魔女たちの宴
連鎖した爆発が、いくつもの建物を次々と吹き飛ばしていく。
空に吹き飛ばされた無数の瓦礫の中に、人影が二つ。
二人の若い魔女が空中でありながら縦横無尽に動き回り、魔術の闘争を繰り広げていた。
「ずいぶんと感情を荒げてるね。君と私のクローンとの間に、大した友情は無かった筈だけど」
自身の顔面へと迫った右の拳を軽く受け止め、悪魔を名乗る少女が尋ねる。
瓦礫を浮かして足場を作っているウェンディとは違い、その足元には何も無い。
より上位の魔術、道具を不要とした空中浮遊。
魔術を使う者としては格が違うことを理解させられながら、ウェンディは問いに答えるべく口を開く。
「……なんでそう思ったの?」
「単純な話だよ。何も無いから。地道に積み重ねた長い年月も無ければ、心の底を曝け出した経験も、窮地に力を合わせたなんて出来事もない」
冷ややかな瞳で、悪魔を名乗る少女は全て見てきたかのような言葉を述べる。
反論の余地を潰され、苦し紛れに何を言うのだと、その瞳が尋ねていた。
「ただ偶然居合わせて、偶然同じ道を歩んで来ただけだ。その程度のものを友情と呼んで、あげく私に死ねというのは随分な話だと思うけど?」
真っ直ぐなその視線は、自分の言葉は真実であると語る。
ソレを見て、言葉を全て咀嚼して−−−−−
ウェンディは、納得した。
「……ああ、そうか」
「君は、友達が出来たことが無いんだね」
「は?」
その言葉を受け、退屈そうに半目だった瞳が丸く開かれる。
何故その結論に至ったのか心底理解出来ないと、声に変わって伝えるように。
同時に、疑問によって思考が乱されたことで一瞬の隙が生まれ、ウェンディはそこへ蹴りを叩き込み地面へと打ち落とした。
少女は瓦礫の山へと突っ込んで埋もれるも、魔術で突風を生み出すことでその全てを吹き飛ばして脱出し、ダメージの見られない体で空を睨みつける。
「会話が絶望的に苦手なのか? 私の言葉が受け入れられないなら否定をしろ。相手を貶して会話を変えるつもりなのなら、幼児から人生をやり直すのを勧めるぞ」
「え? あ、ごめん。煽るつもりは無かった。ただ、君の言葉がずっと不思議だったから」
「……不思議?」
「うん。何かがあったかどうかなんて関係ない。結果が分かってるなら、過程なんて考えなくても理由は一目瞭然なんだよ。それこそ、幼児でも分かるくらいに。それなのにどうしてそんなことを尋ねてくるんだろうって考えて、答えがパッと浮かんで来たから思わず声に出しちゃったんだ」
瓦礫と共に降下するウェンディは、見るからに不機嫌そうな相手へ申し訳なさを乗せた笑みを向ける。
当然、それで相手の機嫌が晴れるわけもなく、さっさと結論を言えという視線に素直に応えた。
「気に入ったんだよ。だから、消えられたら寂しいし、悲しい。そんな、簡単な理由」
待ち望んだ答えに、少女は数秒沈黙する。
そして、目を閉じて小さく頷くと、ため息と共に両腕を大きく広げた。
天を仰ぐようなその仕草をした瞬間、少女の周囲の景色が歪む。
ガラスのような拳大の四角がいくつも作られ、それらは半透明でありながら強い魔力によって光を放ち、大地に星空を生み出す。
「なるほど。確かに聞く意味はなかった。まさか、子供のワガママだとはね」
少女が、空を睨む。
その瞬間、宙に浮かんだ無数の四角が、一斉に真上へと伸びた。
四方形が縦に引き伸ばされた形になり、瞬きする間にウェンディの高さへと辿り着く。
「ッ!」
ギリギリ反応が間に合い、ウェンディは体を大きく逸らせて直撃を避ける。
だが、完璧に避けることは出来ず、掠った頬からは血が垂れた。
−−−−今のは……結界?
足場の瓦礫を操作して高度を上昇させながら、たった今受けた攻撃の正体についてウェンディは思考を回す。
視線の先では伸びきった四方形は光の粒となって消え、手元に再び新たな四角が作り出されている。
−−−−やっぱり、アレは結界だ。
−−−−何の効果も付与されてない、純粋に硬度だけを求めた結界!
−−−−それをあり得ない速さで伸ばして槍として使ってるのか!
そこまで推測したところで、違和感に気付く。
自身の視界の端、そこに、景色の歪みが生じていることに。
「!」
結界が作られたのは、眼下にいる少女の周囲だけではなかった。
空にもまた無数の結界が四方八方に形成され、槍として敵を貫くべく伸縮する。
一本一本の伸びるタイミングも僅かにズラされており、絶え間のない連撃となってウェンディへと迫った。
「クソ……ッ!」
数の暴力を前に全てを避け切ることは叶わず、腕や横腹に攻撃が掠り血が滲み出す。
だが、その程度の傷はウェンディの治癒能力ならば直ぐに回復が可能だ。
連撃の最中に砕かれた瓦礫の代わりとして結界を足場にし、傷を治して続く連撃へ対応しようとして−−−−
視界が、黒く染まった。
「!?」
視覚情報を突然失い、脳は冷静さを失う。
それが魔術によるものだと通常よりも時間を掛けて気付いた時には、既に後の祭りだった。
背中に刺さる無数の衝撃。
肉を貫かれながら地面へと落下し、硬いコンクリートへと叩きつけられる。
腹部と四肢を結界の槍で磔にされ、傷口が塞がっているため治癒も出来ない。
ピクリとすら動けないウェンディの下へ、悪魔を名乗る少女はゆっくりと歩いて近寄って来た。
「貴方を殺して、邪魔な粗悪品の意思を完全に消す」
「はッ。口が……滑ったね……。まだ、そこにアズが居るってことじゃん……」
「……居たとして、何も変わらないでしょ? 貴方が死ぬのは」
ウェンディの頭上に、一つの結界の槍が作られる。
一つの呼吸の後、槍は静かに、ギロチンの如く真下へと落とされた。
「……あれ?」
水道水で手に付いた血を洗い流していたアルカナは、ふと顔を上げた。
動かしていた手を止め、遠くの空−−−−ウェンディたちがいる方をじっと見つめる。
「一つ、魔女の気配が増えた……?」
「……誰?」
突然現れた存在に、悪魔を名乗る少女は驚きの声を聞かせる。
その存在によって結界の槍は砕かれ、ウェンディの命は助かった。
だが、助けられた当の本人も、驚きに声を出せずに目を見開く。
「誰も何も−−−−」
現れた存在は、片手に持った大きな鎌を持ち、ニコリと笑う。
ウェンディは身をもって知っている。
彼女の笑みは、どんなに優しそうに見えたとしても、警戒を解いてはならないと。
先達でありながら、全く尊敬出来ない魔女であると。
「ヨモギ先輩ですけど」




