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片翼の英雄と飛べない花嫁  作者: ayaペンギン
第四部

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侵入者の調査が始まってから数時間後、リンダが私の部屋まで来てくれていた。

いつもこの時間には寝息を立てているはずのフェリクスも私から離れようとしなかった。

それでも、不安が拭えない。


「奥様、そろそろ寝支度を始めましょう。」

そうリンダが声を掛けてくれるが、敵が侵入したかもしれない屋敷で眠る気にはなれなかった。

「もう少し待ってもらってもいい?ルーカスが報告に来るかもしれないわ。」

「かしこまりました。では、もう少しゆったりとしたドレスに着替えましょう。」

私の気持ちを察してか、リンダが提案してくれた。


「それならば、万が一の時でも動きやすいように、薄手の下穿きも用意したほうがいいでしょうか。」

「そうね。薄手の下穿きより乗馬用の動きやすいものの方がいいかもしれないわ。サリー、乗馬用の下穿きと締め付けの少ないドレスを持ってきて。」

レーヌの言葉にリンダが神妙な顔つきで頷いた。


「かしこまりました。」

サリーは短く返事をすると衣装室に向かっていった。


『万が一』、その言葉を聞いて身の引き締まる思いがした。


しばらくした後、薄い黄色の簡素なドレスと黒色の下穿きを持って、サリーが戻ってきた。

ドレスもデイドレスにしては装飾が少なく、腰元もゆったりとしている。

これならこのまま寝ても問題なさそうだなんて思ってしまうほどだった。


サリーとアンヌに着替えを手伝ってもらう。

体の締め付けがなくなり、少しほっとした。


「奥様の髪をほどいてもよろしいでしょうか?」

再びソファへ戻った私にサリーが問いかける。

「ええ。お願いするわ。」

「では失礼いたします。アンヌ、温かいお湯と布を持ってきて。」

サリーは私の髪に触れながら、アンヌに指示を出す。

結い上げられていた髪がほどかれていく。


アンヌが持ってきた湯を含ませた布で、サリーが髪や首元を拭ってくれた。

少しすっきりとした気分になる。


皆、私が少しでも落ち着けるようにと手を尽くしてくれているのを感じた。

夜が更けても私たちは部屋の明かりを落とすことなく、ルーカスの報告を待った。


どれくらい時間が経っただろうか、リンダが一度ルーカスの様子を見てくると言って部屋を出て行った。

何も役に立たない、むしろ足手まといになってしまう私はこの部屋で待つほかない。


「奥様、そろそろ寝台に横になられてはいかがでしょうか?休める間に休んでおくことも奥様のお仕事です。」

「そうね…私が起きていても役に立てないものね。ごめんなさい、迷惑をかけてしまって。」

レーヌの言葉が胸に刺さる。

言いたくはないのに、弱気な言葉が止まらなかった。


「いえ、そういった意味ではありません。ただ、奥様に休んでいただきたくて…差し出がましいことを言って申し訳ありませんでした。」

「レーヌ、謝らないで。気持ちは分かっているわ。つい消極的になってしまったみたい――」

そこまで話したところで、大きな爆発音が屋敷中に響き渡った。

私を守るためか、レーヌとサリーとアンヌが私の傍に集まる。


爆発音は一度ではなく、何度も何度も聞こえてくる。


「何が起こっているの…」

私がそうつぶやくと、部屋の中に四名の警備兵がなだれ込んできた。

「奥様、ご無事ですか?!」

警備兵の一人が私の安否を確認する。


「私は大丈夫。何が起こったの?」

「現在、二名の警備兵を調査に行かせました。詳細はまだわかりませんが、屋敷内のいくつかの箇所で火の手が上がっているようです。調査に行かせた者が戻り次第、この部屋からの避難が必要かどうか判断いたします。」

警備兵の言葉に、気持ちを引き締めた。

私がここで動揺を見せては、混乱を招くだけだ。


「わかったわ。警備の状況はどうなっているの?」

私は不安な気持ちを隠して、気丈に振る舞った。

「現在奥様の警護としては我々四名と、廊下に二名、窓側の庭園に三名おります。それ以外の兵は音の出どころの確認と消火活動をしているかと思われます。」


「そう。状況が分かったら教えてくれる?」

「かしこまりました。」

そんな会話をした次の瞬間、廊下からうめき声が聞こえてきた。

廊下を警護してくれている兵に何かあったのかもしれない。

私の肩に置かれていたレーヌの手を無意識にギュッとつかんだ。


部屋にいる警備兵たちもそれぞれ武器を構え、ピリピリとした空気が漂う。

耳を澄ませるが、何の音も聞こえなかった。

先ほどのうめき声は何だったのか…


バンッ!!

