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『約束から何週間も経ってしまってすまなかった 初回は私がいた方がよいだろうと王妃殿下から言われてね』

「いいえ 何度かスイーリ様に教えていただく時間も取れましたので有難かったのです」

『それなら良かった 次からは二人と殿下で時間を調整するといい』


茶会の翌週、ようやくソフィアとスイーリがハープのレッスンに来た。


「ようこそ やっと会えたわねスイーリにソフィア 楽しくレッスンしましょうね」

前日から楽しみで堪らないといった様子だった王妃殿下が、笑顔で二人に話しかける。

「王妃殿下 本日はお招きいただきありがとうございます 私のような初心者に王妃殿下自ら・・・」

「気にしなくていいのよソフィア 私はねハープをご一緒できるお友達ができて嬉しいの レオったら陛下に勧められたピアノは弾くのに ハープには一切見向きもしないのよ 私つまらなくて堪らなかったの」

「ありがとうございます 殿下」

いきなり流れ弾が飛んできた。


「そしてスイーリはハープが弾けるのね 嬉しいわ そうね一曲聴かせてくれるかしら レオ伴奏をお願いね」

「はっはい!」

突然指名されたスイーリはカチコチに緊張している。

『王妃殿下 いきなり合わせるのは難しいかと』

「残念 二人が弾くところを聴きたかったけれど それはまた今度にしようかしらね」


『大丈夫 スイーリの得意な曲を聴かせて』

「はい」


「弾かせていただきます」とハープに一礼してからこちらを向いて再び礼をしたスイーリ。

楽譜を広げ、椅子に座るとたおやかに奏で始める。スイーリの演奏を聴くのは先日のフルートに続いて二回目だが楽器が変わっても、スイーリの奏でる音は優しく温かかった。


「ありがとうございました」

演奏が終わりぺこりと頭を下げた。三人の拍手が贈られる。

「素晴らしいわ ありがとうスイーリ 私もこの曲は習ったわとても好きな曲よ」

「ありがとうございます 殿下」

「基本はすっかりできているのね 嬉しいわスイーリ」


「では次はソフィア弾いてみましょうか ハープに触れるのは初めて?」

「いいえ スイーリ様のハープを何度か触らせていただきました」

「そうなのね では音を出してみましょうね ドから順に弾いてみてちょうだい」

ソフィアもかなり緊張しているようだが丁寧に音を紡いでいく。


「とても上手よ ソフィアはヴァイオリンを弾くのだったわね」

「はい 幼い頃から習っております」

「だからなのね音の出し方がとてもいいわ これならすぐに上達するわね」


そうして二人ともレッスンが進むにつれ、緊張よりも演奏に夢中になっているようだった。



「そろそろ終わりにしようかしら 最後に私も一曲お聴かせするわね レオお願い」

『はい』

今日演奏する曲は聞いている。私はピアノの前に用意してあった楽譜を広げた。

これは殿下の、母上の一番好きな曲だ。何度もご一緒したのでよく覚えている。軽快なワルツで、パルードの作曲家が作った作品らしい。


演奏が終わると二人から大きな拍手が贈られた。

「ありがとう 私のとても大切な曲なの 聴いてもらえて嬉しいわ」

「ありがとうございます 素晴らしい演奏でした」

「王妃殿下ありがとうございました とても素晴らしかったです」

「いつかこの曲を三人で弾きましょうね」


「さあ 二人とも熱心だったから疲れたでしょう お茶にしましょうね レオも伴奏をありがとう サロンへ行きましょう」



サロンにはお茶の用意が整っていた。

四人でテーブルを囲む。

「楽しかったわ またいらっしゃいね」

「ありがとうございます」

「次からはレオがいなくても平気ね?この人を待っていたら夜になってしまうわ

 夜・・・そうね次から夕食を一緒にしましょう その時間ならレオも間に合うわね それがいいわ!帰りは送ってあげるのよ」

『わかりました』

「いえ送っていただくわけには」

「あら今日もレオに送らせるわよ あなたたちの馬車はもう帰してしまったもの」

「「えっ?!」」

「いいのいいの その方がレオも喜ぶから ねっそうさせてちょうだい」

『二人とも気にしないで 私に送らせて』

「「ありがとうございます」」


