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恋を描けない伯爵令嬢 ーその絵は嘘をつかない  作者: 夏つばき


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43 ルークの焦り


「いない?どういうことだ?」


レノンを思わず怒鳴りつけそうになり、慌てて声を飲み込んだ。


サマセット伯爵夫人は、頑なに口を閉ざしたままだ。

伯爵家の屋敷から取調べ室へ移しても、彼女は何一つ語らない。

事件のことはもちろん、雑談にさえ応じなかった。


時間だけが過ぎ、もう夜だ。


(・・・絶対にここにいると思ったのに)

サマセット家の財産を調べれば、王都の東に所有する別荘を持っていた。

アリスちゃんを攫って隠すなら、ここしかない。

そう踏んで、部下を伴って踏み込んだ。


だが、別荘には誰もいない。

それどころか、人が使った形跡すらなかった。

長いあいだ放置されていたのか、部屋には埃が厚く積もっている。


「・・・・・・地下室は?」

「地下にも誰もいません」


俺は唇を噛みしめた。

空振りだったのだろうか。


「何か手がかりになるものがあるかもしれない。悪いが、引き続き家の中を調べてくれ」

「はい」


レノンは、地下へ続く階段へと向かう。

その間にも、他の者たちは机の引き出しや書斎の書類を調べ始めていた。


(なぜだ?なぜ伯爵夫人はアリスちゃんを攫った?)

あの態度から見ても、誘拐に関わっていることはわかっている。


だが、動機がわからない。

それさえわかれば、場所の見当もつくかもしれないのに。


(・・・・・・くそっ!)

いっそ拷問でもしてやりたい。

こうしている間にも、アリスちゃんは酷い目にあっているかもしれないというのに。


(・・・俺が残るべきだったか?)

伯爵夫人の尋問は、アーサーに任せた。

何かわかれば早馬を飛ばすと言っていたが、まだ連絡はない。

あの女、アリスちゃんが見つからない限り、黙っていれば何もかも誤魔化せるとでも思っているのだろう。


(ふざけるな!そんな都合のいい話しがあってたまるか!)

必ず見つけ出す。

アリスちゃんも、そしてあの女の嘘も。



「ルーク様!」


胸の奥で煮え立つ怒りを押し殺したまま振り返ると、地下室から戻ってきたレノンが駆け寄ってきた。


「どうした?」

「これをご覧ください!」


差し出されたのは札束だった。

一枚手に取れば、見慣れた王家の紋章と天秤だった。


「旧5ベル紙幣だな。どこにあったんだ」

「地下の貯蔵庫で見つけました。木箱の中に隠すように入っていました」


レノンの顔は、興奮で赤くなっている。


「地下に大量にあります。しかも、識別番号が同じものが何枚もあります」


「・・・偽札か」

「おそらく」


頭の中で、散らばっていた疑問が一つにつながる。

絵の腕を見込まれ、偽札を作らせるために攫われたのか。


十年前、王都を騒がせた偽札事件。

犯人は、ついに捕まらなかった。


もしサマセット伯爵夫人がその時の犯人なら。

伯爵夫人は、もう一度偽札を作ろうとしているのか。


「・・・最近、偽札が出回った地区があったな」


「はい、新聞に書いてありました。場所は・・・」

「ノースヘイブンだ」


王都近郊にある町、ノースヘイブン。

そこまではまだ捜索の手は伸びていないはずだ。

ーーアリスちゃんは、ノースヘイブンにいる可能性が高い。


(・・・だが、どこにいる?)

王都ほどではないにしろ、ノースヘイブンだって広い。

闇雲に探しても、すぐに見つかるはずがない。


偽札作りには、それなりの時間がかかる。

長く同じ場所にいても怪しまれない場所ーーそんな所に違いない。


だが、サマセット伯爵家は、ノースヘイブンに不動産は持っていなかった。


(・・・いや、持っていたか?)

サマセット伯爵夫人の甥でもあるジュリアン。

彼は子どもの頃、ノースヘイブンの別荘で過ごしていたとアリスちゃんは言っていた。

あのとき、叔母の持ち物だと言っていた気もする。


(・・・名義が違うだけで、別荘は伯爵夫人の持ち物だったのか?)

税金対策で、不動産を親族名義に変えている貴族は少なくない。

もしかしてアリスちゃんは、ジュリアンが過ごしたという別荘にいるのかもしれない。


周囲にいる部下の人数を確認する。


「レノン。至急、アーサーに連絡を取ってくれ」

「はい」

「数名はここに残って証拠保全だ。警察にも連絡しろ。キャベンディッシュ家のジュリアンにも、話を聞くように」

「わかりました」


レノンは優秀だ。

彼なら、この場を任せられる。


「キャベンディッシュ家の別荘に、人を向かわせてくれ」

「承知しました。あの・・・」

「それから、ノースヘイブンの廃屋、倉庫、使われていない教会を調べるよう手配しろ」

「ルーク様・・・?」


レノンが戸惑うように、俺を見る。

当然、俺が指揮を執ると思っていたのだろう。


「俺はこのまま直接ノースヘイブンに向かう」

「お、お待ちください!」

「悪いが、後は頼んだ」


レノンの驚いた声を背に、俺は外へと駆け出す。

単独行動など、普段はあり得ない。


だが、一刻も早く駆けつけなければ、彼女の命が危ない。

伯爵夫人が捕らえられた以上、共犯者がいれば証拠隠滅に動く可能性がある。


ノースヘイブンへ向け、全速で馬を走らせた。



お読みいただきありがとうございます。


拷問は18世紀、啓蒙思想の影響を受けて強く批判され、次第に廃止へと向かっていきました。

また、電話が発明されたのは、19世紀後半とされています。

今にようにスマートフォンですぐ連絡が取れる時代を思うと、当時は本当に大変だったのだろうと感じます。


作中でさらっと「税金対策」と書いていますが、現代日本で同じことをすると問題になる場合があります。

あくまで18世紀風の架空世界として。物語上の設定として読んでいただけましたら幸いです。

次話は、アリス視点に戻ります。

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