レイヤー68 復興という傲慢
これは
誰の仕業なのかの推察
調査は三日続いた。
浸食と繰り返される増築
その答えは
地下にあった。
研究員が息を呑む。
「…ここ…動いてるな」
地中深く
根のような構造
黒い触手
脈動する魔法陣
周囲の石
鉄
木材
建物
すべてを取り込み
分解し
再構築する
洋蔵は静かに言う
「術式は全自動建築のようですね」
研究員が顔をしかめる
「止められないのか」
「これは…簡単には止まりません」
一拍。
「仕組みはわかりませんが半永久機関です」
「それに、術式を止めて崩れたらとんでもない被害になります」
さらに
新しい報告が届く。
周辺で
転移事件発生
突然
人が消える
別の場所へ現れる
距離も
方向も
法則もない
研究員が資料を握り締める
「これも禁呪か」
洋蔵は頷く
「因果律へ干渉しています」
「術式が誤作動しているのでしょう」
近づく
壁を見上げる
そこで
違和感の正体を知る
神殿。
教会。
学校。
病院。
研究所。
劇場。
市場。
酒場。
宿屋。
鍛冶場。
道具屋。
ギルド。
刑務所。
処刑場。
ありとあらゆる建築様式
すべてが
ひとつの建造物へ組み込まれていた
研究員が呟く
「…まるで街」
洋蔵は首を振る
「違います」
一拍。
「もっと大きい」
沈黙。
「“国”のようです」
文明そのもの
生活。
信仰。
司法。
教育。
医療。
娯楽。
軍事。
行政。
すべてを
一つへ統合する
はるか上空を見上げる
「これはまるで…」
洋蔵が独り言をこぼす
「九龍城…いや、もはやバベルの塔か」
それはあちらの史実や寓話
こちら側では知りえないこと
あってはならない
長い沈黙
研究員が考え込む
「誰が、何のために」
洋蔵は壁面を撫でる
積層。
増築。
補強。
どれも美しい
だからこそ
異常だった。
「これは」
「復興でも建築ですらない」
「支配です」
一拍。
「一人の設計で」
「一つの理想だけを」
「世界へ押し付けています」
研究員が小さく呟く。
「傲慢なやつだな…」
洋蔵の視線は。
モニュメントの最上部へ向く。
「国を統べる…国王ではない」
「国を護る…将軍でもない」
設計も作業も術式が補っている
「建築士や作業員でもない」
だったら
「市民の意思でもない」
思いが強すぎる
「貴族のエゴ…」
だとしたら役割が違う
静かな声。
「いや、この役割は…“領主”のものか」
一人の領主が
自らの理想郷を
永遠に増築し続けている。
街ごと
人ごと
歴史ごと
取り込みながら
洋蔵は拳を握る。
「……なんてことを」
長い沈黙。
「してくれたんですか」
円が更新される。
建設。
侵食。
統合。
支配。
傲慢。
文明。
研究員が最後に尋ねる。
「最強の魔法は?」
洋蔵はモニュメントを見上げたまま答える。
「傲慢を」
一拍。
「咎めることです」
これは
残業確定案件でした




