かせてもらえるかな?」

陛下の声は重く響き、先ほどまでの軽い空気が一変する。

ダグラス様はそれに臆することなく、母と決めた内容を陛下へ報告していた。


「これまでアクイラ家が担っていた守護をやめるとはいいません。しかし、妻やその親族、私たちの子について、それ以上を求めるようであれば、アクイラ家も人里を離れる覚悟です。」

ダグラス様が最後に言った言葉に陛下が驚いた様子を見せた。


「そんなことはしないと約束しよう。レオナルドへの伝達に関しては、成人してから時期を見極める。無辜の民を巻き込む可能性を考えれば、この情報は最高機密として管理すべきであろう。奥方のことをどう説明するかだが…」

陛下が言葉を切り、難しい顔で考え込んだ。

私もそれは気になっていた。

他家の貴族に聞かれた場合、なんと説明すればいいのだろうか。


「説明をしないのも憶測を呼ぶでしょう。大昔にアクイラ家から西の大陸の大国へ嫁いだ娘がいるとの記録があります。その血を引いていたということにしようかと。実際には少しぼかして、ラナの母方にアクイラ家の古い分流につながる血があったと説明するのが安全だと考えます。」

ダグラス様がそんなところまで考えていてくれたなんて…

私は感動で胸がいっぱいになった。


「おお、それであればいらぬ憶測を呼ぶこともなさそうだな。翼がなぜそのように変化したのかはわからぬということだったが、もしかしたら戦時下で敵国にさらわれたという強い負荷によるものかもしれん。対外的な説明はそれでいいだろう。」

陛下もさすがダグラス様だと感心しているようだった。


その後、私たちはいったん謁見室の隣にある控えの間へ移動し、叙勲式を待った。

控えの間には私のほかにも数名が待機しており、その中にはアシペトル侯爵もいた。

だが、女性は私一人のようだった。


時間が来ると一斉に控えの間から謁見室へと移動する。

私もダグラス様にエスコートされて、謁見室へ入る。

そこには大勢の貴族が左右に分かれて立っており、見知った顔もあった。

中央の壇上には王家の方々が座っていた。


所定の場所で並んでその時を待つ。

名を呼ばれた者から順に一人ずつ叙勲を受けていた。

私たちの番になると、私とダグラス様の名が呼ばれ、二人で陛下の前へ進み出る。

隣にダグラス様がいる。それだけで安心できた。


膝をつき頭を下げると、陛下からねぎらいの言葉を掛けられた。

それに礼を返すと、王妃殿下が胸元に勲章を授けてくださった。


叙勲式が終わると、そのままの流れで祝勝会が開かれた。

ダグラス様とダンスをしたり、カタリーナ様や侯爵家のご婦人方とおしゃべりをしたりしているうちにすっかり夜が更けていった。


もうそろそろ帰ろうかというところでふと気がつく。

こういった夜会には欠かさず参加していたコルビダエ伯爵家の面々がいない。

ダグラス様からは何も聞かされていないが、以前に公的な社交の場に出ることを禁ずる程度の罰になると言っていた。だからもうすでに罰せられているのだろうと思った。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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