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もっとゆっくり過ごすつもりだったのに。
とても気まずい。
このまま花束を持って歩いていたら永遠に晒され続けるだろう。祭りどころではなくなってしまった。パレードも途中までしか見られなかったな。
『どうしようか。もう少し一緒に過ごしたかったけれど、今日は帰ろうか』
「はい、そうしましょう」
頷きながら両手で持った花束を上げたり下ろしたりしている。この花束こそが騒ぎの張本人だが、なぜだか処分しようとは言えなかった。スイーリもきっと同じ気持ちなのだろう、両手から離そうとしない。
人波に逆らって、今朝通った道を戻る。しばらく進むと朝降りた町の外れで馬車が待っていた。
御者台には残っていた騎士が1人、のんびりと昼寝をしている。
『護衛を撒いてきてしまったようだな』
「ふふ、ぐっすり眠っているみたいですね」
こんなに早く戻ってくると思ってなかっただろうからな。直に起きるだろうから待ってやってもいいんだけれど、ここでスイーリを立たせたままにするわけにもいかないし。
『うーん、起こすか』
御者台へ手をかけようとしたその時、後ろから猛然と走ってくる足音が聞こえた。
「で、殿下。申し訳ありません」
側まで来るとゼイゼイと荒い息を漏らしながら御者台の男を叩き起こした。
「おい!起きろ!」
「ぁあ~?もう交代のじか、?!殿下!!」
馬車で待機していた2人は交代で休憩に出ていたようだ。ー休憩でもないか、残っていた方も寝ていたからな。いいんだ、責めてはいないよ。
『今は誰もいないからいいけど。ここではそう呼ぶな』
「あひっ、すみません。ついうっかり」
名をジェフリー=コンティオーラと言い、騎士団に所属して2年か3年目の若手だ。騎士の中でもかなり気さくな性格をしている。なので、こんなやり取りも気軽にできるやつだ。生真面目な騎士が相手だと、こうはいかないからな。
『うん、おはよう。早く戻ってしまいすまなかったな』
「すぐ、馬車の準備をいたします」
後ろから駆けてきた騎士が、もう馬を繋いでいる。
やはりこの場にはこの2人の騎士しかいない。
『何人か置いてきてしまったようなのだが、探しに戻ろうか?』
そうなんだ。祭りには何人か来ていたはずなのに、1人もここにはいない。言われる前に言っておくが、これは不可抗力だからな。
「とんでもございません!すぐ呼びます」
と言って笛を取り出し何度か吹いた。これは第二騎士団専用の合図で、長短や回数で内容が決められているらしい。
『撒いたつもりはなかったんだが、パレードの人ごみで見失ったようだ。上には報告しないでやってくれ』
それともう1人、口止めをする必要がある。
『スイーリもこのことは、副団長には秘密にしてやってくれないか?』
ついていた護衛は皆がスイーリの兄、第二騎士団副団長ヴィルホの配下の騎士だ。
「ふふ、もちろんです。絶対に秘密にします」
「ありがとうございます。殿下、ダールイベック様」
昼寝をしていた護衛からも、勢いよく頭を下げられた。
馬車の準備が整い、2人で乗り込む。と、また羞恥に襲われる。
『手紙 書くよ。 次の月曜、渡しに来る』
やけにたどたどしい口調でそれだけを伝えるのが精一杯だった。
城へ戻ると私は、そのままムイストを連れて森へ向かった。
泉のほとりでムイストを繋ぎ、森の中を1人で走る。とにかく、くたくたに疲れて眠ってしまいたかった。のだが、こんな時は持て余すほどの体力が恨めしい。疲れることを諦めて東屋で腰を下ろし、ぼうっと泉を眺めた。
『あれだって不可抗力だ。スイーリも私も知らなかったんだ』
そうだ!説明もなしに選ばされたんだ。説明をしないで選ばせる方がどうかしている。もしこれが実の兄妹だったりしたらどうなんだ。兄が妹に花を買ってやることだってあるだろう。
その時私の頭の中には、花籠を前にして、ポリーナへ贈る花を迷いに迷っているイクセルの姿が浮かんだ。
スイーリも今日のことはすっぱりと忘れてーは、くれないだろうな。
スイーリはとても記憶力がいいのだと思う。彼女がこの世界に来てもう15年だ。記憶が蘇ってから数えても12年。なのにゲームの中のレオのことを、昨日見てきたかのように鮮明に語ってくれるのだから。今日のことを忘れろと言う方が無理な話だ、と言うことは私にもわかる。
はぁー。
悔やんでも始まらないな。
いつか。
いや3年後に。スイーリが成人したら求婚するつもりでいた。
今日は、それを他人の口から先に言われてしまったような気分だ。
そういや、交際を始めたきっかけも陛下の暴走だった。
なんだか、な。
人生の大きな節目になる大事なことなんだ。スイーリとっても、もちろん私にとっても。
せめて自分の言葉で言わせてくれよ。