「あいつの情報は正確だったな!おい、ここにいたぞ!」

しばしの静寂の後、自室の扉が乱暴に開け放たれ、見慣れない男性たちが侵入してきた。

目の前で武器を持った警備兵と侵入者の戦闘が始まる。


私は歯を食いしばってその光景を目に収めた。

こちらの倍ほどいる侵入者たちに、一人、また一人と警備兵が倒されていく。

数名の侵入者は切り伏せられていたが、それでもすべてを倒し切ることはできないようだ。

窓から三名の兵が応援に来たが、その時にはすでに部屋にいた警備兵は私に話しかけてくれた一名だけとなっていた。


さらに戦闘は激化し、私はレーヌに窓辺へと導かれる。

「おい!標的が逃げるぞ!!急げ!」

侵入者の男が叫ぶ。

私はその声に固まりそうになる体を懸命に動かして窓辺へと逃げた。


「奥様、ここから飛べますか?」

「私は飛べないの…ごめんなさい。」

レーヌの言葉に咄嗟にそう返してしまった。


「いえ、飛べるかも――」

解術のことを思い出し、再度口を開いたタイミングで強く腕をつかまれた。

振り返ると酷薄な笑みを浮かべた侵入者の男が私の腕をひねり上げていた。


「痛いっ!離して!」

私は必死に抵抗するが掴まれた腕はびくともしない。

「標的は捕まえた!こいつの命が惜しければ抵抗するな。」

私を捕まえた男の言葉が部屋に響いた。

その瞬間、残っていた警備兵は自分の武器を捨てて、その場に膝をつく。

窓から応援に来た三名はもう切り伏せられて動けない様子だった。


侵入者の数は最初の半分以下に減っていたが、この状況ではしかたないだろう。

膝をついた警備兵は縄で縛りあげられて足蹴にされていた。

命までは取られていないことに安堵する。

しかし、私が捕まらなければこんなことにならなかっただろう。

私は唇を強く噛んだ。


その時、視界の端に素早く動く黒い影が見えた。

シャーッと鳴きながら私のもとへ飛び込んできたのはフェリクスだった。

危ない!

そう思った瞬間、フェリクスは私を拘束する男に蹴り上げられ、壁に叩きつけられていた。

叩きつけられたフェリクスはぐったりとして、ピクリとも動かない。

かろうじて息はしているようだが…


「抵抗しないからこれ以上酷いことをしないで!」

そう叫ぶが、男たちは気にした様子がない。


近くにいたレーヌとサリーとアンヌに視線を移し、何もするなと唇の動きだけで伝えた。

三人は悔しそうな顔でじっと動かずこちらを窺っていた。

それでいい。

私は三人に深く頷いて見せた。


「長居は無用だ。ずらかるぞ!」

男は私を肩に担ぎ、窓から外へ飛び出そうと窓枠に足を掛けた。

「奥様を離しなさい!」

「ぐわっ!」

突然、響いたルーカスの声と男のうめき声。

体をひねって確認すると、部屋から飛び出ようとする男の腕にナイフが一本刺さっていた。


「奥様、こちらへ!」

拘束が緩んだ一瞬の隙をついて、レーヌとリンダが私を抱き寄せた。

リンダとルーカスが異変を察知して駆けつけてくれたようだ。


「くそっ!まだいやがったのか!」

私を捕まえていた男は苦々しげな顔で言い捨てた。


「ここからは私がお相手いたします。」

ルーカスはそう言うと、入り口近くに立っていた侵入者を一人蹴り上げ、ナイフを突き刺した。

リンダは私の前へ立ち、私を守ってくれているようだ。

私は男たちから少しでも離れようと、レーヌたちと共に後ろへじりじりと下がった。


「くそ!おい!見てるんだろう!!助けろ!」

私を拘束していた男が天井に向かって叫ぶ。

何を言っているのだろうか?

そう思った次の瞬間、大量の蛇が天井から落ちてきた。


その光景は気味が悪く、おぞましい。

蛇たちが一斉に動く。

最初はルーカスに飛び掛かっていたが、軽くいなされていた。

ルーカスがこんなに強いとは思っていなかった。


一匹、また一匹と倒されていく。

侵入者の男たちもルーカスに次々と倒され、最終的には私を拘束していた男ただ一人となっていた。

もう大丈夫かもしれない。


僅かに気を緩めた次の瞬間、ルーカスからリンダへと向きを変えた蛇の姿が目に入った。

「リンダ!逃げて!!」

私は慌てて声を上げる。

私が声を上げると同時に動いたリンダだったが、蛇たちの移動速度が思いのほか速く、リンダの腕や体を素早く這い上がって締め上げた。


「リンダ!!ぐあっ…!くそっ!」

ルーカスがリンダに気を取られた一瞬の隙を狙って、ルーカスの首に蛇が噛みつく。

ルーカスはすぐに蛇をつかみ、無理やり首から引きはがした。

しかし蛇毒のせいか、ルーカスは痙攣しながらひざまずいてしまった。


「リンダ!ルーカス!」

思わず駆け寄りそうになる私の体にレーヌとサリー、アンヌが必死にしがみつく。


「手間取らせやがって。こいつら全員始末してやる。」

ナイフが腕に刺さったままの男がそう言いながらルーカスへ近づいていく。

ルーカスの首に刃が突きつけられた。


その光景に、私はレーヌたちの腕を振りほどき駆け出していた。

「私が大人しくついていきます!だからこれ以上傷つけないで!!」

ルーカスの首筋には血がにじんでいた。

ここで私がこの男を止める手段は他にない。

悔しいが、これ以上ここで血を流させるわけにはいかない。


「殊勝なことだな。だが、良いだろう。お前さえ手に入ればいい。」

私の言葉に男がルーカスから刃を離し、ナイフの刺さった腕で私を担ぎ上げた。

ナイフの痛みを感じさせない力強さに驚愕する。


「お、おくさま…いけません。」

「奥様!我々のことは捨て置きください!」

ルーカスとリンダの声がするが、私の決意は変わらなかった。

きっとルーカスとリンダならダグラス様に知らせてくれるはずだ。

解術すれば逃げられる可能性もある。


ここは大人しくついていくのがいいだろう。

抵抗する意思はないと示すため体の力を抜いた。


「じゃあな。」

男はそう言い捨てると、私を担いだまま窓から飛び出す。

ふわっとした軽い身のこなしで着地した男は、その先にある塀も軽々と飛び越えていった。

屋敷の外に出た男は、私を担いだまま闇夜に紛れて駆け出した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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