表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/445

[92]

二日目の授業が始まった。


その前に―

昨日の午後はビリーク先生が図書館から持ってきた図鑑を見ながら行う、確かに'生物学'の授業だった。私たち四人にとっては専門用語も多く、辞書を片手に話を追うので精一杯だったが、生物学が初めてだというダニエラたちも興味深く話を聞いていた。


〈どうだね?光合成や発芽の仕組みについて 君たちはとっくに学んでいると思うが ホベック語で聞くとまた新鮮だろう?〉


〈はい!生物学の時間には習わなかった話も聞けましたし!〉

〈ホベック語は難しかったですが 楽しかったです〉

皆口々に感想を述べる。


〈こんな感じで 午後のうち二時間は息抜きの授業にしようと思うが 希望はあるかな?〉

・・・息抜きになっているのは先生一人だけだと思うのだが、気のせいだろうか。


《ホベックの産業について聞いてみたいです》

〈よし!明日はそれにしよう 私も下準備をしてこなくてはならないね〉



〈先生 一つ質問があります 'へたれ'とはどういう意味ですか?〉


〈・・・ルンドステン君 その言葉はどこで覚えたのかな?〉

珍しく温度のないビリーク先生の声色に、皆が少し驚く。


〈あの・・・それは〉

ノアは言葉を濁したものの、目線がしっかりとダニエラの方を向いていた。

〈やはりそう言うことか・・・ダニエラ!〉


当のダニエラは図鑑に夢中だ。


ため息をつきながら先生は

〈その単語を覚える必要はありません 一応意味を言っておくと'臆病者'や'意気地なし'となるね〉

思わず四人で顔を見合わせた。

'へたれ'ね・・・絶対忘れない単語の一つになりそうだ。





二日目も初日同様会話を中心にした授業から始まった。

今日は二グループに分かれて簡単なディベートだ。ダニエラのグループとツィリルのグループに分かれる。最初私とノアはダニエラのグループになった。


〈では最初のテーマを発表するよ [学園は必要か]これは勉強が必要か否かを問うものではない 学びの場としてこの場所が必要かどうかを討論してもらおう ダニエラ班は必要 ツィリル班は不要で進めてくれ〉


良かった、私は学園は必要だと考えている。自分の考えと同じ組み分けなら意見を述べることは難しくない。後はそれをホベック語で発言すればよいのだ。・・・そこが一番難しいのだが。


〈まず不要と考えるものの意見を聞かせてもらおう サラマント君〉

最初に指名されたマルクスはかなり困惑の表情を浮かべている。マルクスも[必要派]なのかもしれない。

〈はい・・・家庭教師から充分に学べるからです〉


〈なるほど 尤もな意見だ では必要と考えるグループの意見を聞こうか ルンドステン君〉

〈家庭教師と一対一では片方通行になります 様々な意見を知るには学園で学ぶことが重要です〉


〈ふむ 正に今この授業のことを言っているのだね

 ルンドステン君 片方通行の別の言い方はわかるかな?〉

〈・・・わかりません〉

〈誰かわかるものはいないか?〉

《一方通行・・・ですか》

〈その通り この言い方もよく使うから覚えるように〉



その後三つのテーマが出された。[夏と冬どちらが好きか][不老不死になりたいか]

どちらもシンプルな題なだけに、なかなかに白熱したやり取りが繰り広げられた。因みに私は[冬派]と[不老不死になりたい派]だった。どちらも自分の意見とは反対の組み分けに入ってしまい苦労した。


そして三つ目

[生まれ変わるとしたら今と同じ性がいいか]

私はツィリル班[今とは反対の性に生まれ変わりたい]になった。


・・・これは難しいな。私自身はもし次の世があるのなら男でいたいと思うが、何か引っかかりを感じる。


〈私は何度生まれ変われたとしても 絶対に女性がいいわ!〉

ダニエラは両の拳を握りしめて力説している。

〈ダニエラ その理由を述べなさい これは決意表明をする場ではないのだよ〉

〈簡単だわ 女性はドレスを着られるし髪を結ったり美しく飾ることができるからよ〉

〈男性でもドレスを着ることは可能だと思う 美しい男性だっているんじゃないかな〉

〈そういう話をしたいのではないわ!〉


〈俺も・・・生まれ変われたら女性になりたいです・・・

 えー理由は・・・いつまでも美しい高音で歌うことができるから?・・・です〉

ルーペルトは今反対派のグループだ。彼が声楽の授業を受けているのかは知らないが、確かにこれは男女で大きく異なる点の一つだ。


《私も 異性に生まれ変わってみたいと思います・・・

 異性の考え方や判断の基準を理解することは難しいからです》


〈僕は次も男に生まれたいです 着飾る必要もないし 大きな口を開けてもはしたないと言われませんから〉

〈何を言うのよ 着飾ることも出来ないなんてそんな人生つまらなすぎるわ〉


〈ダニエラ これは男女どちらに生まれ変わりたいかを議論しているのではない 君とサラマント君は同じグループだろう〉

〈そうだったわ そうね男性が次も男性で生まれてきてくれないと 世界は女性だらけになってしまうわ〉

〈世の中が女性だけになってしまったら 着飾る必要もなくなってしまうね〉

何気ないマルクスの一言にダニエラが噛みつく。


〈何を言っているのよ 男の子のために着飾るだけが全てじゃないのよ!見栄よ!女同士の見栄も重要なの!〉


《・・・ダニエラは人生何度目なんだ》

長年社交界の荒波を渡り歩いてきたかのような、十三歳の少女とは思えぬ発言に思わずため息が漏れてしまった。

〈女性は強いね〉

ノアも感心したような、いや・・・引いたような感想を漏らす。

〈そうよ!ホベックの女は強いの ホベックの家庭は'かかあ天下'なのよ!〉


《〈〈〈かかあ天下・・・?〉〉〉》


〈それも覚えなくてよろしい!〉

ビリーク先生がいきなり大声を出した。しかもかなりの早口だ。

〈ステファンマルクで暮らす君たちには縁のない言葉だよ〉


〈どういう意味なのですか?気になります〉

皆の気持ちを代弁してくれたルーペルトには感謝しなくてはならない。


〈・・・かかあ天下とは 妻が実権を握っている家庭と言う意味だ〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