縁の魔女
翼が開く。
王子の背から生えた、天使を思わせる六つの黒い翼が。
それぞれの翼の中央にある巨大な瞳に魔力が集まり、再び万物を溶かす光線を放とうとする。
だが、その攻撃が放たれることはない。
「!」
七つの猫の魂が肉体を治癒するために内に入ったことで、ノアに彼らの力の片鱗が目覚めた。
それは、氷。
ノアが吹かせた白い風が、王子の翼と瞳の全てを凍らせる。
瞳が凍ったことで集まっていた魔力は制御を失い霧散し、王子は今までに無かった攻撃に大きな隙を見せた。
ノアの右の拳が、ガラ空きの敵の顔面を勢い良く捉える。
「ッ! ……痛い。……痛いです、父上」
バランスを崩した王子はボソボソと呟くも、反撃をする素振りは無い。
明らかに異様な様子ではあるものの、ノアは動揺することなく続く攻撃で敵の腹を蹴り上げた。
最大の魔力強化を乗せた蹴りに、王子の体は建物をいくつも貫通しながら飛んでいく。
──回復する暇は与えない!
ノアはすぐに魔力強化した脚で空を跳び、飛んでいった王子を追いかける。
「なんで……なんで……なんでッ!!」
止まった場所で倒れながら何かを叫ぶ王子。
ノアは両手に魔力を集め、トドメを刺すための攻撃を構築し始めた。
誰も聞きはしなかった。
誰も変わろうとはしなかった。
誰もが今のままを望み、分かりきってる未来についての話を忌み嫌った。
誰も、変えられはしなかった。
単純な道理。
一つの声と、多数の声。
自分は『王』ではなく『王子』。
未来は無数の人間による流れが作るものだ。
なら、抗うことは無意味。
なら、同じ立場として楽しむべき筈だ。
誰も彼もが愚の骨頂。
変えようもない現在に流されるだけの傀儡。
なのに。
何故。
お前たちは────
「その目を、ヤメロォ!!!」
突如立ち上がった王子が、叫ぶと同時に大量の魔力を湧き上がらせた。
竜巻のように荒ぶった魔力は王子が伸ばした手の先へと収縮していき、やがて一つの槍が出来る。
その槍を振りかぶっただけで周囲の建物は吹き飛び、氷は全てが砕け散った。
「…………」
ノアは焦らない。
やるべき事は決まっている。
故に、魔力の操作に集中し、その手に氷で出来た巨大な弓を作り上げた。
番える矢は一本のみ。
静かに、ただ静かに、敵へと向けてゆっくりと引いた。
そして、二つの攻撃が同時に放たれる。
空より降る雪の粒を弾き、引き寄せられるように互いに一点へと進んでいく。
一秒未満の移動時間で、二つは正面から衝突した。




