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母から術を解く方法を聞き終わったので、外で待つダグラス様を探しに家を出た。
辺りを見渡してもどこにもいない。
もしかしたら会話を聞かないようにかなり遠くへ行ってしまったのかもしれない。
しばらく目を凝らしていると、レーヌがこちらへ向かってくるのが見えた。
「奥様、旦那様をお呼びしますか?」
私のところまで来たレーヌに尋ねられる。
「そうね。お願いできるかしら?」
「かしこまりました。では室内でお待ちください。」
そう言うと、レーヌは踵を返した。
「アクイラ公爵様は誠実な方ね。」
室内に戻ると、母にそう声を掛けられた。
「ええ。ダグラス様のおかげで毎日楽しいわ。最近猫も飼い始めたのよ。」
「あらまあ!素敵な旦那様に嫁いだみたいで安心したわ。どんな猫なの?」
母に旦那様のことを褒められて少し照れくさい。
「黒猫なの。まだ子猫でとっても可愛らしいのよ。最近は懐いてくれてよく膝に乗ってくるわ。」
「そうなの。名前はなんていうの?」
「まだ決めていないわ。ダグラス様と相談して決めたいと思っているの。」
何気ない会話が続くのがとても嬉しい。
二年以上会えていなかったなんて嘘のようだ。
「公爵邸の庭園にはいろんな花が植えられていてね、私はその中でもデルフィニウムが好きなの。」
「素敵ね。公爵邸の庭園なんて想像もつかないわ。」
「今度一緒に――」
そう言いかけた時、玄関の扉がノックされた。
「きっとダグラス様だわ。」
私は席を立ち、扉を開ける。
そこには予想通りダグラス様の姿があった。
「話は終わったか?」
「はい。今は庭園について話していました。どうぞ中にお入りください。」
私の言葉に「そうか。」と短く答えたダグラス様が家の中に入る。
「レイラ殿、我々は明日帰還します。もしよろしければ一緒に来ていただけないだろうか。その方がラナさんも安心できるでしょう。公爵邸でも、近くの街でも希望するところに住居を用意したいと考えています。」
「いいのですか?!」
その言葉が嬉しくて、ダグラス様を見上げた。
「ラナ、落ち着きなさい。アクイラ公爵様の申し出はありがたいのですが、私は、この家で暮らしていきたいと考えております。母と、そしてラナとの思い出の詰まった我が家を離れるつもりはありません。ラナのために多大なるご配慮をいただき感謝いたします。」
ダグラス様に深々と母が頭を下げる。
母には母の生活がある。
それを無理やり奪うのはコルビダエ伯爵と同じではないか。
私は自分が恥ずかしくなった。
「そうですか。それは残念です。ではいつか公爵邸へ遊びにいらしてください。庭園を母娘で楽しんでいただきたい。」
「ありがとうございます。ぜひお願いいたします。」
ダグラス様の言葉に母が嬉しそうに微笑む。
「お母さん、手紙を書くから今度は返事をしてね。」
「その件はごめんなさい。必ず返事を送るわ。」
「必ずよ!」
私が母の手を両手で握ると、「わかったわ。」と笑顔で返事してくれた。
「私はそろそろ宿屋へ戻るが、君はここへ残るか?一晩一緒に過ごしてもいいのだぞ。」
「え…」
予想外の問いかけに言葉が詰まる。
宿へ戻ることが当たり前だと思っていた。
ダグラス様と離れることを考えると急にもやもやした気持ちになる。
なぜだろうか?
母の傍を離れがたいが、それ以上にダグラス様と離れたくないと思う自分に驚く。
いつの間にかダグラス様と共にいるのが当たり前になってしまっていた。
「嬉しい提案ではありますが、私はダグラス様と共に宿に戻ります。」
「本当にいいのか?」
私の言葉に訝しげな顔をするダグラス様。
「はい。本当です。お母さん、もう一度抱きしめてくれる?」
「もちろんよ。」
私の言葉に母が強く抱きしめてくれた。
私も母のぬくもりや匂いを忘れてしまわないように、しっかりと抱きしめ返す。
「うん…もう大丈夫!お母さんありがとう!」
一度体を離すと涙がこぼれ落ちた。
「また会えるわ。だから泣かないで。」
そう言う母も少し涙声だ。
「お母さん、元気でね。手紙をたくさん書くわ。」
「待っているわ。幸せになるのよ!」
「今も十分幸せよ。じゃあまたね。」
「ええ。またね。」
別れの言葉を交わし、家を出る。
母も家の外まで見送りに出てきてくれた。
私と母はお互いの姿が見えなくなるまで手をふりながら別れを惜しんだ。
「本当に良かったのか?」
母の姿が見えなくなった後、ダグラス様に確認される。
「はい。私の居場所はもうここにありますから。」
ダグラス様の腕をつかむ手に少し力を込める。
「そうか。君の居場所になれて嬉しく思うよ。」
穏やかな声でそう言ったダグラス様を見上げたが、西日が眩しすぎてどんな表情をしていたか分からなかった。
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