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今日まで知らなかったのだが、寮の中へは従者が入れるらしい。

自分で荷物を運ぼうとしたら慌てたロニーに止められた。

「これ以上私の仕事を奪われるわけにはいきませんので」

いつもの冗談だと思って軽く流そうと思ったのだが、冗談ではなかった。

知らないことって多いな・・・。


部屋の場所だけ確認をしてから校舎へ向かった。人気のない校舎はとても静かだ。

まだ時間には早い。図書館へ行き本を二冊借りた。ホベックの児童文学とメルトルッカの文学書だ。それを鞄にしまい、教室へ向かう。

教室には大きな丸い机が一つ。いつもこれを囲んで授業を受けている。今日は椅子が多い?・・・机の周りには七脚の椅子が並べてあった。


そのうちの一つに座り児童文学を読んでいると、マルクスが来た。

「レオ様おはようございます 早いですね」

『おはようマルクス 部屋は見てきたか?』

「はい 寮の中に入ったのは初めてでしたが 広いですね」

『そうだな それに私は従者が入れることも知らなかったよ』

「昼間だけみたいですけれどね 良かったですよ 着替えに困るところでした」

『そうか』


「おはようございます レオ様 マルクス」

『おはようノア』

「おはようー」


「わっ!俺が最後!すみません遅くなりました」

『まだ時間ではないから慌てなくていいよ おはようルーペルト』

「おはようございます」

「おはようー」


そこへパンパンと手を叩きながらビリーク先生が入ってきた。

〈こらこら君たちは何を話しているのだね ここがホベックだと気がついていないのかな〉

《おはようございます ビリーク先生》

〈おはようございます〉


そして先生の後ろから二人の子供が入ってきた。

〈紹介しよう 女の子がダニエラ男の子はツィリルという 二人とも十三歳だ この子たちはホベック語しか話さない この二人も一週間ここで過ごすことになった 仲良くしてやってくれたまえ〉

〈ダニエラです 好きなものは耳の垂れたウサギとベリーのタルトです よろしくお願いします〉

〈僕はツィリル 好きなものはサーモンの入ったブリトー 今一番やってみたいことは船に乗りたい!よろしくお願いします〉


〈次は君たちからこの二人へ自己紹介をしよう そうだな・・・それぞれ自分の長所と次年度の抱負を語ってもらおうか〉

「えっ難し・・・」

〈今のは誰だ?はいルンドステン君立って・・・起立!ルンドステン君から右回りに順に行こう さあ始めようか〉


うっかりステファンマルク語を漏らしたノアから始まるようだ。

〈はい 僕はノア=ルンドステンです 僕の長所・・・うーん粘り強いところかな・・・はい!これだと思います!次年度の抱負はAクラス入り そして定着!頑張ります>


〈マルクス=サラマントです 長所はノアと似ていますが 最後まで諦めないところだと思っています 次年度の抱負は一年間Aクラスを維持することです〉


《レオ=ステファンマルクです 長所は常に前向きなこと 次年度の抱負はホベック語を自在に使いこなせるようにすることです》


〈ルーペルト=アルムグレインです 記憶力に自信があります 俺もAクラス入りが目標です〉


午前は休憩一回を挟み四時間、会話が中心の授業が行われた。ダニエラとツィリルが何度も手助けしてくれて有難い。


〈それでは休憩にしましょう 食堂へ行きますよ〉

昼食の時間もビリーク先生を中心に七人で過ごす。当然会話はホベック語だ。

会話に気を取られて何を食べたのか記憶にない。まだまだホベック語が馴染むまでには時間がかかりそうだ。


〈さて 午後は何の授業にしようか〉

先生の言葉に私たちの目は丸くなる。

〈へ?どういう意味ですか?〉

〈ずっと()()()()()()()()では飽きるだろう?かと言って私に算術は教えられないし うーむ何がよいか・・・〉


意図が解らず皆沈黙する。

するとダニエラがはいはーい!と手を挙げた。

〈私はお花の本が見たい ここに来れば図鑑がたくさんあるって聞いていたのですもの〉


〈よし!では午後は生物学から始めよう 私は図書館へ寄って行くから君たちは時間までに教室へ戻るように ああ私がいないからと言ってステファンマルク語を話してはいけないよ ダニエラとツィリルも会話に混ぜてあげるようにね〉

《はい わかりました》


〈生物学から始めるってどういうことでしょう〉

《ホベック語で生物学の授業をするということではないだろうか》

私はレノーイとのメルトルッカ語の授業を思い出していた。レノーイとはメルトルッカ語を使いつつ地理や歴史、その他様々な話をした。とても楽しくて有意義な授業だったが、それをホベック語で実践するのはまだ早いような気もした。


《ダニエラとツィリルは生物学の勉強をしているのか?》

〈ううん 僕たちはそんな勉強はしたことがないよ〉

私たち四人は必修の座学で生物学は学んでいる。だが二人が解らない内容の授業をするだろうか。

《そうか それなら生物学の授業というわけではなさそうだな》


〈もうー今は休憩時間よ もっと楽しい話をしましょうよ〉

ダニエラが口を尖らせて訴える。


《それもそうだな ではダニエラは何の話がしたいかな》

〈皆の好きな女の子のタイプが聞きたいわ〉


『「「「え・・・」」」』

思わず全員素の声が出た。


〈なぁに 男の子が集まって話をすると言えば女の子のことでしょう?〉


・・・

自然と全員の目がツィリルの方を向く。

〈な なんだよ 僕は女の子の話ばっかりなんてしていないよ〉


〈ほら!早く教えて!レオ!〉

《え?私から?いや・・・その・・・すまない・・・なんと言えばいいのか・・・こういう単語はまだ習っていなくて・・・》

しどろもどろになった私の後間髪を入れずマルクスが

〈あー僕も単語がわからない!習ってないものなーいやー残念!〉

〈俺も俺も!〉


〈・・・ヘタレ〉

貼り付けたような笑顔で何かを言い捨てるとダニエラは立ち上がった。

〈そろそろ時間ね〉


〈'へたれ'ってなんだろう?〉

《なんだろうな》

〈ツィリル 'へたれ'ってどういう意味?〉


ツィリルはやや憐れむような目をして言った。

〈僕にもわからないや 先生に聞くといいよ〉

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