瞳
王子は見た。
自身の投げた槍が、敵の放った矢に打ち砕かれるのを。
避ける間もなく、矢が体を貫いていく。
彼は見た。
長い刹那の時間で、今までに見てきた者たちの『目』を。
──お前たちは、何故求められる。
──お前たちは、何故恐れない。
──俺は怖い。変わらない現在も、変えられない未来も。
──……その目で見る世界は、どう映っている?
──その目には、変わった未来が見えているのか?
──その目を、俺も…………。
「…………終わった」
自身の放った矢が敵の体を貫いたのを観測し、ノアは地面へと降りる。
凍った傷口が再生する様子は無く、地面から謎の『枝』や、それを伝う怪物の肉も現れない。
ノアが死体となった王子を見つめていると、屋根を飛び越えてウェンディとアズレイユがやって来た。
「ノア、無事!?」
「ん、平気」
心配するウェンディの声に、ノアは笑顔で返す。
もう、怒りに囚われてはいないと。
その意図を察したウェンディもまた、安心したように笑った。
「お疲れ様」
「…………ノ……ア……」
「!」
三人のものではない声が届く。
それは、死んだと思っていた者の声。
王子の口が、ゆっくりと動く。
「魔……女……」
──うわ言か?
──……そう言えば、前にも魔女って────。
「に……げ、ろ……」
情報は十分集まった。
危険なモノは見当たらなかった。
計画に変更は必要ない。
魔女が、動き出す。
「その必要はないよ」
声が届く。
五人目の声が。
「初めまして。命の恩人さんと、そのお友達」
王子の真横に女性が立っている。
ボロボロの黒いコートを身に纏い、顔に浮かべるは優しげな微笑み。
その場に居る誰もが、その笑みが形だけであることを恐怖と共に理解した。
「世界を終わらせる悪ーい魔女の、アルカナです」




