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食事を終えた私は部屋でリンダを待った。
その間、私はレーヌからさらわれた後のことについて話を聞いていた。
「ルーカス様は医師に応急処置をされた後、すぐに砦に飛び立たれました。自分を責めるルーカス様にリンダ様が、それならば飛べと叱咤激励しておりました。」
「そうなのね…それで砦まで無理をして飛んでくれたのね。」
ルーカスもリンダもこの辺りの話は聞かせてくれないだろう。
「ルーカス様が飛び立たれた後、屋敷中で複数の侵入者が拘束されました。侵入者は黒豹族と蛇族だったそうです。蛇族が屋敷中で陽動し、その隙に黒豹族が奥様をさらう手はずだったとのことです。」
レーヌの話にふと疑問がよぎった。
「侵入者は毒を隠し持っていたとルーカスから聞いたけれど、話を聞けた者がいたのかしら?」
「唯一、解毒が間に合って生きながらえた黒豹族の男が話したそうです。侵入を手引きした人族の男についてもすでに捕らえられ、現在は取り調べを受けています。」
侵入を手引きした男と聞いて、心臓がずきりと傷んだ。
「そうだったのね…その男というのは、内装業者に紛れていたのかしら?」
「奥様もお気づきだったのですね。その通りでございます。」
「私がフェリクスの遊び場を作りたいなんて言わなければ…翼のことも黙っていてごめんなさい。」
やはり私の予想通りあの時の男が侵入者の手引きをしたのだ。
「奥様の翼には深い事情があったのでしょう。それに、あの工事がなくとも実行されていたと思われます。アシペトル侯爵家とファルコ侯爵家にも同日に襲撃があったと聞かされています。奥様に落ち度は一つもございません。」
あの時他の標的と言っていたのは、そういうことか。
だが、失敗したと言っていた気がする。
他家の状況も気になるが、それよりも一番被害が出たであろう公爵家のことが気になった。
「公爵家の被害は――」
私が口を開きかけた時、部屋の扉が叩かれた。
「リンダでございます。」
「入ってちょうだい。」
私が入室の許可を出すと、リンダが入室してくる。
「遅くなって申し訳ありません。」
「大丈夫よ。それよりルーカスは?」
頭を下げるリンダを制して、ルーカスの容体を尋ねた。
「ルーカスは痛み止めを服用して、自室で寝ております。食事も水分もとれておりますが、嘔吐してしまうことも少なくありません…少なくともひと月は療養が必要とのことです。ご不便をおかけしますがルーカスの業務は、私と数名の執事で分担することとなりました。」
「休めているのなら良かったわ。でも、心配ね…リンダも倒れないように気を付けてね。」
私の言葉にリンダは眉根を寄せる。
「私が蛇につかまってしまったばかりに、申し訳ありません。私にも責任があります。戦争が終結したら、ルーカスと共にどのような処罰でも受ける覚悟はできております。それまではどうか奥様を支えさせてください。」
そう言うとリンダは頭を深々と下げた。
「そんなことを言わないで。リンダもルーカスも必死に守ってくれたわ。今回の件でリンダやルーカス、警備兵に処罰を与えるつもりはありません。」
「ですが…」
「それよりも、公爵家をこれまで通り一緒に盛り立ててほしいの。そして、これからも私たち夫婦の目標としてい続けて。」
「寛大なご配慮を賜り、ありがとうございます。」
もう一度、リンダが頭を下げた。
「頭を上げて。私たちには今やるべきことがあるはずよ。屋敷の被害状況を詳しく教えてほしいわ。それと、ダグラス様から後方支援をするよう託されてきたの。その相談に乗ってくれる?」
「はい。屋敷の被害状況についてはこちらに報告書を用意しております。まずはこちらをご覧ください。侵入者についてはお聞きになりましたか?」
リンダが背筋を伸ばし、表情を引き締める。
やっと気持ちを切り替えてくれたようだ。
「ルーカスとレーヌからだいぶ詳しく聞いたわ。侵入経路についても…」
渡された報告書を受け取りながらそう答えた。
「あの業者のことですね、手引きをした者は捕らえましたし、内装業者の職員の身辺調査についても現在、急ぎで行っております。どうやって間者が紛れ込んだかも併せて調査中です。」
「ありがとう。引き続きお願いするわ。」
私は手元の報告書に目を通す。
そこには屋敷の損傷箇所や負傷者などの情報が書いてあった。
「犠牲者名簿に名が書かれている六名は…」
胸が詰まって言葉が出てこない。
「その六名は…奥様の警護をしていた者たちです。」
少し言い難そうにリンダが口を開いた。
「私を守るために…?」
「それがその者たちの仕事でございます。」
リンダの言葉がひどく冷たく聞こえた。
だが、その両手は固く握りしめられていた。
「弔いはすんでいるの?遺族の方への補償や謝罪は?」
「すでに、遺族への連絡は済ませ、ご家族のもとへ帰る準備を進めております。家族のいない者は、公爵家に貢献した人物のために用意された墓地に埋葬する予定です。ご家族への補償は年金という形で毎月出すことになっております。改めての謝罪は必要ないかと。」
十分な補償がされているようで安心した。
だが、リンダが淡々としすぎているように感じた。
「謝罪は必要だと思うわ。直接出向くのは迷惑かもしれないけれど、手紙くらい送ってもいいのでは?」
「――それでは、そのように手配いたします。ですが、内容は指定させていただいてもいいでしょうか。公爵夫人として出す正式な手紙は効力が強すぎます。あまり直接的な謝罪や具体的な支援を書かれますと、後々に大ごとになることがございますので。彼らがいかに重要な任についていたのか、どれほど信頼していたのかといった内容であれば問題ございません。」
しばしの沈黙の後、リンダがそう言った。
確かに、公爵夫人としての手紙は気軽に平民に出していいものではないのだろう。
もしかしたら公爵家に迷惑をかけることになるかもしれない。
私は感情的になりすぎていたようだ。
リンダの言葉に自分の立場を再認識した。
その後、私は怪我人の治療状況や、屋敷の損傷について確認した。
どうやら私がさらわれた翌日の朝に王宮の医師団が公爵邸にやって来て、滞在しているらしい。
そのおかげか怪我人はすべて公爵邸内で治療を受けているそうだ。
今後は、負傷兵の救護もここで行うと聞かされた。
屋敷の損傷については、爆破の被害を受けたところが普段使われていない部屋や倉庫だったこともあり、最低限の補修のみを行ったそうだ。
幸い外壁は壊れていなかったようなので、割れた窓の交換だけで済んだらしい。
本格的な補修は戦後に改めて行うとのことだった。
「それで、後方支援なのだけれど何をすればいいのかしら?」
一通り屋敷について話を聞いた後、リンダに尋ねる。
「それについてですが、一番は物資の手配と運搬ですね。定期的に送らなければいけない物品に関しましては、もう手配が済んでおります。それ以外に、緊急で必要になったものを伝令が持ってくることがございます。」
それを聞いて、先ほど届いたダグラス様の手紙を思い出した。
「先ほどダグラス様の手紙にも緊急で送ってほしい物が書かれていたわ。レーヌが手配を済ませてくれたの。」
「もう対応しておられたのですね。奥様の対応は非の打ちどころがございません。」
リンダが私を見て微笑んでくれた。
その後も私たちは戦時対応についてや、屋敷の管理についてしばらく話し合った。
その中で、他家の襲撃についても聞いてみた。
さらわれた者や亡くなった者はいないようだが、公爵家と同様に建物の損傷や負傷者は出ているらしい。
やはり、まだまだリンダには傍にいてもらわなければと実感させられた。
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