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第五部スタートです。最終章になります。
毎日21時頃投稿します。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
ダグラス様と生涯の愛を誓い合った次の日の朝。
私はダグラス様の腕の中で目を覚ました。
「おはよう。起きたのか?」
珍しく私より早起きしたダグラス様に声を掛けられ驚いた。
私が挨拶を返すと、ダグラス様は私に回していた腕を解いてくれる。
その時、寝室の扉が叩かれ、リンダが静かに部屋に入ってきた。
私は先ほどまでの甘い空気が急に恥ずかしくなった。
ダグラス様に背を支えてもらいながらゆったりと起き上がる。
「おはよう、リンダ。」
「奥様、おはようございます。旦那様も本日は早起きなのですね。」
驚いた様子のリンダに私も頷いた。
「リンダ、大事な話がある。朝食後、ルーカスとレーヌと共に書斎まで来てくれ。」
私たちを起こしに来たリンダにダグラス様が神妙な面持ちでそう告げた。
リンダも硬い表情で了承を返し、ダグラス様の支度を始める。
もう少し昨日の余韻を味わっていたかったな…
そう思いながら寝台から降りようとした私の腰に後ろからダグラス様の手が回った。
私の翼に甘えるように顔を埋めている。
「私も支度をしてまいります。朝食は共にできますか?」
「ああ。朝食後も一緒に書斎へ行こう。…離れがたいな…」
最後に小さく呟かれた声に鼓動が跳ねた。
「すぐにまた会えますから。」
私はそう言ってダグラス様の腕から抜け出し、足早に自室へ続く扉をくぐった。
リンダにどう思われているだろうか…
そう思うと後ろを振り返る勇気は出なかった。
―――――
レーヌを連れてダグラス様と書斎へ移動すると、リンダとルーカスが待っていた。
椅子に座るルーカスを見ると、包帯が減っているように見えた。
「そのまま座っていてくれ。療養中に呼び出して悪いな。」
ダグラス様が立ち上がろうとするルーカスを制した。
「早速本題に入るが、ラナと結婚式を挙げる。最短で準備してくれ。」
書斎に集まった私たちにダグラス様が唐突に話し始めた。
集められた三人は珍しく固まっている。
私もどうしてそうなったのか見当もつかない。
「ダグラス様、話が飛躍しすぎております。」
私がそう声を掛けると、ダグラス様は首を傾げた。
「そうでございます!旦那様、言葉が足りておりません。もちろん、結婚式を挙げることは大賛成です。ですが、どうして突然その話になったのですか?」
私の声にハッと息をのんだリンダがダグラス様に詰め寄った。
「昨夜、婚姻時の条件を白紙に戻し、本物の夫婦となることを誓い合った。婚姻契約時には不要だと考えていたが、ラナのために盛大な結婚式を挙げたくなったのだ。」
ダグラス様の言葉に顔が火照っていく。
周囲の反応を窺うと、リンダとレーヌは目を輝かせていた。
「それは、おめでとうございます。急いで準備いたしましょう。ですが、どれだけ急いでも、早くとも一年はかかるかと思われます。」
平静を装っているルーカスもいつもより早口になっている。
「一年は長すぎる。もっと早くならないのか?」
ダグラス様は眉根を寄せて、不満を漏らした。
「そうですね…戦後まもなくでもありますし、王族の方々も招くと考えると予定を早めるのは難しいかと。」
ルーカスの説明に、それならば一年後でも早い方なのかもしれないと思った。
「…そうか。ならば、私が王家へ掛け合おう。ドレスを仕上げるのに何カ月かかる?」
「それならば、早くとも半年はかかるかと。奥様の納得できるものに仕上げるにはもっとかかる可能性もあります。」
リンダが答えた後、ダグラス様とリンダの視線が私に集まった。
「奥様、ドレスや式にはこだわりたいですよね!?」
リンダの勢いに押され、コクコクと頷く。
「そうなのか。なら、式は来年の春にしよう。花の精のようなラナにぴったりだろう?」
ダグラス様の歯の浮くような台詞に今度は体中が赤くなった。
「わ、わかりましたから。二人とも落ち着いてください。」
二人をなだめようとするが、勢いが収まりそうにない。
「落ち着いてなどいられるか!ラナのしたいことをすべて詰め込むぞ。」
「そうでございます!奥様、一生に一度のことですから豪華にいたしましょう。」
やる気満々の二人に尻込みしてしまう。
「私は、豪華でなくても…披露目の夜会は済ませましたし!」
何も言わなければすごい規模になりそうな予感がした私は必死に伝えた。
「いえ、それなりの格式を保つ必要がございます。最低でも、式と祝宴は行う必要があるでしょう。王族と侯爵家は招かねばなりませんので、それなりの準備が必要ですよ。」
ルーカスの言葉にリンダが頷く。
ダグラス様もなぜか今日ばかりはこちらの様子に気がつかないようだ。
逃げ道を塞がれたようで泣きたくなった。
「発言してもよろしいでしょうか。」
ふとレーヌが静かに声を上げた。
「ああ。許可しよう。」
「恐れながら、皆さま、奥様への配慮に欠けているように感じます。めでたい話ではありますが、奥様の気持ちを置き去りにしていないでしょうか。」
ダグラス様に許可を得たレーヌが一歩踏み出し、苦言を呈してくれた。
レーヌの言葉に三人の視線が私に集まり、肩が跳ねる。
「…嫌ではないのです。公爵家として保たねばならぬ体面も理解しております。ですが、過度に豪華な式や、要人の予定を無理やり捻じ曲げてまでの式は望んでいません。無理のない日程で、ゆっくりと進めさせていただけたら嬉しいです。」
考えはきちんと伝わっただろうか?
