白の想起 II
その場所は、私の知っている世界とは違いすぎていた。
豚のように肥えた人間が別の人間へと命令し、あろうことか命令された側は食料を差し出す。
異常な光景。
飢えて死ぬのが怖くないのか?
虫がたかり、骨と化していくのが怖くないのか?
なんで────彼らは笑ってる?
「ここだ、入れ」
いたる所で異常な光景を目にしながら歩き、やがて辿り着いたのは巨大な扉の前。
傷一つないその綺麗な扉を、私を連れて来た男が「入ります」という言葉の後にゆっくりと開く。
その先に、一人の少年が居た。
「やっと来たか。……ん?」
────ああ、そうか。
この人が、王族か。
目にした瞬間、そう確信した。
服が、髪が、肌が、立ち姿が、全てが違う。
獣のような生き方をしてきた私とは、何もかもが異なっている。
ここに来るまでにすれ違った誰よりも、その少年は私に強くそう思わせた。
そんな彼が、こちらへ視線を向けた途端に眉を顰める。
本棚に添えていた手を下ろし、ツカツカと早歩きで近寄って来た。
「王子、頼まれていた護衛です。調達に行く途中で聞きつけた貴族たちからも頼まれ遅くなってしまいましたが、その中でも最上のものを────」
「オイ」
言葉を遮る低い声。
それが王子と呼ばれた少年のものだと気付いた瞬間、後ろから轟音が響く。
「汚いまま連れてくるとか……ふざけるなよ? 部屋が汚れるだろうが」
振り返ると、私を連れてきた男が廊下の壁へと吹き飛ばされていた。
白目を剥いたまま動かなくなったその男を、足を突き出し吹き飛ばした本人である王子は蔑んだ目で見下ろしている。
「……オイ、お前」
目が合う。
こちらへと顔を向けた王子の、◼️◼️◼️◼️瞳と。
「……ノア」
「ん?」
「私には、ノアっていう名前がある」
何かを主張されるとは思っていなかったのか、王子は驚いたように目を開く。
無礼かもしれない。
だが、私は訂正などせず、その目から視線を逸らすこともしなかった。
「はっ。……分かったよ、ノア」
蹴り飛ばされる覚悟はしていたが、彼は怒るどころか笑いを見せる。
そして、部屋の奥から服を一式取り出すと、私に向けて放り投げた。
「わっ!」
「この俺に名を呼ばせたからには、それに相応しい身なりをしろ。風呂に入ってからな」




