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ルーツが知りたい。
そう言われてからひと月ほどが経った。
ルーツについての調査はまだ時間がかかりそうだと聞いている。
本格的な寒さを前に使用人たちが冬支度のために忙しく動き回っていた。
私はほぼ日課になっている旦那様との夕食の席に着いていた。
「明日の午後、書斎へ来てもらえるだろうか?」
「はい。承知いたしました。」
夕食が終わり席を立とうとする私に旦那様から声がかかる。
突然の誘いに何かあるのかしら?と一瞬思った。
しかし、悪い話ではないだろうと、その場で用件を聞くのはやめた。
―――――
次の日の午後、私は書斎で旦那様と向かい合って座っていた。
「お茶でも飲んでくつろいでくれ。」
用件の前にお茶を勧められた。
私は不思議に思いながらもティーカップに口をつける。
「――本日呼んだのは婚姻契約に関してだ。」
旦那様が言いにくそうに口を開いた。
「婚姻契約時の三つの条件は覚えているだろうか?」
「はい、覚えております――。」
旦那様のその質問に、婚姻契約時の条件をそらんじた。
健康を取り戻すまでは妻としての務めは求めないこと、
その後は後継者問題解決のために互いに協力すること、
それ以外の時間については互いに干渉しないこと、
その三点だったはずだ。
「その通りだ。そして現在、君は健康を取り戻して少しずつ妻としての務めを果たしてくれている。」
「少しずつですが、仕事も勉強も楽しくさせていただいております。」
旦那様は何をおっしゃりたいのだろう?
私の頭の中が疑問符でいっぱいになった。
「ゴホンッ。――それでだ、後継者について君の意思を確認したいんだ。意味は分かるか?」
咳払いをした後、言いにくそうな旦那様の言葉に、カーッと体が熱くなるのを感じた。
「わ、わかります…。」
妻として後継者のことを考えなければならない。
そのことをなぜ忘れていたのだろうか。
私は恥ずかしさと忘れていたことの衝撃をこらえながら、何とか返事をした。
「そ、そうか。君の意思を尊重したいと思っているから、すぐに結論を出さなくても良い。時期や体調面など相談したいことがあれば、医師を手配することも可能だ。君が嫌ならば無理をさせるつもりはないので、素直な気持ちを教えてほしい。」
なんとお優しい言葉だろうか。
少し怖いが、今すぐという話ではない。
旦那様は私の意思を尊重してくれると言ってくれた。
「わかりました。少し…考えさせてください。」
私がそう返事をすると、
「それでいい。」
と旦那様が穏やかな声で言ってくださった。
その後は他愛もない話を少ししてから、書斎を辞した。
その話の中に、もうすぐ公爵夫人の部屋と夫婦の寝室が完成するという話題もあった。
夫婦の寝室を挟んで旦那様の私室の反対側が公爵夫人の部屋であり、この三つの部屋は扉でつながっている。
部屋作りの打ち合わせは何度もしたが、部屋の役割を正しく理解できていなかった。
その意味にようやく気が付いた私は、体から湯気が出そうなほど赤くなっていることだろう。
客間へ戻った私は、ソファのクッションに顔を埋めた。
はしたないとは分かっているが、自分の今の表情を誰にも知られたくないのだ。
誰も私に声を掛けようとはしない。
しばらく、深呼吸を繰り返した。
ちゃんと向き合わなければ。
そう思うものの、なかなか落ち着くことはできなかった。
――――
その日の夜、寝台に入った私はここへ来てからの出来事を思い返す。
リンダは母のように接してくれて、私に安心感を与えてくれる。
ルーカスは歴史や情勢、領地の話など、様々な知識を与えてくれる。
アンヌはいつも元気いっぱいで私に元気をわけてくれる。
サリーは細かいところまでよく目が届いていて、私が気落ちした時には何も言わずとも大好きなハーブティーを淹れてくれる。
レーヌは面倒見がよく、先回りしてよく助けてくれる。
そして、ダグラス様。
彼の優しさは温かく、私に安心できる居場所を与えてくれる。
もう明日の食事を心配することも人の顔色を窺い続けることもしなくていいのかもしれない。
私は私らしくいてもいいのかもしれない。
明日はチョコレートのケーキが食べたい、そう言ってみようかな?
そんなことを考えながら眠りについた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
第二部はここで完結です。
引き続き第三部も毎日21時投稿を続ける予定です。
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