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学園での1年が終了した。最終日であっても授業数は変わらず、全ての授業が終わったのは夕方のことだった。

いつもならこのまま帰宅となるが、今日はクラスメイト20名全員で食事をすることになっている。学園の食堂では毎年恒例の光景だそうだ。きっと2年生のAクラスも集まるんだろう。Aクラスを維持し続けることは容易なことではない。だがその見返りとしてこの強い団結が得られるのだ。この学園のシステムが果たして最良なのかは判断が難しいが、個人的には良い友人と出会えたことに感謝している。


というわけなんだが、時間にはまだ早い。私は図書館で過ごすことに決めた。


「レオは時間までどうするんだ?俺、図書館行こうと思って」


『奇遇だな、私も同じこと考えていたよ』


「それじゃ、行こっか」


ベンヤミンは幼い頃から本が好きなやつだった。幅広い知識があるが、特に理学への探求心がずば抜けている。


「いつもの席でいい?」


2人で図書館に来た時よく座る席がある。中庭が見渡せてかなり居心地の良い、私たちの気に入りの場所だ。


『ああ、本を選んだらすぐ行くよ』


今日はメルトルッカの本を読もうと思っていた。言語から始まり、地理や歴史、産業に宗教。一通りのことはレノーイから教わった。今までそれについて深く考えたことがなかったが、よくよく考えてみれば凄い知識量だ。一般的に1人の人間が身に着ける教養の域を超えている。何者なのだレノーイは。


いや、今考えることではなかったな。私はメルトルッカの文学書を1冊引き出して席に向かった。

ベンヤミンはまだ本を選んでいるらしい。先に座って本を読み始めた。


2人、机を挟み向かい合って本を読みふける。この時期、日の入りはとても遅い。陽の陰り具合で時間を判断することはできないのだ。時折時計を気にしつつ私たちは読書を楽しんだ。


『そろそろ行こう』


「そうだな」


中庭にいたクラスメートたちも移動を始めたようだ。

本を戻して食堂へ向かう。


「レオが読んでいたのメルトルッカの本だろう?決めたのか?」


留学のことを言っているんだろう。


『まだ正式には決まってはいない。でも多分行くことになるだろうな』


「いいのか?そんなにのんびりとしていて。この時期には正式な打診に入ると父上から聞いていたけど」


よく知ってるな。確かに留学の2年前には先方に打診をするらしい。でも私の留学予定はもう少し先なんだ。ベンヤミンに話してもいいと思っている。でもその話をするには今は時間が足りなかった。

なので今日のところは、ごく無難な返事だけ返しておこうと思う。


『ああ、卒業してすぐ行くわけではないからな』


「まあそうだな。メルトルッカはこの国と年度の始まりが違うからな」


そうなのだ。メルトルッカは4月が年度初めの珍しい国なのだ。何故だかそのことに違和感は全く湧かない。新学期と言えば春、そんな気さえする。変だよな。この国を始め大抵の国で新学期と言えば秋を指すと言うのに。

いやベンヤミンが言っているのは卒業の半年後という意味だから、私の言っていることとは意味が違う。


『今度ゆっくり話すよ。歩きながら話す話でもないからな』


「そうだな、俺もそろそろ考えないとなー。1年なんてあっという間だもんな」


『ああ、本当あっという間だ』


食堂に入ると2つの固まりができていた。私たちのクラスは右奥のようだ。左の集団から手を振って近づいてきたのはデニス。


「レオ、ベンヤミン。1年間お疲れ様」


『デニスもお疲れ様』


「後から合流しないか?全員で打ち上げと行こう」


デニスの提案に私もベンヤミンも快諾した。1年前はアレクシーがデニスを誘ったんだろうな、なんてことを考えたりもしながら。


『クラスの皆にも話しておくよ』


「よろしく、じゃあ後で」


『ああ、後で』


「レオ様、ベンヤミン様、お席こちらですよ」


「レオ様はこちらです」

「ベンヤミン様はこちらですよ」


どうやら予め座る席は決めてあるらしい。


『皆、今、デニスから誘われたんだが、食事が済んだら2年生と合流しないか』


「はい!是非!ベンヤミンの兄上とお話しできるの嬉しいなぁ」

「僕も一度話してみたかったんだ」


2年間[A-1]をキープし続けているデニスは1年生の間でも有名人だ。本人の気さくな性格もあって、男女問わず彼を慕うものは多い。


「知ってるかレオ、デニス兄はレオが同じ学年でなくて良かったと何度も言っていたんだぜ」


『そうなのか?』


ベンヤミンが耳打ちする。へー知らなかったな。デニスからは聞いたこともないし。


「レオがいたら2年間A-1ではいられなかっただろうってさ。それは俺も思ってる。切実に思っている」


これは自慢ではなく、ただの事実なのだが、私の1年間の成績もA-1だった。


『私はベンヤミンがいるから頑張って来れたけれどな』


ホベック語はベンヤミンが常に学年1位だ。これはどうあがいても追いつけそうにない。これからもベンヤミンを目標に努力するつもりだ。


「うん、俺はレオと同じ学年で良かったと思ってるぜ。切磋琢磨ってやつだよな」


『そうだな、その通り』


アレクシーやデニスにイクセル。幼い頃は共に学んでいたが、少しずつ年齢が違う。今はそれもよかったなと思っている。その中でもベンヤミンが同級生にいるってのがとても心強い。


「1年生は負けたけど、次はA-1取りに行くぜ」


『受けて立つよ。私も譲る気はない』




「レオ様 夏休みは王都にいらっしゃいますか?」

「レオ様 夏休みのご予定はもうお決まりでしょうか」

「レオ様 お茶会にお越しいただけませんか?」

「レオ様 うちのお茶会にも是非」

「レオ様 云々~~~」

「レオ様ー」


食事が終わり、2年生と合同になった途端取り囲まれてしまった。頭頂部の山越しに親しい顔を探すと、デニスとベンヤミンは苦笑い、そしてヘルミはすっかり青ざめて狼狽えている。


そこへ1人の救世主が現れた。


「先輩方大変申し訳ありません。レオ様は週明けより私たちと合宿で寮にお泊りになるのです」


マルクスが神に見えた。


「なんですって?レオ様が寮にお泊りに?」


2年の女子生徒たちは悲鳴に近い声を張り上げている。


『お恥ずかしい話だが 、ホベック語の進捗が思わしくないもので。泊まり込みで教えを乞うことになったんだ』


それを聞いてクラスメイトたちからもざわめきが起こる。


「今年のホベック語は、難易度がえげつないという噂は本当だったんだな」


「A-1のレオ様でさえ進捗が思わしくないなどとおっしゃるということは、俺たちだったら確実に落第していただろう」


マルクスとベンヤミンが笑いを堪えるように肩を震わせている。


「私、領地へ戻る日を遅らせようかしら」


寮生と思われる2年生の女子生徒が何やら呟いた。


「セ、セ、セーニャ様。寮のお部屋にお邪魔しても?」


「わ、私もお伺いいたしたいわ」


いい加減にしろとでも言いたげなデニスがこの話を終わらせるべく一言を放った。


「セーニャ、予定通り領地に戻ってはどうだ。女子寮と男子寮が別棟だと言うことを忘れたわけではあるまい」


「そ、そうでしたわ」


その日ヘルミの中でマルクス株が急上昇したそうだ。

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