レイヤー67 建設現場に出向
作り手の思考は
デザインのなかに
隠してある
次の出向先は。
巨大なモニュメント。
研究員が報告書を閉じる。
「これは…人工物だよな?」
洋蔵は頷く。
「意匠がありますからね」
自然物ではない。
削られた痕。
積み重ねられた構造。
明らかな建築物。
だが
目的だけが分からない。
さらに
別の報告。
調査員。
住民。
警備兵。
近づいた者が帰ってこない
行方不明事件が発生している。
研究員が低く言う。
「近寄るなってことか」
洋蔵は首を振る。
「違います」
「役割としては近寄らせています」
一拍。
「だから調べます」
出向の日。
目的地までは
まだ数日ある
それでも
目的地の方角
地平線の向こうに
空を分割する一筋の黒い影が見えた
研究員が目を細める
「…ここからでも見えるな」
洋蔵は黙って観察する。
輪郭が違う。
昨日見た報告書の形と
今の形が違う。
「伸びています」
「増築されていますね」
誰も工事をしていない。
音もしない。
煙もない。
それでも
建物だけが
日ごとに大きくなる。
現地へ着く。
圧倒される。
高い。
それだけではない
近づくほどに違和感が増す。
柱。
壁。
梁。
階段。
どれも成立している。
なのに
気持ち悪い。
均一ではない。
左右が揃わない。
角度が僅かに狂う。
研究員が顔をしかめる。
「見てるだけでも酔うな」
洋蔵は建物を見上げる。
「不均一ですね」
一拍。
「ですが…」
手帳へ書き込む。
荷重。
応力。
支持構造。
基礎。
すべて計算する。
沈黙。
研究員が尋ねる。
「どうだ?」
洋蔵は少し困った顔をした。
「……安全です」
「何?」
「構造としては」
「ほぼ完璧です」
最上階が増える。
それに合わせて。
基礎も広がる。
荷重が変わる。
壁が補強される。
建築物として
自ら
建築基準を満たしていく。
ん~
あっちでもこんな感じのがあったな…
たしか…九龍城…だったか。
研究員が絶句する。
「おい、これは動いてるのか」
洋蔵は首を横に振る。
「分かりません」
一拍。
「ただ…」
視線を下へ向ける。
古い家屋。
石畳。
倉庫。
教会。
建物の基礎へ
飲み込まれていた。
街そのものが
建材になっている。
研究員が息を呑む。
「……これ」
洋蔵は静かに答える。
「建築ではありません」
長い沈黙。
「侵食ですね」
誰が
何のために
こんな建造物を
造り続けているのか
その目的だけが
どうしても見えなかった。
円が更新される。
建築。
増築。
侵食。
均衡。
構造。
消失。
研究員が最後に尋ねる。
「最強の魔法は?」
洋蔵は巨大な建造物を見上げたまま答える。
「ただ建てることではありません」
一拍。
「何を残すために建てるかです」
うん…
工具箱だけでは無理だな




