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『あの町へ行ってこようかな』
「あの町・・・でございますか」
『うん ドゥクティグ卿のところだ 運河を使えば日帰りもできるだろう
・・・いや数日は掛けたいな 卿から色々と教わりたいこともある』
「こちらにお呼びすることも可能だとは思いますが ご訪問の方がよろしいのですね」
『ああ あれからどう変わっているかも知りたいしな 前回は町をゆっくり見ることもできなかったから 町の様子も見て回りたい』
「かしこまりました お日にちはいつに致しますか?」
『今週と来週の中で 後は卿の都合に合わせてほしい それと
大袈裟にしたくはない 出来る限り少人数で行こうと思う』
「承知いたしました 直ちに連絡をお取りします」
『ああ頼む 私は陛下に許可を頂いてくる』
「それもお伝えして参ります」
『ありがとう それでは任せるよ』
早速ロニーが卿へ送る書簡の手配に向かった。
ベンヤミンに伝えた方がいいか・・・。
視察への同行を願い出てくれたのだ。そしてあの町は私の中でも特に重要な意味を持つ町だ。一度はベンヤミンと共に訪れておきたい。
そう思い、ベンヤミンへの手紙を認めることにした。
運河は偉大だ。翌日の午後にはベンヤミンと卿からの返信が同時に届いた。
『夏の間は町から出ない為いつ来ても構わない とのことだ』
先に卿からの返信を確認する。
次にベンヤミンからの返信。こちらも是が非でもと快く同行を希望する内容だった。
『それなら早い方がいいな 二日後の朝出発したい 船の確認を頼む』
「船は押さえてありますので 騎士団で護衛の手配をして参ります」
『流石早いな ではその旨卿に認めておくよ』
「すぐ済ませて参ります」
そうだベンヤミンへも返事を送らなくては。
出発の日と、一応船で行くことも記して封をする。卿への手紙と合わせて届けに行く。騎士団の方が時間がかかるだろうから、ロニーと入れ違いになることはないだろう。
二日後の朝、船着き場でベンヤミンと合流した。
今はただ広く閑散としているが、この地こそがマーケットの建設を進めようとしている場所だ。
『おはようベンヤミン 急で悪かったな』
「おはようレオ いや声をかけてくれて嬉しかったよ」
『二~三日の予定だが細かなことは決めていないんだ』
「俺は大丈夫 新年度が始まるまで予定はないよ」
『それを聞いて安心した では行こうか』
話しをしている間にも次々と荷物が積まれていく。夏場の近場への旅だ。あっという間に荷積みも終わり出航の時間となった。
この船には私たちの他、王宮から手紙の配達人も同乗していた。その者はノシュールまで向かうそうだ。運河が開通してまだ数週間、一般にはまだまだ浸透していないらしく、旅の足に使われるようになるのは何年も先のことだろう。そう、いずれは他領への観光も気軽にできるようになればいいと思う。
今は当初の目的であった物資の輸送で活用して行ければ充分だ。
「船って思っていたより速いよな 風が気持ちいいよ」
『そうだな 馬車に比べて揺れも少ないし快適だ』
ものの数分で跳ね橋を通過した。橋を過ぎると王都の外だ。
船からの景色が物珍しく、飽きることなく景色を見続ける。
「レオ 子供みたいな顔になってる」
『そうか うんすごく楽しい』
「凄いよな レオが作ったんだぜ これ」
『それは違う 私は地図に線を一本引いただけだ』
測量をしたり、計算をしたり、実際に工事を行ったり・・・多くのものが係わって完成したものだ。私がしたことはそのきっかけに過ぎない。
「その一本が大きいって言うんだ 素直になれ」
『・・・そうだった つい先日にもアレクシーに注意されたばかりだった』
アレクシーと鍛錬した初日のことを思い出す。
「何?アレクシーに何か言われたの?」
『ああ 私には自信が足りないって その通りだなと思った』
「なるほどなー まぁさ 自信家で鼻持ちならない王子なんてのは御免だけど 確かにレオはもう少し自信持っていいと思うな」
『そ・・うなんだろうな・・・』
人の上に立つ立場のものがいつも自信なさげに振舞っているのは、確かによいと言えない。客観的に考えれば私にもすぐにわかるのだ。
「いい考えがある 聞きたい?」
『おしえてほしい』
「太るんだ そうだなー今の倍くらい?で 髭も生やせよ 威厳出るぞ そうだ髪も伸ばして・・・」
『聞いて損した』
「形から入るってのもあるじゃないか」
ベンヤミンは言いながら半分笑っている。
『陛下より威厳出してどうするんだよ』
答えながらやはり我慢できずに笑いが漏れた。
父上も髪型こそ数年前から長く伸ばすようになったが、以前と変わらず細い体型を維持しているし、髭も生やしてはいない。それでも圧倒的な王の威厳を醸し出しているのだ。
『まぁ外面だけ繕ってもな』
「だな 太ったレオは想像できないしな」
『この案は却下だな』
「残念だが仕方ないな」




