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次の日の朝、朝食を終えた私はルーカスのもとへ再びやってきていた。
今日は楽しみにしていた歴史の授業だ。
高揚する気持ちを抑えてルーカスの言葉を聞き漏らさないように集中する。
まず聞かされたのは、鷲族の過去についてだった。
その昔、鷲たちは空の覇者としてこの地を治めていたそうだ。
しかし、政治や人との関わりに疲れ、多くの鷲たちは人の世界から離れた。
彼らは滅びたわけではなく自由を選び、山岳地帯などの人の目の届かない場所で静かに暮らすようになったという。
「どうしてアクイラ家はこの地を離れなかったのですか?」
「良い質問ですね。それこそがアクイラ公爵家の成り立ちにつながります。」
ルーカスが続けて公爵家の成り立ちを教えてくれる。
鷲たちが去った後アクイラ家の祖先たちはこの地に残った。
その理由は現王家の祖先との古い盟約によるものであった。
アクイラ家の祖先と現王家の祖先は古くからの友人関係であったらしい。
当時の王に乞われたアクイラ家の祖先は王国の守護者としてこの国に残ることを決めたのだという。
その代償として、王家はアクイラ家を唯一の公爵家とし、何人たりともアクイラ家に口を出すことはできないと取り決めたそうだ。
「王家であっても何も命令できないということですか?」
「そうでございます。公爵家が空からこの国を守るというのも、アクイラ家がそうしたいからそうしているに過ぎません。」
ルーカスの言葉に私は違和感を覚えた。
「それって王家より偉いということでしょうか?」
「ある意味、そうと言えるでしょう。ですが王家の人間もそれが分かっているが故に、アクイラ家と良好な関係を築こうと努力されています。王家の努力がある間はアクイラ家も王家を尊重いたします。」
ルーカスの言葉を理解するのに少し時間がかかったが、とんでもない家へ嫁いだのだということだけはすぐに理解できた。
「なぜ私が嫁ぐことになったのでしょうか…?」
ずっと気にしていたことを、ようやく口にすることができた。
「それは…鷲族は伯爵家以下の貴族家との間に子孫を残す必要があるからです。」
ルーカスは少し言いにくそうに言葉を切った。
「なぜ、侯爵家ではだめなのですか?」
他にも理由がありそうだけど…
私はそう思ったがいったん飲み込んで気になることを質問した。
「侯爵家の鷹族や梟族、隼族では血が強すぎるのです。逆に伯爵家以下の鳥人族ならば鷲族の血が勝ち、必ず鷲族が生まれるので、婚姻は伯爵家以下となります。」
ルーカスの説明になんとも不思議な気持ちになる。
「婚姻相手にコルビダエ伯爵令嬢が選ばれた理由をお聞きしてもいいですか?」
私は伯爵家で婚姻を告げられた日を思い出す。
たしか、伯爵はレジーナと私のどちらでもいいと言っていた。
あの時は何も気にならなかったが、改めて公爵家の歴史や事情を聞くと違和感を覚える。
「それについてですが…まずは先の戦争に触れる必要がございます。五年前の戦争は覚えていらっしゃいますか?」
「はい。もちろんです。隣国が我が国に攻め入ろうとしたのを国境で防衛し、勝利したと…」
唐突に始まった戦争の話に、私は母から教えてもらった戦争の話を思い出しながら答えた。
「よくご存じですね。その戦争で勝利はいたしましたが、悲運にも旦那様は片翼を失ってしまいました。」
あの時は、遠い世界の話だと聞き流していた。
しかし、国の守護者たる旦那様は戦っていた。
あの厳しくも優しい旦那様が戦場で命を懸けて戦っていた…そして負傷まで…
急に身近に感じた戦争に体が震える。
「そして、片翼を失った旦那様を貴族社会は受け入れてはくれなかった。翼を失ってもなお最強の軍人である旦那様を軍閥の者は英雄と呼び、尊敬しております。しかし、軍閥貴族といえば侯爵家以上の者が多いですから…」
一気に重くなる空気に一言も話すことができない。
貴族たちは旦那様の何を見て受け入れられなかったのだろう…
あんなに立派な翼を持っているのだもの。
あの翼なら片翼でも空を飛べそうだわ。
片翼を理由に旦那様を受け入れられない貴族たちの考えが私には不思議でたまらなかった。
それでもなお英雄として尊敬を集める旦那様は、やはりすごい方なのだなと思った。
「伯爵家や子爵家の鳥人族に縁談を持ちかけましたが、了承の返事を頂けたのはコルビダエ伯爵家だけでした。」
ルーカスの言葉のあと、沈黙が流れる。
ようやく私は、公爵家へ嫁ぐことになった理由を理解できた。
「本日はお時間となりましたので、授業はここまでに致しましょう。機会があれば旦那様に戦争について聞いてみるのもよろしいかと思いますよ。たくさんの武勇伝がございますから。」
空気を変えるようにパンッと手を打ちながらルーカスがそう言った。
「ありがとうございました。」
私は何とか感謝の言葉を絞り出し、客間へ戻るために席を立った。
旦那様のおかげで今の平和な世の中があるのね。
戦争の話を旦那様に聞いてみてはと言われたけれど…
古傷に触れるようなことは聞けないわ。
午後の授業が始まるまで私は先ほどの授業で頭がいっぱいだった。
―――――
今日の授業は夕食の時間を利用してのテーブルマナーの確認だ。
入室、着席からテーブルマナーは始まるらしい。
細かな所作まで逐一チェックが入り、一瞬も気が抜けない。
食事前にもかかわらず、緊張で手に汗がにじむ。
「邸内でのお食事では基本のマナーさえできていればよろしいのですが、外でのお食事の際には気を付けていただく必要があります。――奥様、姿勢が崩れております。」
リンダの言葉に少し気が抜けてしまった私はすぐに姿勢を直す。
その後、カトラリーの使い方から始まり、スープ、パン、メインとそれぞれの食べ方の指導が続く。
最後の退席まで気を抜くことができず、今日の夕食が終了した。
「奥様は姿勢がよいので、所作が美しく見えますね。」
最後にリンダが褒めてくれる。
「ありがとう。」
そう返事をしながらも、今日の夕食は緊張で味がしなかったなと残念な気持ちになった。
客間に戻った私は寝支度をして寝台に横になる。
今日も平和に眠れるのは旦那様のおかげね。
私は旦那様に感謝しながら眠りについた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




