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レイヤー75 結界の意味


外からでは


施設の中を確認できない。


結界が


視界そのものを遮っている。


ただ、


中にかなりの数の信者がいることだけは


間違いなかった。


結界越しに


施設の周囲を確認する。


倒れている。


何人も


血を流している。


まだ生きている者もいる。


だが、その身体には


明らかな変異が始まっていた。


皮膚。


骨格。


魔力回路。


魔物化の兆候。


研究員が息を呑む。


「……何が起きてる」


洋蔵は答えない。


あまりにも。


不穏だった。


まるで


施設の中だけ


別の災害が起きている。


「クーデターでも起きたのか」


可能性としては


十分にある。


だが、それなら


なぜ結界を張り続ける。


なぜ、外からの侵入だけでなく


内側からの衝撃まで


押さえ込む。


洋蔵は結界を解析し続ける。


「こんなところ」


「絶対に入りたくないんですが」


研究員が苦笑する。


「強制捜査だからな」


「分かっています」


命令書を確認する。


私には拒否権はないらしい。


だから、入る。


そのために


解析する。


解除する。


しかし、


数日経っても入れない。


解除したそばから


内側から


新しい結界が張り直される。


「またです」


「向こうも分かっている」


洋蔵は術式を追う。


結界。


解析。


解除。


再構築。


まるで


こちらの手順を知っている。


当然だった。


相手は


未来を予知できる。


こちらが何をするのか


どこを突破するのか


どの結界を狙うのか


予測されている。


研究員が言う。


「攻撃魔法がなくても」


「十分に戦えるだろうな」


洋蔵は頷く。


催眠。


幻覚。


誘惑。


麻痺。


状態異常。


信者の数も


相当いる。


徹底抗戦するなら


十分な戦力だ。


だからこそ


疑問が残る。


「……なら」


「何でこんなことを」


時間稼ぎ。


そうとしか思えない。


結界を張り直し。


こちらを拒み。


ただ


時間だけを稼いでいる。


洋蔵は


術式を解析する。


そこで


違和感に気づいた。


「……これ」


「どうした?」


「結界が」


一拍。


「綺麗じゃない」


研究員が眉をひそめる。


外側から見れば。


完璧だった。


幾重にも張られた。


強固な結界。


だが


内側へ進むほど


術式の繋ぎ方が


雑になっている。


同じ術式を


必要以上に重ねている。


一部は


明らかに過剰。


一部は


余計な干渉を起こしている。


まるで


計画的に設計されたものではない。


洋蔵が呟く。


「慌てて」


「覆い隠しているみたいだ」


研究員が


施設を見る。


「誰が?」


洋蔵は答えない。


解析は


もう少しで終わる。


自動解除術式を組める。


これを使えば


一気に結界を解除できる。


あと少し。


あと…


ほんの少し。


術式を繋ぐ


洋蔵の手が止まった。


「……」


研究員が見る。


「どうした?」


返事がない


もう一度。


結界を見る。


侵入防止。


遮音。


遮光。


迷彩。


外部干渉の遮断。


そして。


内側からの衝撃を抑える結界。


これまで


ずっと


「閉じ込めている」


そう考えていた。


違う


洋蔵は結界の向きを


もう一度確認する。


「……違う」


研究員が振り返る。


「何がだ?」


洋蔵は


施設の周囲で倒れている信者を見る。


血。


変異。


魔物化。


そして


内側から張り直される結界。


「この結界は」


一拍。


「外から何かを入れないためじゃない」


研究員が息を呑む。


洋蔵は。


ゆっくりと言う。


「中から」


「何かを出さないためです」


手が止まる。


自動解除術式。


その先にあるものを


初めて考える。


結界を解除すれば


中に入れる。


だが


同時に


中からも出てくる。


洋蔵は


施設の奥を見つめる。


「……解除していいのか」


誰も答えない。


予知。


禁呪。


人体改造。


変異。


大量の信者。


そして


何重にも張られた


内向きの結界。


洋蔵は


自動解除術式から


手を離す。


「…違う」


小さく。


しかし確信を持って。


「この結界の意味は」


「侵入を拒むことじゃない」


一拍。


「封じ込めることだ」


施設の奥で


何かが蠢いた。


洋蔵は


自分から


結界を解除することを


躊躇した。

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