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春らしい、うららかな朝。
私はダグラス様の腕の中で目覚めた。
手をつないで眠るようになってからひと月が経とうとしていた。
共に眠るようになって気がついたのだが、ダグラス様は眠りに落ちたあと、無意識に私を抱き寄せているようだった。
朝起きるといつもこの体勢になっていて、未だにこの恥ずかしさに慣れることができない。
私は高鳴る鼓動を聞かれないように、慎重にダグラス様の腕から抜け出した。
このひと月でもう一つ気がついたのだが、どうやらダグラス様は朝が弱いようだ。
起こしてもなかなか起きず、起きてもぼうっとしている姿が可愛らしい。
こんなことを本人に伝えることはできないが、この可愛らしい姿が見たくて毎朝ダグラス様を起こしていた。
「ダグラス様、おはようございます。朝ですよ。」
優しくダグラス様の肩を揺すった。
「ダグラス様、ダグラス様、起きてください!」
「ん?おはよう…。」
少し大きな声を出すと、ようやくダグラス様は重い瞼を開けた。
ダグラス様が起きたのを確認して寝台横の小さなテーブルの上に置いてあるベルを鳴らす。
私の合図を受けてリンダの足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
しばらくすると、リンダが部屋に入ってきた。
「おはようございます、旦那様、奥様。」
「リンダ、おはよう。」
ダグラス様は眠そうにしながらも、ゆっくりと寝台の上で上体を起こした。
「旦那様を毎朝起こしてくださってありがとうございます。おかげで仕事が一つ減りましたよ。」
「ふふ。そうね。大変そうだわ。」
笑ってそう言うリンダにつられて、私も笑ってしまった。
そんな中、ダグラス様はまだうつらうつらとしていた。
「あぁ、朝か。おはよう、ラナ。」
リンダがカーテンを開けた頃、ようやく覚醒したダグラス様が私に微笑みかけた。
その無防備な笑顔を独り占めしていると思うと、とても嬉しい。
「おはようございます、ダグラス様。本日もいい天気ですよ。」
「ああ、そのようだな。暖かな日差しが気持ちよさそうだ。今日は外で一緒に朝食をとろうか。」
「それは素敵な案ですね。では私は支度をしてまいりますね。」
ダグラス様の言葉に心が躍った。
「では後でな。」
寝台から降り、自室へ続く扉に向かおうとする私にダグラス様が声を掛けた。
振り返ると、ダグラス様はリンダに世話をされていた。
私がお世話を任せてもらえたら嬉しいのにと思うこともあったが、ダグラス様の世話はリンダの仕事なのだそうだ。
「はい。では朝食の席でお会いしましょう。」
私はダグラス様にそう声を掛けると自室への扉をくぐった。
「「「おはようございます、奥様。」」」
自室に足を踏み入れると、いつものようにレーヌとサリー、アンヌが待機してくれていた。
「おはよう。本日は外で朝食をいただくことになったの。準備をお願いできるかしら?」
「かしこまりました。アンヌ、朝食の準備をお願い。」
私の言葉を受けて、レーヌがアンヌに指示を出した。
「準備してまいります。」
アンヌはそう言うと部屋から下がった。
私はサリーに身支度を整えてもらいながら、レーヌと今日の予定を確認した。
昨日母から手紙が届いたので、今日はその返事を書きたい。
私の要望に沿ってレーヌが予定を組み直してくれた。
支度を終えた私は庭園の東屋へ向かう。
東屋へ到着すると、テーブルにはすでに朝食の用意が整えられていた。
ダグラス様はまだ来ていないらしい。
着席し、庭園に目を向けた。
庭園にはスイセンやパンジー、チューリップなど春を告げる花々が咲き乱れている。
共に眠るようになって以降、ダグラス様との朝食が当たり前になっていた。
暖かな春の気候になってからは、外で朝食をとることも増えていた。
朝食も夕食も寝る前の晩酌も、私たちの日常になりつつある。
当たり前の日々がこんなに幸せだなんて、夢でも見ているようだった。
「待たせてすまない。」
考え事をしながら庭園を眺めていると、ふいにダグラス様の声が聞こえた。
「ダグラス様、待ってなどおりません。庭園を眺めながら考え事をしておりました。」
「そうか。何を考えていたのだ?」
「内緒です。」
