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「また3年生が来ているぞ」
教室の入り口に女子生徒が集まるようになった。卒業が近づいた3年の女子生徒だ。中を覗いてはいるが何をするということもない。
「何をしたいんだろうな」
ベンヤミンにも見当がつかないらしい。
「レオ様の見納めに来ているのではないですか?」
級友のトルストイが随分と斬新な説をあげてみるも、私やベンヤミンの反応は冷ややかだった。
『なんだよそれ』
同じ国で暮らす令嬢だ。卒業後は社交の場で顔を合わすことなどいくらでもあるだろう。ベンヤミンも同じように考えているようで、やれやれと言った様子だ。
「案外トルストイの言うことも間違ってないかもしれませんよ 。ここを出たらレオ様にお会いする機会はうんと減りますから」
他の連中まで同じことを言い出した。けどなあ、学園で1年を過ごしてきて、他の学年との交流が多かったとは言えないだろう?その証拠に今入り口で覗いている令嬢らの名前を私は憶えきれていない。
『まさか、それはないだろうさ』
気にする必要もないかと、話から抜けようとしたところ、ベンヤミンがいいことを言った。
「マルクスは何か知っているんじゃないのか?姉がいるだろう」
そうだった。マルクスの姉は3年にいると言っていたな。
ええ まぁ、とマルクスは言葉を濁す。なんだ、心当たりがあるのか。早く言えばいいのに。
「えー!解ってるなら教えてくれよ。毎日あれでは廊下にも出にくくて困るじゃないか」
その通りだなベンヤミン。この教室には女子生徒だっているんだ。年長の令嬢が入り口を固めていては、居心地が悪いだろう。
『マルクス、理由を知っているなら教えてくれ』
マルクスは決まりが悪そうに視線を泳がせたかと思うと、観念したように口を開いた。
「恐らくですが、レオ様をお誘いに来ているのだと思います」
「誘い?何の誘いだ?」
私より先にベンヤミンが質問を返す。そして返しながら何かに気がついたらしい。私にもわかった。
「あ。もしかしてー」
『舞踏会、か?』
あーそういうことだったのか。
理由が判明したことで、マルクスは詳しい話を続けた。
「そうです。あの、うちの姉もお誘いしたいと大それたことを言っていましたからー」
なんとも答えにくい話に無言で目を逸らすと、ベンヤミンと目が合ってしまった。やめろ、そんな目で見るな。
「僕が同じクラスだから行きにくいとは言ってましたので良かったですが」
学園生最後の行事となる、卒業生のための舞踏会だ。学園内のホールでの催しだが、女子生徒はそこで初めてパリュールを身に着け、裾の長いドレスを纏う。参加できるのは卒業生と、そのパートナーに指名された在校生のみだ。
『全ての女子生徒が私を誘いに来ているわけではないだろうが、私は今年参加するつもりはないよ』
申し訳ないが、ファーストダンスの相手はもう決めている。それは譲れない。
「そうなのですか、残念がるだろうなぁ。姉曰く他の女子生徒もライバルではないんだそうです。誰かがお誘いできれば舞踏会でレオ様のお姿が拝見できるからって言ってました」
詳しく教えてくれてありがとうな、マルクス。もう充分わかったよ。
「それはそれで、なんというか平和的でいいよな」
ベンヤミンは完全に呆れ果てている。私は投げやりになっていた。
『ベンヤミン、その[平和的]の使い方はなんとなく間違っている気がする』
「なんでだよ、レオの隣の座をかけて争いが始まるよりいいだろう」
生憎隣に空席はないんだ。ベンヤミンの隣だって埋まってるくせに。
『ともかく私は、自分の卒業まで参加するつもりはない』
もしも直接誘われても同じように言うさ。意志は固い。だからベンヤミンは余計なことを言うな。
「そう書いて掲示板に貼るのが1番手っ取り早そうだな」
だから、閃いた!みたいな顔して言うなよ。
『絶対に止めろ』
数日後には入り口を塞ぐ女子生徒はいなくなった。マルクスとその姉には感謝しかない。




