レイヤー64 市場に出向
これは
意味がわからん…
次の出向先は。
市場だった。
人はいる。
店も開いている。
それなりに活気もある。
だが。
研究員が野菜を手に取る。
「…何だこれは…安すぎるだろ」
洋蔵は値札を見る。
黙ったまま歩く。
肉。
野菜。
果物。
穀物。
どれも異様に安い。
生産者は顔を曇らせる。
「何も売れない」
「誰も買わない」
「隣の店の方が安い」
市場は動いている。
なのに
誰も儲からない。
研究員が呟く。
「デフレーションか」
洋蔵は静かに頷く。
「原因は、おそらく…」
一拍。
「高度な錬金術ですね」
店先の商品を手に取る。
切る。
断面を見る。
沈黙。
「……やはり」
研究員が覗き込む。
「何が分かった」
「全部同じものです」
形。
繊維。
密度。
魔力の流れ。
寸分違わない。
複製。
本来ならあり得ない。
洋蔵が小さく息を吐く。
「等価交換を…していませんね」
研究員の顔色が変わる。
「禁忌に触れたのか」
「…はい」
本来。
錬金術には対価がいる。
同質量の材料。
構造などの知識。
具現化するための魔力。
だが
この食料は違う。
全て魔力だけで
大量に
無限に
複製されている。
研究員。
「これは食べられるのか」
「もちろん食べられますよ」
一拍。
「ただし…栄養が全くありません」
「……何?」
「見た目だけの食べ物です」
さらに
高濃度の魔力は…
少しずつ
身体へ蓄積する
毎日食べる
少しずつ壊れる
気付かない
気付いた時には遅い
研究員が商品を置く
「悪質だな」
洋蔵は静かに言う
「ここまで来ると」
一拍。
「偽装食品です」
市場を見渡す。
同じ形の野菜。
同じ大きさの果物。
同じ厚さの肉。
誰も疑わない。
安いから買う。
空腹だから食べる。
研究員が低く言う
「目的は何だ」
洋蔵は首を横に振る
「そこなんですが…さっぱりわかりません」
長い沈黙。
そして。
珍しく皮肉を口にする。
「お金が欲しいだけなら」
一拍。
「貨幣でも複製してくれた方が」
「まだ犯罪として理解できます」
「これは…」
商品を見つめる。
「人の命を流通させています」
市場が静まり返る。
誰が。
何のために。
こんな狂った術式を作ったのか。
円が更新される。
複製。
偽装。
流通。
侵食。
禁忌。
摘発。
研究員が最後に問う。
「最強の魔法は?」
洋蔵は商品を棚から下ろしながら答える。
「ささやかな生活を守ることです」
せっかく農耕用魔法があるのに
わざわざ禁忌に触れんなよ




