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レイヤー66 誰もが満たされない

残業が増える案件は

うんざりする


禁忌に触れた術式が停止した。


複製食料は全て押収。


市場は封鎖。


残されたのは


禁呪を生み出した男だけだった。


研究員が言う。


「どう裁くんだ?」


洋蔵は静かに男を見る。


男は抵抗しない。


「私は…」


「誰も飢えない幸福な世界を作った」


洋蔵は首を横に振る。


「違います、あなたが作ったのは」


一拍。


「誰も満たされない空っぽの世界です」


静かな返答。


食べても栄養はない。


安くても価値はない。


豊富でも循環はない。


救いのはずだった。


だが


暴食だけが残った。


研究員が小さく息を吐く。


「こいつも封印か?」


洋蔵は頷く。


「はい」


図面を広げる。


禁呪級封印術式(洋蔵カスタム)。


本来は


不条理な世界を封じるための術式。


今は


禁忌を犯した者を封じる。


男が苦笑する。


「私を殺さないのか」


洋蔵は答えない。


術式だけが光る。


「あなたは」


「満たされることを奪いました」


一拍。


「なら」


「その罪を知ってください」


魔法陣が閉じる。


男の世界から。


味覚が消えた。


満腹感が消えた。


渇きは消えない。


飢えは終わらない。


食べても


飲んでも


決して満たされない


終わりのない空腹。


終わりのない渇望。


男が膝をつく。


「私は救……」


声は続かなかった。


術式は静かに閉じる。


研究員が呟く。


「……二人目か」


洋蔵は図面を畳む。


「はい」


封印対象。


二名。


記録だけが増えていく。


壁に残る印。


まだ


五つ。


異常気象。


集団恐慌。


邪教。


アンデッド。


巨大モニュメント。


研究員が苦く笑う。


「しっかし胸糞悪い仕事ばかりだな」


洋蔵は肩を落とす。


「また残業が増えそうです」


研究員が思わず吹き出す。


「そこかよ」


洋蔵は真顔だった。


「調査も含めたら絶対定時で終わりませんからね」


短い沈黙。


それから静かに言う。


「……心底うんざりします」


窓の外を見る。


復興した街。


守りたかった日常。


その裏で


誰かが禁呪を使う。


円が更新される。


暴食。


渇望。


封印。


贖罪。


責任。


均衡。


研究員が最後に問う。


「最強の魔法は?」


洋蔵は静かに答える。


「幸福を知ることです」


そして工具箱を手に取る。


「あと五件」


「終わったら…帰ります」


研究員は苦笑した。


「残業はまだ続きそうだな」

工具箱で不条理と戦う男

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