壊れた天使
特別だろうが平凡だろうが、結局は人間。
大きな流れに抗う事など出来ない。
一つの声は、多数の声にかき消されるのだから。
人一人に出来る事なぞ限られてる。
だから、不可能な事に挑む熱など、持たない方が『正しい』筈だ────。
光に遅れる形で、空に雷鳴が轟く。
再生の余地を残さず、全身を焦がし灰にする一撃。
ウェンディの使い魔から魔力を借り受ける形でノアが放った技は絶大な威力を見せ、指向性を持たせるために使ったナイフは負荷に耐えきれずに砕け散った。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ノアの体は既に限界を迎えており、立ててはいるがもう一歩も動くことは出来ない。
倒れそうになる足を気合いで立たせ、敵の死体を確認するまでは意識を失ったなるものかと瞳に力を入れる。
そして、霞む視界で睨んだ先に、ソレを見た。
白く染まった手足。
下半身は無機質な布に覆われ、上半身には赤い紋様が浮かびがっている。
背中から伸びた六本の触手は翼へと形を変え、その中央には巨大な瞳。
爪は太く大きく伸び、纏う魔力で周囲の世界が暗く沈む。
巨躯ではなくなり見た目は多少人間に近いものへと戻ったが、放つ威圧感は一層強まっていた。
まさしく怪物と思わせるほどに。
「────魔女」
殺意の満ちた言葉。
それが聞こえた時には、ノアの視界は塞がれていた。
「!?」
ノアには見えなかった。
敵が動き出した瞬間も、自身の顔を鷲掴みにしてくる手も。
抵抗すら出来ないまま音速を超える速度で空を飛び、数キロ先の地面へと叩きつけられる。
「ノア!」
体を再生していたウェンディは、敵の突然の高速移動に対応出来ない。
連れ去られていくノアを追いかけようとするも、地中から新たに伸びてきた数本の怪物の腕に進路を塞がれた。
数本────それは、先ほど壊した盾と似た本数。
壊すことは難しくない強度。
「…………あ」
紫電さえ操れれば。
「魔力が……!」
使い魔から供給されていた魔力が尽き、ウェンディは魔術を失う。
空中に居続けることすら出来ず、重力のままに落下を始めた。
「クソッ! ノア……!!」
魔力を失った魔女に出来る事は無い。
無力に叫んだ声だけが、遠くの友を追いかけて飛んだ。
繭を破り、数キロ離れた先の地面。
王子の叩きつけによって地面にはクレーターが生まれ、その中心で倒れるノアはピクリとも動かない。
「父上……何故ですか……」
王子は呟きながらノアの顔を掴んで持ち上げ、近くの建物へと乱暴に投げつける。
「彼らは間違ってる……このままじゃ……。何故……何故……!」
六の翼が開き、そこに付いた巨大な瞳へ大量の魔力が収束していく。
圧倒的な熱量となった魔力の塊が放つ光は、暗い世界の中に浮かぶ六つの星。
それがノアの居る一点へ向けて撃ち放たれ、交わった魔力は一つの巨大な光線となり、その道線にあるもの全てを溶かして進む。
赤黒い光は通った後に巨大な穴を残し、支えを失った建物がいくつも倒壊した。
「痛い……暗い……寒い……狭い……」
三百メートル先まで溶けた地面。
その直線の上に、生きている生物は居ない。
花も、草も、虫も、動物も、人間も。
全てが光の中に溶けて消えた。
「何故……私を、牢屋に入れるのですか……」




