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しばらく無言で走った男が急に立ち止まり、私を荷馬車の荷台に乱暴に投げ入れた。
「っ!」
言葉にならないほどの痛みが全身を襲う。
体に力が入らない…
「残ったのはお前だけか。」
知らない男の声が聞こえた。
おそらく荷馬車で待機していたのだろう。
「そうだ。警備が思いのほかしっかりしていた。くそっ!思ったより深く刺さってやがる。」
「蛇はどうした?」
「ああ。置いてきた。あいつらならうまく逃げるだろう。」
「そうだな。詳細は聞かされていないが、独自の経路があるらしい。」
二人の男の会話に聞き耳を立てた。
「それよりも同胞が何人もやられちまった。最初から覚悟の上だったがそれでも…」
私をさらった男の声が少し硬くなった。
「おい、一刻も早くここを離れるぞ。」
「ああ、わかっている。こいつを拘束してくれ。翼が小さいから飛んで逃げることはないだろう。手足を縛って目隠しするだけでいい。」
私をさらった男の言葉に、荷馬車で合流した男が動き出した。
「大人しくしていれば悪いようにはしない。」
そう言いながら、目隠しをされ、手足を縛られる。
視界が奪われたが、私には耳が残されている。
少しでも情報を集めようと感覚を研ぎ澄ませた。
「お前、ナイフどうするんだ?結構深そうに見えるが…」
「大丈夫だ。今抜けば止血が難しい。拠点まで戻ったら治療する。」
「そうか。じゃあ、もう出発するぞ。」
「ああ。」
そんな会話の後、荷馬車が動き出した。
「それにしても、あいつの情報は確かだった。窓の位置も標的の部屋までの経路も寸分の狂いもなかった。あいつが窓や戸に細工してくれていたおかげで楽に侵入できたさ。」
「そうか。あいつはまだ使えそうだな。」
「他の襲撃はどうなった?」
「拠点に帰ればわかるだろうさ。だが他の標的は大きな翼持ちだ。失敗している可能性の方が高い。」
「忌々しい鳥人族め…!まあいい。本命は手に入れたしな…」
男たちは聞かれていることに気づかずに会話を続けた。
その声音は少し上擦っており、興奮しているように聞こえた。
あいつとはいったい誰だろうかと一瞬思った時、ふとあの内装業者を思い出した。
他の人が作業する中で一人だけ窓枠を念入りに確認していたあの男だ。
まさか…あの男が間者だったの…?
そこまで考えてハッとした。
私がフェリクスの遊具を作りたいと相談しなければ、こんな事態にならなかったのではないか。
自ら敵を招き入れていたなんて、なんと皮肉な話だろう。
それに他の標的と言っていた。
もしかしたら他家も襲撃されているのかもしれない。
これ以上、被害者がいなければいいのだが…
「おい。鳥人族の中には我らより耳の良いものもいるのだろう。こんなに話していて大丈夫か?」
「あんな小さい翼のやつに何ができるんだ。だが念のため拠点に着くまでは黙るか。」
男たちの声は、その会話を最後に聞こえなくなってしまった。
静寂の中、荷馬車が走る音だけが聞こえる。
ここではこれ以上の情報は得られなさそうだ。
リンダとルーカスは無事かしら。
レーヌやサリー、アンヌも心配だ。
それに使用人たちも無事だろうか。
被害はどの程度だろうか。
さきほど男たちが『蛇は逃げるだろう』と言っていたが、リンダの拘束は解かれただろうか。
ルーカスも医師に解毒してもらえていればいいのだが…
二人が無事ならば、公爵邸は大丈夫なはずだ。
そんなことを考えているうちに、私は意識を手放していた。
―――――
「さっさと降ろして檻へ入れておけ。」
私をさらった男の声で目が覚めた私は、また誰かに担がれた。
しばらく移動すると、どこかに降ろされる。
「ちょっと窮屈だが、ここで大人しくしとけ。」
知らない男の声と共に、目隠しと手足の拘束が外される。
岩肌に囲まれた場所に置かれた、不自然な金属製の檻の中に私は閉じ込められた。
私を檻に入れた後、頑丈な鎖で施錠してからその場を去っていった。
耳を澄ますと男たちの会話がわずかに聞こえてきた。
声が洞窟のようなこの岩壁に反響して私のもとへ届く。
かすかに聞こえる会話から単語を拾っていった。
他の標的は失敗。
港を奪う。
開戦は二日後。
挟み撃ち。
北東の街道。
陽動。
さまざまな単語を拾うが、それが何を意味するのか分からない。
唯一分かるのは私以外にさらわれた者がいないことだけだ。
ダグラス様にお会いできた時に役立つかもしれないと、私は必死に聞き耳を立てた。
そんな時、男たちが私について話し始めた。
聞こえた話を総合すると、私を人質にダグラス様を無力化して捕虜にするという計画らしい。
そんなことは許せない。
ここで待っていれば助けが来るだろうか。
もし助けが来なければ、敵の思い通りに事が進んでしまう可能性がある。
ダグラス様が私のせいで捕虜になるなどあってはならないことだ。
私はあの人の弱みになりたくない。
リンダとルーカスのように隣に並んでも恥ずかしくない夫婦となりたい。
翼の封印を解術すれば私は飛べる。
敵は私が飛べることを知らない。
その隙を突けば、ダグラス様のもとへ飛んでいける。
だが、封印を解術した後にどんなことが待ち受けているのか想像もつかない。
アクイラ家以外の鷲族の存在が知られることになれば、どんな未来が待っているのだろうか。
もしダグラス様や公爵邸の皆に迷惑をかけてしまったら?
母の平穏な生活を奪ってしまったら?
その時、私はどうすればいいのだろうか。
ダグラス様の隣にいることができなくなってしまうかもしれない。
それでも、このままここでダグラス様を無力化するための道具に成り下がるのも嫌だ。
服の下に忍ばせたペンダントを握りしめる。
私はどうすべきか、もう答えは出ている気がする…
まだ覚悟を決めることができずに、息を深く吐き出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。




