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異界の鏡  作者: リーグス
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 ウェンディとアズの精神が交わったのは、ほんの一瞬の出来事。

 だが、奥底へと隠した魂へ無理矢理干渉された肉体は、誤魔化しきれない程のダメージを受けた。

「何を……」

「ん?」

「何をしたッ!?」

 首から手を離し、数歩後退りながら腹を抑えて叫ぶ悪魔と化した少女。

 それに対し、ウェンディは逆に晴れやかな顔で答えた。

「この子を通じて、君が隠した魂と繋がっただけだよ。一緒に作ったから多少は魔力が繋がってるしね」

 この子と言ってウェンディが担ぎ上げたのは、角の生えた()()()()()

「使い魔か……!」

「そう。君が魔力を吸収してくれたお陰で、出てった魔力で『道』が作れた。魔力を吸い尽くされる寸前だったのは焦ったけど」

 その言葉の通り、ウェンディの魔力はほとんど全て吸い取られている。

 魔力による身体強化すら満足に出来ず、爆発の術式すら作れない。

 だが、弱体化してるのはウェンディだけではなかった。

 悪魔と化した少女もまた、アズの精神が生きる意思を得たことで体の主導権が握れなくなっている。

「(クソ。クソ、クソ……ッ! なんで疑問に思わなかった!? いつまで待っても消しきれないクローンの魂に、三流魔術師が突然纏い出した紫電。あの使い魔が、私の内から隠れて干渉してたのか!)」

 アズの人格が表へ出て来たりはしていないが、先程まで洗練されていた魔力は乱れ、立つことすらままならない。

「(いや、まだだッ! ウェンディを殺せば、また生きる意思を失わせられる! 体の主導権を取り戻せる! 魔力が無い相手なら、勝機も−−−−)」

 その背後に、死神が迫る。

 魂を刈る大鎌を携えた死神が。

 気付いた瞬間、反射で盾を構築するが、その鎌には意味を為さない。

「ク、ソ……ッ」

 呪いを纏った刃が、悪魔の背を切り裂いた。

 悪魔にその呪いを消し去る術はない。

 万全の状態なら切られた部分を切り離すといった対処が出来たかもしれないが、肉体の操作すら上手くいかない今の状態では不可能だ。

 悪魔の死が確定し−−−−

 

「ふざけるなッ!!」

 怒号。

 純然たる怒りに満ちた魔力が全方位に放たれ、ウェンディとヨモギを吹き飛ばす。

「ふざけるな……! ふざけるな……ッ!!」

 呪いは確かに効いている。

 だが、彼女の魂は意思の力だけで崩壊に抗い、死を限りなく遅らせていた。

「お前ら、なんかに……!!」

 怒りを力に肉体を動かし、最後の一撃を放つための魔力を指先に収束させていく。

 その魔術に今までの洗練さは無く、天性の才能を感じさせない荒い作り。

 しかし、ソレは今まで行使したどの魔術よりも、ウェンディに脅威を抱かせた。

「−−−−最初からソレが出来てれば、結果は違ったかもね」

 だからこそ、ウェンディは躊躇いなく動くことが出来た。

 ソレは確かに生物が死に際に放つ渾身の一撃であり、それ以外に手札は無い。

 今までと違い、未知の魔術を警戒する必要が無かった。

 ドスリと、手刀が肉に突き刺さる音がする。

「悪いけど、私()()の勝ちだ」

 使い魔であるホロアと融合したウェンディは、少女の反応速度を超えて攻撃を届かせた。

 肉体のダメージによって魔術への集中が乱れ、収束していた魔力は霧散する。

 体から力が抜け、地面に倒れる寸前まで、少女はウェンディを睨み続けた。

 

 

 

 

 

 少女は、魔術師の家系に生まれたことを恨んではいなかった。

 魔術を介してしか興味を示さない両親のことも、決して憎んではいなかった。

 ただ、一つだけ望んだものがある。

 子供らしく、彼女にとっては唯一、魔術師らしからぬ望み。

 たとえクローンであろうとも、他者を踏みつけ、犠牲にしてまで生きようとさせたもの。

 

 窓の外を駆けていく子供たちを見て、彼女は思った。

「私も−−−−……」

 

 父と母よりも遥かに才能に溢れ、魔術師としてのあり方を持って生まれた天才児。

 だからこそ、彼女は願った。

 自分と目線を合わせられる存在を。

 もし、人を新しい形に変える研究が実り、それをもって全人類に進化を促せたなら、それも叶うのではと。

 幼児らしい、願いに満ちた夢を見たのだ。


 

 



「何か、伝えることはある?」

「……何も」

 何も無い空間で、二人の少女は向かい合う。

 どちらもアズレイユ。

 だが、片方は足先から塵になって消え始めている。

「最後に無様な醜態を見せたんだ。これ以上の恥は要らないよ」

 そう言って、消えかけているアズレイユは目を閉じた。

「そっか。なら、一つだけ聞かせて。……楽しかった?」

「……は?」

 だが、あまりにも予想外の言葉に目を見開く。

 罵倒や恨み言を予想していた彼女にとって、その質問の意味は皆目見当がつかない。

「全力で戦って、喋って、最後は意地を張って。どうだった? 目線を合わせられる相手と『遊ぶ』のは」

「…………」

 僅かに驚いた表情を見せた後、彼女は再び目を閉じる。

 そして、悩みに悩んだ後。



 少しだけ、笑った。

 

「−−−−さぁね」

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