私はおそるおそるダグラス様を見上げた。
「すまない。昨日のことが嬉しすぎて、つい独りよがりになってしまっていた。」
ダグラス様が眉尻を下げ、謝罪してくれた。
「奥様、申し訳ありません。奥様の気持ちを一番に考えるべきでした。私どもとゆっくり進めてまいりましょう。」
リンダも落ち着いてくれたようだ。
「そうですね。配慮に欠ける発言、申し訳ありませんでした。日程に関しては正式なルートで王家の方々の予定を確認して決定いたします。ご安心ください。」
ルーカスは何も間違ったことを言っていなかったのに、私を安心させようと言葉を尽くしてくれた。
レーヌのおかげでようやく取り戻した平穏にほっと息を吐く。
「ありがとうございます。結婚式で祝っていただけることは素直に嬉しいです。」
私がそう言うと、四人が笑顔で頷いてくれた。
その後の話し合いは穏やかに進み、私の意見も十分に反映されたものになった。
私は主にリンダと共に準備を進めることになりそうだ。
「もう一つ大事な話がある。」
結婚式の話が落ち着いたころ、ダグラス様の低い声が部屋に響いた。
少し硬いその声に、緊張が走る。
「――ラナ、翼について話してもいいか?」
ダグラス様が私を抱き寄せ、耳元でささやく。
部屋にいる面々を見渡し、私は頷いた。
ここにいる人物ならば大丈夫だろう。
むしろ聞いておいてもらった方がいい。
私はダグラス様の隣に並び、ルーカス、リンダ、レーヌの三人と向き合った。
「ラナの翼について、ここにいる面々にのみ伝えておくことがある。」
ダグラス様の言葉に三人が背筋を伸ばす。
「ラナはかつて人里を去った鷲の一族の末裔だ。翼については封印されていた。そして、誘拐された後に封印が解かれたのだ。」
ダグラス様が簡潔に説明すると、レーヌは息をのみ、リンダとルーカスはその場で頷いていた。
「いつお話しいただけるのかと思っておりましたが、そういった事情があったのですね。」
ルーカスの言葉に、当然気になっていただろうなと思った。
箝口令が敷かれていたとはいえ、今まで誰も私の翼について触れなかったのが不思議なくらいだ。
「王宮からラナについて説明してほしいと書状が届いている。叙勲に合わせて王都へ上がるので、その際に説明をすることになる。王宮から何と言われるかわからぬが、ラナを無理やり利用しようとしたらこの国を離れるつもりだ。皆、そのつもりでいてくれ。」
ダグラス様の言葉を受け、三人が真剣な表情で深く頷く。
「あ、あの!それはやりすぎではないでしょうか?私のせいで今まで受け継がれてきた王家との盟約を壊してしまうなんて…」
「いや、ラナを守るために必要な覚悟だ。王家の人間も賢明な判断を下すだろう。それに王宮へ説明する内容は昨日伝えた通り、事前にラナとレイラ殿にも確認を取るつもりだ。だから安心してほしい。」
ダグラス様は微笑みながら、私の頭を撫でる。
解術したときはもうダグラス様の隣には居られないと思っていたが、ダグラス様は国よりも私の傍にいることを選んでくれた。
実際に王国を離れるという選択はしてほしくないが、私はそのことが嬉しかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。




