アズ
寂しい世界が、視界に広がる。
「……? 何してたんだっけ」
小さな小さなその部屋には誰も居なくて、私の声だけが響く。
家具は無い、窓も無い、絵本も無い。
あるのは、真正面にある一つの扉だけ。
「……出ないと」
なんとなくそう思って、一歩前へと踏み出す。
ぐちゃりと、何かが潰れる音がした。
「え?」
下を見ると、私の右足が潰れてる。
床が血で真っ赤に染まって、そこに私は倒れ込んだ。
『何故出るんだ? お前は私たちの道具なのに』
父の声がした。
左足が、ぐちゃりと潰れる。
……なんで、出たいんだっけ?
『もう貴方は要らないのよ。不用品は黙ってここに捨てられてなさい』
母の声がした。
左手が、ぐちゃりと潰れる。
……そうだ。私はここに居なきゃ。
『願い事はもう叶ったでしょ? 偽物の分際で、これ以上出しゃばるな』
本物の私の声がした。
右手が、ぐちゃりと潰れる。
……願い事って、何だっけ?
何を、願ったんだっけ。
「鍵、あげるよ」
誰かの声がした。
顔の前に、金色の鍵が落ちている。
なんでか、進まなきゃいけない気がした。
進む。
進む。
足が痛い。
手が痛い。
けど、進む。
『なんで?』
なんでかな。
分かんないや。
すごく辛くて、もう止まっちゃいたい。
でも、止まりたくない。
『意味が分からなすぎるでしょ』
んはっ、本当にね。
本当に、意味が分かんない。
這いずって、這いずって、這いずって。
やっと、扉の前に来た。
指が使えないから、口で咥えて鍵穴に通す。
『本当に、いいの?』
鍵が開くと同時に、本物の私が尋ねてきた。
……いや、違う。
私が、私に尋ねた。
『受け入れてもらえるか分かんないんだよ?』
そうだね。
でも−−−−
「私が選んだぬいぐるみを、カワイイって言ってくれたもん」
それで十分。
十分なんだよ。
「どれだけ怖くても、会いに行くとも!!」