私の返事に笑みをこぼしたダグラス様が席に着いた。
「では、朝食をいただこうか。」
「はい。そうですね。」
微笑み合いながら、朝食が始まる。
しばらく談笑した後、私はふと最近悩んでいることを思い出した。
「ダグラス様、ご相談したいことがあるのですが…」
「急に神妙な顔つきになって、何か困りごとか?」
「フェリクスが最近太りすぎているように感じておりまして…運動させたいのですが、なかなか思うように動いてくれないのです。庭園に出るのも嫌がりますし、何かいい案を一緒に考えていただけないかと思いまして。」
私が話し終わるとダグラス様がほっとしたような表情を見せた。
「なんだ、そんなことか。いや、ラナが悩んでいるなら大事だな。それなら猫用の室内遊具を作ってはどうだろうか?幸いにも部屋は余っているし、好きな部屋を使うといい。」
「一部屋丸ごと使ってしまってよいのですか?私の部屋の隅でもいいのではないでしょうか。」
相変わらずのスケールの大きさに驚かされる。
「ラナの部屋に作っては部屋が狭くなってしまうだろう。それに工事中、また客間へ移動しなければならなくなる。ラナの部屋に一番近い空き部屋に遊具を作るのがいいと思うぞ。」
「ご配慮くださりありがとうございます。それではルーカスに相談してみますね。」
私はダグラス様の好意をありがたく受け入れることにした。
「ああ。ルーカスには私から伝えておこう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
ダグラス様のこういった心配りができるところを好ましく思う。
朝食後、自室へ戻った私は母へ手紙を書くため筆を執った。
母からの手紙にはいつも、毎日楽しく暮らしているという言葉と私を気遣う言葉が並んでいる。
しかし今回の手紙にはそれに加えて、衝撃的なことが書かれていた。
どうやら、最近よく行く商家の跡取り息子に告白されたらしい。
かなり年下らしく、母は丁重にお断りしたと書いてあった。
『まだまだ捨てたもんじゃないわね』なんて書かれていたが、母の生活が不便になることはないのだろうかと少し心配になった。
母への手紙をちょうど書き終えた頃、ルーカスが私を訪ねてきた。
「奥様、旦那様よりフェリクスの遊具について伺ってまいりました。」
「そうなのよ。突然で申し訳ないのだけれど、フェリクスが運動できるような遊具を作りたいの。あまり動きたがらないフェリクスが思わず動きたくなるような、そんな遊具ができればいいのだけれど…」
ルーカスに私は要望を伝えた。
「かしこまりました。では、馴染みの内装業者に依頼いたします。こちらのお部屋の内装も担当した業者ですよ。」
「そうなのね。業者の手配はルーカスにお願いするわ。設計の打ち合わせに同席してもいいかしら?」
「ええ。もちろんでございます。」
ルーカスが手配してくれるのなら安心して任せられるだろう。
どんなものができるか今から楽しみだ。
「では私は早速、業者に連絡を入れておきます。明日にでも打ち合わせの場を設けますので、少々お待ちください。」
「ありがとう。よろしくお願いね。」
私がそう返すと、ルーカスは部屋から足早に出て行った。
ダグラス様とルーカスの仕事の速さに驚かされるばかりだ。
―――――
今日もいつも通りの一日を終え、ダグラス様の晩酌に付き合う。
一口だけワインをいただいたことがあるが、独特の渋みが好きになれず、それ以来飲んでいない。
ダグラス様はその渋みがいいのだと仰るが、それを理解するにはまだまだ月日がかかりそうだ。
「フェリクスの遊具の件、明日にも業者と打ち合わせをすることになりました。早速のご対応ありがとうございます。」
「気にするな。ちょうど執務が落ち着いている時期だからできたことだ。」
改めて礼を言うと、ダグラス様がそう返してくれた。
「それにしてもフェリクスは大きくなったな。」
「大きくなりすぎたとも…」
私たちは部屋の隅で丸くなるフェリクスに視線を移す。
そんな視線に気がつくことなくフェリクスは目を閉じた。
そんな姿を見て、ダグラス様と私はふっと同時に笑い出す。
その後も眠気が来るまで二人で談笑し、穏やかな一日を終えた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




