レイヤー79 生かされている
おっさんは
事実を知らされる
調査は
これで六つ目。
禁呪の使用が疑われる異常気象。
その発生地域にある
小さな村だった。
村といっても
そこには宿場町のような役割があった。
行商人が立ち寄り
物資を積み替え
旅人が身体を休める。
次の街へ向かうための
中継地点。
そんな場所だった。
だが、今は空がおかしい。
雨。
晴天。
突風。
雷。
豪雨。
それが、
まるで季節も時間も無視して
入れ替わっている。
ありえない。
自然現象ではない。
誰かが
天候を操作している。
なら、何のために?
洋蔵は考える。
だが、頭が回らない。
身体が重い。
土石流に巻き込まれ。
何時間。
いや、何日も
まともに休んでいない。
「……駄目だ」
思考がまとまらない。
その時、
見覚えのある顔があった。
「あぁー!洋蔵だ!」
はぐれていた研究員たちだった。
互いの無事を確認する。
そこで、一人だけ
足りないことに気づく。
あの時、
自分を突き飛ばした研究員。
いない…
洋蔵は何も言わず。
研究員たちの顔を見る。
答えは
すぐに分かった。
「……亡くなりました」
遺体には
布が被せられている。
だが、洋蔵は
その布に違和感を覚えた。
不自然だった。
「……見せてください」
布をめくる。
欠損。
遺体は、
一部しか回収できなかった。
土石流。
あれだけの濁流に
巻き込まれたのだ
遺体があるだけマシだろう。
洋蔵は、
しばらく黙っていた。
ポケットに残っていた。
魔力の残滓。
まだ、ほんの少しだけ使える。
洋蔵は
魔法陣を展開する。
それは
治療ではない。
蘇生でもない。
失われた肉体を
最低限
元の形へ戻していく。
骨を
皮膚を
欠けた部分を
血の通わない義肢に置き換えて
ゆっくりと
修復していく。
仮初の肉体を…
やがて
遺体は穏やかな表情の
眠っているような姿になった。
研究員が尋ねる。
「禁忌を…蘇生を試みたのか?」
洋蔵は首を横に振る。
「…違います」
一拍。
「死に化粧です」
もう、生き返らない。
だから
せめて
最後くらい
その人らしい姿で
送り出したかった。
洋蔵は
遺体に手を合わせる。
何も言わない…。
周囲の喧騒と沈黙が混ざり合う。
目を瞑ると
背中に何かを感じた。
あの時…
突き飛ばされた感覚。
濁流から
押し出された感覚。
そして、
声のない声。
――生きろよ
轟音にかき消された
最後のメッセージ。
そんな気がした。
もちろんこれは
勝手で都合の良い解釈でしかない。
彼はもうここにはいないのだから
その意思を確認することは叶わない。
魔法を使って死者と会話ができたら
いいのにな…
それも禁呪になるだろうか?
異世界に転生させたら…
何を…バカなことを
私は何を考えているのだろうか…
洋蔵は空を見上げる。
魔力を含んだ雨が降っている。
まだ、この土地では
異常気象が続いている。
まだ、調査は終わっていない。
原因も分かっていない。
それでも
今は歩けなかった。
身体が限界だった。
洋蔵がその場に座り込む。
「……少しだけ」
目を閉じる。
「休ませてください」
そのまま意識が落ちた。
一日
二日
三日…
洋蔵は眠り続けた。
そして、数日後。
ようやく
目を覚ます。
身体はまだ重い。
だが、頭は少しだけ
はっきりしていた。
窓の外。
雨はまだ降っている。
洋蔵は
ゆっくりと起き上がる。
自分はまだ生きている。
自分だけの力で
生き残ったわけではない。
助けられた。
生かされた。
だから、歩かなければならない。
誰かが
その命を投げ出してまで
繋いだ明日を無駄にしないために。
洋蔵は、静かに立ち上がった。
「…さてと…行きますか」
まだ、
厄災は終わっていない。
おっさんは
回復に時間がかかる




