勝者たち
魔女による闘争に巻き込まれ、原型をとどめないほどに破壊された無数の建物。
その瓦礫で作られた山の上に、戦いの勝者である魔女が三人立っていた。
「いやー、危なかったねー。私があと一歩遅かったら、きっとウェンディ死んじゃってたよー」
「ぐッ」
「かーんーしゃーがー欲しーなー? 命の恩人である先輩への、後輩からの全力の、か・ん・しゃ♪」
──タチ悪いな、この先輩!
ウェンディの目の前では命を救った恩を最大限利用しようとヨモギが大声でアピールをし続けており、最後の言葉に至っては拍手まで付いている。
最初は普通に感謝を述べるつもりだったウェンディもこうなっては言い辛く、どうにか現状を変える手立てはないかと周囲を見回した。
──……あ!
見つけたのは、少し離れたところにある一つの背中。
「アズ! アズも一緒にお礼言おう!」
一人が無理なら、道連れを作ればいい。
嬉々としてアズの手を掴むウェンディだったが、顔が一向に背けられたままであることに首を傾げる。
「アズ?」
「ど……どちら様でしょうか……?」
「えっ! ……まさか、また中身が別にヤツに?」
「あ、いや、違……そうじゃない、けど……」
煮え切らない返事にウェンディは眉を寄せ、背け続ける顔を覗き込もうと首を伸ばす。
慌ててアズが顔の方向を変えた、その一瞬。
一瞬だけではあったが、顔を赤面させた彼女の表情が目に入った。
「あー……過去を覗き見ちゃったのは、ごめんね?」
「いやっ……それは……! 彼女が私の心を乱して、弱らせようと……したからだし……」
消え入りそうな声で応えるアズ。
その顔を少しだけウェンディの方へ向け、言い辛いことを告白する子供のような瞳を見せる。
「その…………気持ち悪い怪物で、ごめ────」
「言ったでしょ? 『全然カワイイでしょうが!』」
それは、過去に使い魔に使うぬいぐるみを買った際に言った言葉。
その言葉に一切の嘘は無い。
アズは驚いた表情をした後、瞳から怯えを消し、最後にはくしゃりと顔を崩した。
「……ふっ。んはっ、あはははっ!」
彼女もまた、過去を再演してみせる。
息が切れるまで笑い、笑い、笑い、そして。
くるりと回って振り向いた顔は晴れ渡っていた。
「いいの? これからは遠慮なく関わっていくけど」
「いいよ。ばっちこいだ!」
二人の魔女が、互いに本心からの笑みを見せ合う。
年頃の少女としての笑みを。
そして、その場には少女がもう一人。
「……もしかして、いい感じの雰囲気にして感謝の言葉を誤魔化そうとしてる?」
「ま、まさかー」
ヨモギはジトリと睨みつけながら、けれどもどこか嬉しそうな顔で口を挟む。
その手にはいつの間にか鏡が抱えられており、ウェンディが燃え盛る屋敷から持ち出したソレを投げ渡した。
「わっ!」
「もう落としちゃダメだよー。次の助っ人が困っちゃうからね」
「次の? ……もしかして、スザクせんぱ────」
「さあ? それより、まだ終わってないよ」
言葉を遮り、ヨモギは遠くの空を指差す。
降っていた雪は止んだが空は未だ雲が広がって暗く、夜の闇を一層深くしている。
──あっちは確か……。
そんな暗闇の中示されたのは、アルカナと名乗る呪い師が占った、仲間の居るであろう方角だった。
「私はここまでだけど、後は頑張ってね」
そう言ったヨモギの手は、指先から徐々に霧となって消え始めていた。
足元に魔法陣が浮かぶ通常の帰還とは明らかに異なるが、突然現れたことといい、彼女はよく分からない存在であると理解させられたウェンディたちは驚きはすれど騒ぐことはない。
「……ウェンディ」
体の半分まで霧化が進行したところで、ヨモギは何かを思いついたように目を開き、イタズラを企む子供のような笑みを見せた。
「上で待ってるよ」




