レイヤー21 禁呪の存在
体系は整っていた。
評価され、実績が蓄積され、
召喚され、錬成され、
媒体と媒介で安定して運用されている。
だが、その外側があった。
「これは……使われていません」
研究員が一枚の資料を差し出す。
実績一覧には載っていない。
だが、記録はある。
洋蔵は目を通す。
「成功していますね」
「はい」
「ですが、運用履歴がありません」
一拍。
「意図的に止められています」
研究員は腕を組む。
「危険か」
「高負荷です」
即答。
別の資料。
・成功率:高
・効果:極大
・消費:異常値
・負荷:限界超過
「……持たないな」
「はい」
短い肯定。
さらに別の紙。
・制御困難
・再現性低
・暴走履歴あり
研究員は小さく息を吐く。
「それでも成功はしている」
「しています」
洋蔵は静かに言う。
「成立はしています」
一拍。
「だから記録されています」
机の上に置かれたそれは、
評価も、実績も持たない。
だが、存在している。
「分類は」
研究員の問い。
洋蔵は少しだけ考える。
「通常系では扱えません」
紙に線を引く。
既存の分類から外す。
「別枠にします」
書き加える。
禁呪。
研究員が目を細める。
「禁止するのか」
「いいえ」
即答。
「禁止はしません」
一拍。
「制限します」
紙に条件を書く。
・使用許可制
・環境限定
・監視必須
・即時停止手段の確保
「運用するのか」
「はい」
迷いはない。
「存在する以上、無視できません」
研究員は腕を組む。
「扱えるのか」
「扱えません」
即答。
「ですが、扱い方は決められます」
静かな言葉。
洋蔵は別の資料を開く。
過去の暴走記録。
媒体の破損。
術者の負荷限界。
周囲への干渉。
「原因は」
「複合です」
「単一ではありません」
一拍。
「だから危険です」
研究員は頷く。
「再現できないな」
「はい」
「条件が揃わないと成立しません」
「逆に揃うと?」
「制御できません」
短い答え。
沈黙。
洋蔵は紙の端に円を描く。
既存の循環。
その外側に、もう一つ小さな円を描く。
「隔離します」
「別系統か」
「はい」
二つの円は接続されていない。
「切り離すのか」
「直接は繋げません」
一拍。
「ですが、観測します」
研究員が顔を上げる。
「観測?」
「はい」
「発動条件、結果、影響」
紙に書く。
「データとして回収します」
「循環には入れないのか」
「入れません」
即答。
「混ぜると壊れます」
静かな断定。
研究員は小さく笑う。
「例外のまま残すか」
「はい」
洋蔵は頷く。
「ただし、無関係ではありません」
一枚の紙を差し出す。
そこには通常術式の改善案。
「影響を受けています」
「どこが」
「上限です」
指で示す。
「ここまで出せる、という指標になります」
一拍。
「限界値です」
研究員は納得したように頷く。
「天井が見えるな」
「はい」
「だから意味があります」
禁呪は使われない。
だが、無意味ではない。
超えた先にあるもの。
到達できない領域。
それが基準になる。
洋蔵は資料を閉じる。
「もう一つあります」
新しい紙。
そこには短い記述。
・一部再現成功
・負荷軽減版
・制御可能範囲内
研究員が目を細める。
「……削ったのか」
「はい」
「禁呪を分解しました」
一拍。
「使える部分だけを抽出しています」
研究員は小さく息を吐く。
「危ない橋だな」
「はい」
否定しない。
「ですが、有効です」
静かな声。
「完全な形では使えません」
「ですが、要素は使えます」
紙の上には新しい術式。
禁呪ではない。
だが、その一部を持っている。
「これも循環に入るのか」
「はい」
洋蔵は頷く。
「こちらは安全域です」
禁呪そのものは外側にある。
だが、分解された要素は内側に戻る。
二つの円は、完全には切れていない。
「……境界があるな」
研究員の声。
「はい」
洋蔵は答える。
「越えない線です」
静かな断定。
魔法には限界がある。
だが、その外側も存在する。
触れれば壊れる。
だが、見なければ進めない。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
仕事はさらに難しくなった。
扱うものだけでは足りない。
扱えないものも、理解する。
終わりはない。
禁じられている。
だが、存在している。
そして——
境界が、次を決める。
物体の完全複製とか生物の蘇生は禁呪だね




