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片翼の英雄と飛べない花嫁  作者: ayaペンギン
第四部

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視界の先に公爵邸が見えた。

走り続けていた馬車がゆっくりとスピードを落とし、止まった。


「奥様、到着いたしました。」

外から、兵士の声がした。

馬車の扉が開かれると、そこにはリンダが待ってくれていた。

その近くには医師も待機してくれている。


「リンダ!」

馬車を飛び出し、リンダに抱き着く。

「奥様!ご無事でございましたか!」

そんな私をリンダが受け止めてくれた。

「リンダが無事でよかった…でも、ルーカスが…早くお医者様に診せてあげて!」

互いの無事を喜び合うのもそこそこに、リンダがルーカスのもとへ駆け出す。


兵士たちが担架にルーカスを横たえ、それを使用人たちが運んでいく。

その後を医師とリンダがついていった。


その背を見送り、屋敷内へ足を踏み入れる。

その場に集まった使用人たちが左右に分かれて整列していた。

皆の視線が私の翼に集まる。

一瞬のことだったが気のせいではないだろう。


「おかえりなさいませ。」

使用人たちが頭を下げて出迎えてくれる。

「ただいま。」

やっと帰ってこられた…

私は肩の力が抜けていくのを感じた。


そんな私のもとへレーヌとサリーとアンヌが集まってきた。

「奥様、ご無事で何よりです…」

涙声のレーヌの言葉に私の目にも涙がにじむ。

サリーとアンヌは静かに涙を流していた。


「ちゃんと帰ってこられたわ。フェリクスは?どこにいるの?」

「フェリクスは現在、動物の専門医のもとで療養中です。」

レーヌが目尻を拭い答えてくれた。

「そうなのね。後でお見舞いに行きたいわ。」

ひとまずは安心できる状況だということにほっと胸を撫でおろす。


「サリーもアンヌも泣き止んで。ダグラス様の後方支援をしなくては。それに屋敷の被害状況の確認も必要だわ。少しも休んでいる暇なんてないわよ!皆もそれぞれの仕事に戻ってちょうだい!」

サリーとアンヌ、そして集まった使用人たちに聞こえるように声を張り上げた。


「そうですね、では早速お着替えいたしましょう。湯浴みの準備も整っておりますよ。」

サリーが涙を拭い、前を向いた。

「私も!温かいお食事を用意してまいります!」

アンヌがにこっと笑って見せてくれた。


使用人たちもそれぞれの仕事に戻るため動き出す。


そんな時、一頭の馬が駆ける音が耳に届いた。

何事だろうか?

私たちを送り届けてくれた兵士たちが身構える。


そこに飛び込んできたのは、伝令兵だった。

「公爵夫人はおられますか?」

「ここにおります。」

私が一歩前へ出る。


「失礼いたしました。本日の未明に開戦いたしました。」

その言葉に心が凍り付く。


「ダグラス様は…?」

「前線で指揮を執っております。手紙を預かっておりますのでお渡しいたします。」

手紙を渡した伝令兵は急ぐように元来た道を引き返していった。

そして梟族と隼族の二名も早々に砦へ向かって飛び立っていく。


人族の護衛たちは、しばらく公爵邸で休息をとってから砦へ向かうらしい。

私は彼らの部屋の手配を、近くにいた執事に頼んだ。


「奥様、まずは部屋へ戻りましょう。」

「そうね。部屋で手紙を確認するわ。」

レーヌに答え、自室へと急ぐ。


部屋へ戻った私はペーパーナイフで手早く手紙の封を切り、それを読み始める。

そこには、

私が敵の拠点で聞いた情報と、空から見た状況を踏まえて陣形を組み直したこと。

斥候や遊撃部隊の配置を変えたこと。

敵の作戦をいくつも看破し、先回りして行動ができていること。

などが書かれていた。

それに加えて不足している物資についても書かれていた。


急ぎ前線へ送る必要があるものと急ぎでないものを頭の中で選別し、レーヌに指示を出す。

レーヌはすぐに動き出してくれた。


手紙の内容を見る限り、現状はアウルム王国が優勢なのだろう。


後で、リンダやルーカスと話す必要がありそうだ。

そのためにも急いで身支度を整えなくては。


「サリー、急いで湯浴みを済ませて着替えるわ。」

「かしこまりました。」

サリーに手伝ってもらい、手早く湯浴みを済ませる。

二日ぶりの湯浴みは汚れを落とすだけでなく、強張っていた体をほぐしてくれた。


湯浴みの後、用意されていたデイドレスは私の大きな翼でも着られる意匠のものだった。

公爵家の使用人たちの迅速な仕事ぶりとその配慮は一流なのだと思い知らされた。

身支度を終えるころ、タイミングを見計らったようにアンヌが部屋に入ってくる。


「奥様、お食事をお持ちしました。」

おいしそうな匂いにお腹がぐるぐると音を立てた。


そう言えば、砦からここまで水分補給しかしていなかったのよね…

私は自分の腹を押さえながら、食事をとるために席に着く。


食事を開始しようかと思った次の瞬間、部屋の扉が叩かれた。

レーヌが戻ってきたようだ。


「食事前に申し訳ありません。物資の手配はできました。リンダ様から食後に報告したいことがあると言付かってまいりました。」

「ちょうどよかったわ。私も聞きたいことがいくつかあったの。そうね…リンダが来られるならすぐにでも会いたいと伝えてもらえるかしら?急いで食事を終わらせるわ。」

そう言って、カトラリーを手に取った。


「かしこまりました。現在ルーカス様の診察中ですので、早くとも三十分ほど後になるかと思います。」

ルーカスの診察中と聞いて、食べ始めようとしていた手を止めた。

リンダの気持ちを考えれば、しばらくはルーカスの傍についていたいはずだ。


「やっぱり、急がなくてもいいとリンダに伝えて。それと後でルーカスの見舞いに行くと伝えてくれるかしら?」

「はい。お伝えしておきます。」

レーヌが再び部屋を下がる。


夜通し起きていたのに不思議と眠気はない。

これからのことを考えると頭が冴えてしまう。


私は食事をとりながら、リンダに聞く内容を頭の中で整理した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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