レイヤー80 温度差
暑いと暖かい
寒いと涼しい
体感温度によって変わる
異常気象は
まだ続いていた。
豪雨。
落雷。
地形そのものが変わるほどの降水量。
さっきまで道だった場所が
濁流になっている。
山肌が崩れ。
河川の流れまで変わっていた。
昼と夜の気温差も
異常だった。
昼は焼けるように暑い。
夜は砂漠のように冷え込む。
防寒と暑さ対策。
その両方が必要になる。
そして、時には
空にオーロラまで現れる。
この地域だけ
空そのものが
壊れているようだった。
街道も
すでに機能していない。
橋は流され
道は寸断され
周囲は
完全な陸の孤島と化している。
「……災害としても」
研究員が空を見上げる。
「異常すぎるな」
洋蔵も同意する。
自然現象の組み合わせとして
説明がつかない。
しかし、そんな状況でも。
村は妙に活気づいていた。
行商人たちが
足止めされているからだ。
街道が復旧しない。
移動できない。
なら、ここに留まるしかない。
食堂。
宿。
酒場。
そして
娼館。
どこも
連日の満員御礼。
村人たちは忙しそうに働いている。
商人たちは
酒を飲み
食事をし
情報交換をしている。
まるで祭りだった。
「経済効果だけ見れば」
研究員が呟く。
「大したもんだな」
洋蔵は
食堂の喧騒を眺める。
「活気があるのは」
「悪いことではありません」
一拍。
「ですが」
視線を外へ向ける。
壊れた街道。
崩れた山。
濁流。
「とても遊ぶ気にはなれません」
調査は、
進んでいない。
手掛かりもない。
禁呪の使用者。
術式の痕跡。
発生源。
何ひとつ掴めない。
ただ、天候だけが
狂い続けている。
洋蔵は、調査資料を広げる。
豪雨。
落雷。
極端な寒暖差。
オーロラ。
気圧異常。
魔力濃度。
どれも
因果関係が繋がらない。
「……おかしい」
研究員が尋ねる。
「何が?」
洋蔵は
資料を指でなぞる。
「全部異常なのに」
「原因だけが見つからない」
外では
商人たちの笑い声。
酒場の喧騒。
祭りのような活気。
そのすぐ外では。
世界が
壊れ続けている。
洋蔵は
ふと、その違和感に気づく。
「……温度差」
「何?」
「この村です」
洋蔵は。
賑わう通りを見る。
「外は災害です」
「でも」
「中は繁栄している」
一拍。
「同じ場所なのに」
研究員は。
しばらく黙っていた。
「……それも」
「厄災の一部か?」
洋蔵は、
まだ答えを出せない。
ただ、目の前の光景を
記録する。
異常な気象。
異常な経済効果。
そして、何も分からない。
原因。
円が
また一つ。
更新される。
気象。
災害。
魔力。
そして、この温度差。
洋蔵は
雨音を聞きながら
次の調査資料を開いた。
「……手掛かりを探しましょう」
祭りのような喧騒の中で
これまでとは違う
厄災が静かに
続いていた。




