支えるもの
意識を失いそうになる直前、自身を捕らえていた巨大な腕が切り裂かれる。
雷の刃が落ちたかと思うと、そこに二人の影が立っていることにノアは気付いた。
その見覚えのある影の名は────
「ウェンディ……アズ……」
二人の魔女が、ノアの声に反応して振り向く。
「助けに来たよ、ノア」
「へ、平気……?」
ウェンディは紫の雷を鎧のように纏っており、アズレイユは腕の形をした影を伸ばして細切れになった肉片を押さえつけている。
アズレイユの方は何やら雰囲気が変わっているように感じだが、今のノアにそれを気にしている余裕は無い。
「後ろッ! 来る!」
右腕を斬り落とされ激昂した敵の攻撃が、すぐそこにまで迫っていた。
背中から生やした六本の黒い触手。
先端は銛のように尖った形状となっており、その全てが二人を穿つために進む。
「アズ、任せる」
「了解」
一瞬の掛け合い。
初めからそのつもりだったのか、どちらも声に出すより早く動いていた。
ウェンディは背後を気にすることなくノアの方へと歩き出し、アズレイユは逆に敵へと向き直って触手の全てを影の腕で掴み止める。
手数勝負。
王子もまた新たに怪物の腕を地中から出し、文字通り腕の数での勝負が始まった。
「ノア、傷見せて!」
ウェンディが纏った雷を消して座り込んだノアへと近寄る。
傷のある部分へ触れ治療しようとしたが、ノアはそれを手で払った。
「要らない」
「いや、その傷はほっといたら……!」
確実に失血で死ぬ。
特に最初の戦闘でついた傷は深く,今も大量の血が流れ出ている。
動けていることが奇跡の、いつ倒れても不思議じゃない状態だ。
それは、ノア自身が一番良く分かっている。
その上で、拒絶した。
「……アイツは、ラマを殺した」
「!」
「だから、私がやらなきゃ」
怒りがあった。
親を奪われ。
居場所を奪われ。
生き方を奪われ。
妹を奪われ。
その元凶を殺せもしない、自分自身への怒りがあった。
──ずっと欲しかった。
──『普通』の人たちはみんな持っているソレが。
──私には無かった。だから、ソレを見る度に不快感があった。
──私は違うということを思い知らされたから。
──やっと、手に入れられたんだ。
「助けてくれたのはありがとう。けど、これ以上はいい」
ノアはそう告げ、敵の下へ向かうために立ち上がり一歩踏み出す。
だが、すぐにフラつき、次の一歩を踏み出すことなくパランスを崩した。
「おっと」
倒れかけた体を、ウェンディが両手で支える。
「ノア」
「……」
「頑張れ」
「…………は?」
それは、予想外の言葉だった。
復讐をしようとする者に、「頑張れ」などと。
止める言葉を、諦めさせる言葉を吐かれると思っていたノアは困惑し、振り解こうとした手が止まる。
「邪魔なのは、私たちが退けるから」
「…………」
雪の降る夜の道を二人で歩いていく。
向かう先は、大切なものを奪った怨敵。
手にナイフを持ち、怒りを胸に歩いていく。
フラつく体を支えられながら。
──…………ああ。
白い地面を踏み締め、ノアは一つの事実に気付く。
──私が手に入れたのは、妹だけじゃなかったのか。




