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異界の鏡  作者: リーグス
87/88

アズ

 寂しい世界が、視界に広がる。

「……? 何してたんだっけ」

 小さな小さなその部屋には誰も居なくて、私の声だけが響く。

 家具は無い、窓も無い、絵本も無い。

 あるのは、真正面にある一つの扉だけ。

「……出ないと」

 なんとなくそう思って、一歩前へと踏み出す。

 ぐちゃりと、何かが潰れる音がした。

「え?」

 下を見ると、私の右足が潰れてる。

 床が血で真っ赤に染まって、そこに私は倒れ込んだ。

 


『何故出るんだ? お前は私たちの道具なのに』

 父の声がした。

 左足が、ぐちゃりと潰れる。

 ……なんで、出たいんだっけ?

 


『もう貴方は要らないのよ。不用品は黙ってここに捨てられてなさい』

 母の声がした。

 左手が、ぐちゃりと潰れる。

 ……そうだ。私はここに居なきゃ。

 


『願い事はもう叶ったでしょ? 偽物の分際で、これ以上出しゃばるな』

 本物の私の声がした。

 右手が、ぐちゃりと潰れる。

 ……願い事って、何だっけ?

 

 何を、願ったんだっけ。

 

 



 

「鍵、あげるよ」

 

 



 

 誰かの声がした。

 顔の前に、金色の鍵が落ちている。

 なんでか、進まなきゃいけない気がした。

 

 進む。

 進む。

 足が痛い。

 手が痛い。


 けど、進む。

 

『なんで?』

 なんでかな。

 分かんないや。

 すごく辛くて、もう止まっちゃいたい。

 でも、止まりたくない。

『意味が分からなすぎるでしょ』

 んはっ、本当にね。

 本当に、意味が分かんない。



 這いずって、這いずって、這いずって。

 やっと、扉の前に来た。

 指が使えないから、口で咥えて鍵穴に通す。


『本当に、いいの?』

 鍵が開くと同時に、本物の私が尋ねてきた。

 ……いや、違う。

 私が、私に尋ねた。

『受け入れてもらえるか分かんないんだよ?』

 そうだね。

 でも−−−−

 

「私が選んだぬいぐるみを、カワイイって言ってくれたもん」

 

 それで十分。

 十分なんだよ。


「どれだけ怖くても、会いに行くとも!!」

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