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『あの町へ行ってこようと思うんだ』


「あの町?でございますか」


『うん、ドゥクティグ卿の直轄地だ。運河を使えば日帰りもできるだろう

 ーいや数日は掛けたいな。卿から色々と教わりたいこともある』


ノシュール領へ向かったあの日、私に大きな影響をもたらしてくれた直轄地だ。

代官を務めているドゥクティグ卿とは、もう一度じっくり話がしたいと思っていた。


「こちらにお呼びすることも可能だとは思いますが、ご訪問の方がよろしいのですね」


『ああ。あれからどう変わっているかも知りたいしな。前回は町をゆっくり見ることもできなかったから 町の様子も見て回りたい』


前回とは季節も反対だ。活発な季節の町を見てみたかった。


「かしこまりました。お日にちはいつに致しますか?」


『今週か来週で。後は卿の都合に合わせてほしい。それと大袈裟にしたくはない。出来る限り少人数で行こうと思う』


「承知いたしました。直ちに連絡をお取りします」


卿への連絡はロニーに任せて、私は陛下に報告して来ようと思った。が、それもロニーが済ませてくるというのにで、まとめて頼むことにする。



ベンヤミンにも伝えようか。

視察への同行を願い出てくれたんだ。そしてあの町は私の中でも特に重要な意味を持つ。一度はベンヤミンと共に訪れておきたいと思った。


そう思い、ベンヤミンへの手紙を認めることにした。



運河は偉大だ。翌日の午後にはベンヤミンと卿からの返信が同時に届いた。


『夏の間は町から出ない為いつ来ても構わない、とのことだ』


先に卿からの返信を確認する。

次にベンヤミンからの返信。こちらも是が非でもと快く同行を希望する内容だった。


『それなら早い方がいいな。2日後の朝出発したい、船の確認を頼む』


「船は押さえてありますので、騎士団で護衛の手配をして参ります」


さすがはロニー、全てが先回りして整っている。



そうだベンヤミンへも返事を送らなくては。

出発の日と、一応船で行くことも記して封をする。卿への手紙と合わせて届けに行く。騎士団の方が時間がかかるだろうから、ロニーと入れ違いになることはないだろう。



2日後の朝、船着き場でベンヤミンと合流した。

今はただ広く閑散としているが、この地こそがマーケットの建設を進めようとしている場所だ。


『おはようベンヤミン。急で悪かったな』


「おはようレオ、いや声をかけてくれて嬉しかったよ」


2~3日の予定だが細かなことは決めていないということを伝えると、ベンヤミンからは新年度が始まるまで予定はないから問題ないと返ってきた。


『それを聞いて安心した、では行こうか』


話しをしている間にも次々と荷物が積まれていく。夏場の近場への旅だ。あっという間に荷積みも終わり出航の時間となった。


この船には私たちの他、王宮から手紙の配達人も同乗していた。その者はノシュールまで向かうそうだ。運河が開通してまだ数週間、一般にはまだまだ浸透していないらしく、旅の足に使われるようになるのは何年も先のことだろう。そう、いずれは他領への観光も気軽にできるようになればいいと思う。

今は当初の目的であった物資の輸送で活用して行ければ充分だ。


「船って思っていたより速いよな。風が気持ちいいよ」


『そうだな、馬車に比べて揺れも少ないし快適だ』


ものの数分で跳ね橋を通過した。橋を過ぎると王都の外だ。

船からの景色が物珍しく、飽きることなく景色を見続ける。


「レオ、子供みたいな顔になってる」


そう言ってるベンヤミンの顔にも笑みが浮かんでいた。


『そうか?うん、すごく楽しい』


「凄いよな!レオが作ったんだぜ、これ」



『それは違う。私は地図に線を1本引いただけだ』


測量をしたり、計算をしたり、実際に工事を行ったり。多くのものが係わって完成した。私がしたことは、最初の小さなきっかけにすぎない。


「その1本が大きいって言うんだ、素直になれ」


そうだったな。つい先日もアレクシーに注意されたばかりだった。

アレクシーと鍛錬した初日のことを思い出す。


「何?アレクシーに何か言われたの?」


『ああ、私には自信が足りないって。その通りだなと思ってる』


ベンヤミンにはその話の一部を話して聞かせた。



「なるほどなー。まぁさ、自信家で鼻持ちならない王子なんてのは御免だけど、確かにレオはもう少し自信持っていいと思うぜ」


そうなんだろうな。

人の上に立たねばならないものが、いつも自信なさげに振舞っているのをよいとは言えない。客観的に考えれば私にもすぐにわかるんだ。



「いい考えがあるぜ、聞きたい?」


『おしえてほしい』


その時は期待したよ、ベンヤミンが言うんだからさ。



「まず太るんだ。そうだなー今の倍くらい?でさ、髭も生やせよ。威厳出るぞ。それから髪も伸ばしてだなー」


『聞いて損した』


呆れた目でベンヤミンを見る。ベンヤミンが逸らすまで見続けてやった。



「形から入るってのもあるじゃないか」


ベンヤミンは言いながら半分笑っている。


『陛下より威厳出そうとしてどうするんだよ』


答えながらやはり私も我慢できずに笑いが漏れた。


陛下も髪型こそ数年前から長く伸ばすようになったが、以前と変わらず細い体型を維持しているし、髭も生やしてはいない。それでも圧倒的な王の威厳を醸し出しているのだ。


『まぁ外面だけ繕ってもな』


「だな、太ったレオは想像できないしな」


『この案は却下だな』


「残念だが仕方ないな」


この時はまだこんな軽口を叩き合っていたのさ。

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