白の想起 Ⅲ
「お前に求めるのは、俺の護衛だ」
生まれて初めて温かな水で体を洗い、生まれて初めて綺麗な服を纏った私を、王子は満足そうに見て頷いた後そう告げた。
「護衛?」
「ああ、最近物騒でな。ちょっと身を守りたくて、強そうな奴が居たら連れて来いと命令したんだ。余計なヤツらも便乗したみたいだけどな。……服、ちょっとデカかったか」
座らされた椅子が今まで使ってきたボロボロのとは比べ物にならないほどふかふかで、逆に落ち着かず背筋がついら伸びてしまう。
王子はそんな私を見て独り言を呟くと、テーブルの上に一枚の紙を置いて見せてきた。
「お前の実力を見定めるための最初の仕事だ。その紙に書かれていることに従って行動してもらう」
書かれていた内容は、「宮廷魔導士と協力して叛逆の意思を持つ集団を鎮圧せよ」。
「護衛なのに離れていいの?」
「信用出来ない奴を置いとく方が怖いからな」
「……なるほど」
どうやら弱そうだと思われてるらしい。
まぁ、私を捕まえたあの男共に比べたら、確かに私は肉付き悪くて護衛としては頼りない。
体を縛る忌々しい魔術拘束具さえ無ければ、その身に実力を直に教えてあげることが出来るのに。
残念だ。
「……それにしても、会話も読みも問題なく出来るんだな。教えてくれる奴が居たのか?」
紙に書かれていた詳細を読み終え、出発の準備をしていると王子が問いかけてきた。
視線は手に持つ本に向けられているから、ふと疑問に思った程度の興味だろう。
「いたよ。赤ん坊の私を育てて、言葉を教えてくれた人が」
「ふぅん?」
「……すぐに居なくなったけどね」
「やぁ、君がノアくん?」
書かれていた待ち合わせ場所に着くと、奇妙な人物が手を振ってきた。
まだ冬には早いというのに黒いコートを着て、無数にあるポケットに振っていない方の片手を入れている。
この女性こそが、おそらく王子の言っていた────
「君と一緒にお仕事する宮廷魔導士だよ。よろしくー」
「……よろしく」
笑顔と共に差し出される右手。
握り返すと、まるで死体を掴んだような感触がした。
……気味が悪い。
「私の魔術は星を使うから、夜じゃないと十分な精度が出せなくてね。こんな時間に連れ出しちゃって申し訳ない」
そう言う割には顔は申し訳なさそうではなく、離した手には早速魔術が展開されている。
星空を写したかのような無数の光の粒が、黒い球体の中でぶつかることなく走り回って光の線を描く。
「……うん、全員居るね」
その言葉と共に宮廷魔導士は開いていた手を閉じ、魔術を消し去る。
「標的の位置と数は把握したよ。早速行こうか」
「……本当に二人だけで? 相手は結構な数が……」
「だーいじょーぶ、だーいじょーぶ! それより、雑魚は私が片付けるから、君には厄介なのを片付けてもらいたい」
背筋を嫌な汗が伝う。
彼女が放つ殺意は敵に向けてであり、私ではない。
だが、殺意とは違う感情が、その言葉には乗せられているように感じた。
「標的は五人…………出来るよね?」




