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ダグラス様がクッキーを喜んでくださって良かった。
私はそんなことを考えながら自室へ戻った。
今日の午後は手紙を書く予定だ。
最近は貴族らしい手紙を書くのにも慣れてきていた。
社交には出ていないものの、他家からお茶会の誘いなどがたまに届くことがあった。
それに対する返信は私の仕事となっていた。
今日はそれに加え、私の母と、ダグラス様のお父様とお母様に宛てて手紙を書く予定だ。
いつも返事を書いてくださるのはダグラス様のお母様だが、その文面から優しさや気遣いが伝わってくる。
月に一度程度のやり取りではあるが、私はその手紙を楽しみに待つようになっていた。
今回の手紙には『今度お会いした時に、ダグラスの幼少期の話を聞かせてあげるわね。』と書いてあった。
今から会うのが楽しみだ。
私は机に向かい筆を執った。
しばらくの間、文字を書く音だけが自室に響く。
「奥様、そろそろ夕食のお時間ですので、支度をいたしましょう。」
ちょうど最後の手紙を書き上げたところで、レーヌに声を掛けられた。
もうこんな時間になっていたのか。
私は肩のこりをほぐすように、腕を回した。
「この手紙を出しておいてちょうだい。」
「かしこまりました。」
レーヌに手紙を託すと、支度をするため鏡台の前へ向かった。
サリーとアンヌに手伝ってもらい、支度を終えた私は自室を出て歩き出す。
今日は伯爵家への処罰をダグラス様に願い出よう。
母と会った時に感じた怒りの炎はまだ心の中で燃え続けていた。
食卓に着いた私はダグラス様と挨拶を交わし、料理に手を付ける。
「本日は差し入れ感謝する。美味しくいただいたよ。」
ダグラス様が改めてお礼を言ってくれる。
「喜んでいただけたようで良かったです。」
私はその言葉ににこやかに返事をしながら、いつ伯爵家の話を言い出すべきか考えていた。
食事が進むがいつものように会話が弾まない。
伯爵家の話をいつするか考えるあまり、口数が少なくなっていた。
「どうかしたのか?口数が少ないようだが。」
「申し訳ありません。」
私を心配したようにダグラス様が声を掛けてくれる。
言うなら今かもしれない。
「あの、聞いていただきたい話があるのです。」
私は食事の手を止め、ダグラス様に向き直る。
「以前ダグラス様は、伯爵家への復讐を望むかと聞いてくださいましたよね?私はその時、復讐は望まないと答えました。ですが、伯爵が母を騙して苦しめたという事実を知った今では、それを許すことはできそうにありません。」
「それは当たり前の感情だろう。では、復讐を望むか?」
意を決して話し始めた私に、ダグラス様が再度尋ねた。
「いえ、復讐などという大げさなことは望みません。ですが、私たち母娘のような不幸をこれ以上生まないように、伯爵家がやったことを白日の下に晒し、正当な罰を受けていただきたい。それが私の願いです。」
「そうか。では王にこのことを進言しよう。法の下で裁くには限界がある。王家主催の行事など、正式な社交への参加を禁ずる程度になるかもしれない。それでも良いか?」
私の言葉を真剣な表情で聞いてくれていたダグラス様は王に進言してくださると言った。
どんな罰でも構わない。
平民の母にしたことを罪に問うのは難しいかもしれない。
それでもダグラス様が動いてくれることが、私は嬉しかった。
「十分でございます。ありがとうございます。」
ダグラス様に深々と頭を下げ、感謝を示す。
「ラナにとって当然の権利だ。だが感謝は受け取ろう。最大限努力するよ。」
「はい。ありがとうございます!」
ダグラス様にお任せすれば間違いないだろう。
私自身にできることがないのが少しもどかしいが、今はこれが最善だと思った。
伝えたいことを伝えられた私はふっと肩の力を抜く。
その後もいつも通りとはいかないものの、少しずつ会話も弾み始めた。
―――――
夕食を終え自室に帰った私は、寝支度を整えて寝台に横になっていた。
寝返りを打ち、部屋に二つある扉の一つに視線を移す。
あの扉の向こうは夫婦の寝室が、そしてそのまた先にはダグラス様の部屋があるのね。
いつでも会いに行ける距離に少しドキドキしてしまう。
でも、不思議とダグラス様の部屋から話し声や物音は聞こえない。
特殊な作りになっており、些細な音も漏れないよう工夫されているらしい。
あちらの音が聞こえないこともそうだが、こちらの音が聞こえないということに安堵した。
聞かれて困るようなことはないが、もし聞こえるような状況だったらかなり恥ずかしかっただろう。
そこまで考えて、もう一度寝返りを打った。
今日はなかなか眠れない。
寒さのせいかもしれない。
ダグラス様が隣にいてくれたら…そこまで考えて、ハッとした。
今私は何を考えていたのだろうか?
ドキドキと鼓動が速まるのを感じた。
ファベルの街で一度だけ共に眠ったことが忘れられない自分がひどく恥ずかしい。
枕に顔を押し当てて何度も深呼吸を繰り返した。
次第に眠気が襲ってくる。
私はその波に身を任せ、瞼を閉じた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




