白の想起 Ⅴ
攫われた日から、数ヶ月。
私は、人を殺し続けた。
命を奪うために人を襲った。
顔が見えたんだ。
死に際の、私に何かを訴える顔を。
嘘偽りの無い、憎しみを。
「王子はまた何故あんな者を……」
「なんと気品の無い。そんなのと一緒に歩いていては汚れてしまうでしょうに」
歩く私の耳元に、貴族たちの声が届く。
そこは、普段は行かない貴族たちの交流の場。
連れ出した王子の背を、理由も知らずに付いて行く。
「お、居たな」
辿り着いた先には、周囲に誰も居ない机に一人でただ座っている男が居た。
王子の声に姿勢の悪いその男は気付いて立ち上がり、無言で机の上に置いていた紙袋を差し出す。
「王子相手に無言で物を渡すのはお前くらいだよ。で、出来は?」
「…………」
「そりゃ何より」
何も話さない男に対して王子は一人で笑い、頷き、紙袋を受け取る。
そして、それを今度は私へと渡してきた。
「悪いな、こんなトコに連れ出して。コイツが着た姿を見れなきゃ渡せないって聞かなくてね」
「着る?」
「デッカかったろ? 服」
その言葉で思い出す。
初めて会った時、着た服が少し大きかったのを彼が気にしていたことを。
「……もしかして、ここで着ろと?」
「イヤイヤイヤイヤ。ちゃんと着替える場所があるわ」
その服は、確かに私に合ったサイズだった。
一体いつ測ったのか。
仕事でよく汚れるから服はよく新しいものに変えてもらっていたけれど、これほどの質のものは初めてだ。
今までのものも上質ではあったが、これは何と言うか……見た目が凝ってる気がする。
「お、いいね。似合ってる」
……何故?
何故、私に与える。
だって、貴方は、私から奪う者なんだろう?
暗闇を歩いていく。
いつものように人を殺して、"いつもと同じ服を着て"。
それに何の苦痛も無い。
私の中にあるのは、いつだって────
「ニャー……」
……猫?
どこからか、猫の声がした。
酷くか細い声。
何とはなしに出所を探すと、路地裏のゴミ袋の横に座り込む一匹の猫を見つけた。
痩せ細り、立つ力も残っていないのか、近付いても逃げ出そうとする素振りを見せない。
「……何?」
だけど、目だけが私を追って動いていた。
さっきも、私に気付いて泣き声を上げたのだろう。
その目に宿る意思を、何度も見てきた。
路上で命尽きていく者、他者に命を奪われる者の目に。
「…………水しかないけど」
蓋に水を注いで猫の口元に近付けると、必死にそれを舐め出した。
自分の行いに、思わず卑下の笑みが浮かぶ。
欲しいくせに、私がソレになってどうする?
「羨ましいよ……」
思わず溢れた本音。
その猫にはいたのだろうか。
捨てられた私たちには無く、それ以外の彼らが当たり前に持つもの。
与え、一緒に生きてくれる存在が。
そして、終わりが始まった。
地中から現れた「枝」によって、国は一夜にして滅びへと向かった。




