レイヤー83 生まれてきたのに
やっと調査に進展があった。
しかし、
もたらされた情報にも
不快感が漂っていた。
異常気象が急に収まり
街道の復旧が即座に始まった。
村の外れでも
崩れた土砂の撤去作業が進められていた。
その時、
作業員の一人が手を止めた。
「…え…骨?」
土の中から。
白いものが覗いている。
慎重に掘り進める。
ひとつ、
またひとつ。
さらに
その下から。
次々と骨が現れた。
それは…
夥しい数だった。
知らせを受け
洋蔵は現場へ向かった。
そして
言葉を失った。
「……全部」
近寄らなければ分からないほど
とても…
とても小さな骨だった。
大人ではない。
子供でも…ない。
これは…
赤ん坊。
しかも、生まれて間もない。
あるいは、
生まれることすら
できなかった命の痕跡。
柔らかく小さな遺骨。
洋蔵は
一つずつ確認する。
外傷
なし。
骨折
なし。
病気の痕跡
なし。
不自然な損傷もない。
火葬されたものでもない。
ただ
魔力の残滓だけが
微かに残っている。
「殺されたのか?」
研究員が尋ねる。
洋蔵は
首を横に振る。
「違いますね」
「では……」
「殺害ではない」
魔力の流れ。
残された術式の痕跡。
地中に残る。
ごく微かな魔法陣の構造。
洋蔵は
しばらく黙っていた。
そして
低く言う
「おそらく…儀式です」
研究員の顔が強張る。
「人柱か…」
その言葉だけが
重く落ちた。
洋蔵は
周囲を見渡す。
ここは
村の外れ。
誰にも見つからない場所。
土砂に埋まっていた。
隠されていた。
いや
隠したかったのだろう。
そして
その時、
風が吹いた。
ほんの微かに
匂いがした。
洋蔵は
足を止める。
「……この匂い」
香水。
あの酒場で
残っていた匂い。
あの時
聞こえた
微かな詠唱。
誰かが
何かをしていた。
あの香水。
今、目の前にある
骨
人柱
魔術
香水
すべてが一本の線で
繋がり始める。
洋蔵は無意識に
あの夜のエールを思い出していた。
苦い。
舌に残るあの味。
「……そういうことか」
まだ
確証はない。
だが、
ここから先に待っているものは
誰かが納得するような
明るい結末ではない。
異常気象
精神干渉
謎の詠唱
そして
人柱。
洋蔵は静かに
遺骨へ視線を落とす。
小さな手
小さな指
生きることすら
選べなかった命
「……生まれてきたのに」
誰に向けた言葉なのか
自分でも
分からなかった。
雨上がりの空には
薄い雲が残っている。
村では
復旧作業が続いている。
人々は
明日の生活を考えている。
だが
その足元には
誰にも知られず
忘れられた命が
眠っていた。
そして
洋蔵は気づく。
この厄災は
天候だけではない。
人間が人間の命を
何かのために
使っている。
昏く陰鬱な結末が
すぐそこまで迫っていた。