「それでは私は先に失礼するわね レオ後はあなたに任せるわ」

『はい 王妃殿下』

「殿下ありがとうございました」

「ありがとうございました」


『二人とも疲れただろう レッスンはどうだった?王妃殿下は昨日から楽しみで堪らない様子だったんだよ』

「はい とても楽しかったです」

「私も あっという間に時間が過ぎてしまいました」

『それは良かった 二人さえよければまた来てあげてほしい』

「はい!是非伺わせてください」

「私もよろしくお願いいたします」


『ベンヤミンも呼ぼうか?ソフィアが弾くところを見たいと言っていたからね』

「できれば・・・もう少し練習を重ねてからでも構いませんか?」

『そうだね ではソフィアが一曲弾けるようになったら声をかけよう』

「ありがとうございます 早くレオ様とベンヤミン様にお聴かせできるように練習いたします」

『うん 楽しみにしているよ それとソフィア ハープは用意したのかな』

「はい 年明けには完成するようです」

『まだしばらく手元にはないということか ソフィアのハープが届くまでここにあるものを使わないか 明日にでも届けさせるよ 早く練習したいだろう?』

「大変ありがたいですが お借りして構わないのですか?」

『うん 王妃殿下から言われていたんだ ソフィアがまだハープを持っていないようなら貸すようにと』

「お心遣いに感謝いたします 有難く使わせていただきます」

『殿下もお喜びになるよ こちらこそありがとうソフィア スイーリ』



ソフィアは余程嬉しかったのだろう。邸でもかなり熱心に練習をしたようで、僅か数回のレッスン後には一曲披露できるまでになっていた。そして今日、約束のお披露目の日だ。


「ソフィアもうハープを弾きこなしているのか 天才だな」

『私も聴かせてもらうのは初めてなんだ』

学園からベンヤミンを連れて城へ戻る。


二人並んで廊下を歩いていると、ハープの音色が漏れ聞こえてきた。

『まだレッスン中のようだな 少し待とうか』

入り口で控えていたオリヴィアにそのことを伝えて、サロンで待つことにした。

茶を飲みながらレッスンが終わるのを待つ。


暫くするとオリヴィアがレッスンの終わりを伝えに来た。

「ようやく聴けるんだな!」

ベンヤミンはもう待ちきれないと言わんばかりに勢いよく立ち上がった。

『うん 行こうか』


レッスン場になっているホールへ足を踏み入れると、二台のハープの前にスイーリとソフィアが、そしてピアノの前には王妃殿下が座っていた。

「お二人ともようこそ さあ座って頂戴ね 今から小さなコンサートの始まりよ」


「ご招待頂きありがとうございます 王妃殿下」

ベンヤミンと並んで座る。観客は私たちだけだ。


殿下が静かにピアノを奏で始める。そこへ二人のハープが重なった。

ソフィアが主旋律を担当しているらしい。そこへスイーリのパートが加わりぐっと奥行きが広がった感じがする。ハープのアンサンブルを聴くのは初めてだ。


演奏が終わり、二人が立ち上がって礼をした。ベンヤミンと共に大拍手を贈る。

殿下も立ち上がって二人の横へ並んだ。

「いかがだったかしら 二人ともとっても上手でしょう?」


ベンヤミンも拍手をし続けたまま立ち上がった。

「はい!大変素晴らしかったです 私にこのような機会を与えてくださりありがとうございました」


「また聴きに来てあげてちょうだい 二人にも張り合いができてよいと思うわ」

「はい!来ます!毎回来たいです!」

「あら嬉しいわ またお待ちしているわねベンヤミン」

「ありがとうございます王妃殿下」



その後場所を移し五人で食事を取った。

「ふふ・・・残念ね 陛下も来られたらよかったのに」

いえ、そう思うのは母上だけです・・・ハープを習いに来るのも相当緊張すると言っていたスイーリ。ここに陛下まで登場しては何も喉を通らないだろう。


「楽しいわ 普段はね滅多にレオとも一緒に食事をすることはないの だからレッスンがある日はとっても楽しみなのよ」

いつも穏やかで笑みを絶やさない王妃殿下だが、今日は特に機嫌がよいようだ。



「次も待っているわね レオ後はあなたに任せるわ」

『承知しました』

「「王妃殿下ありがとうございました」」

ソフィアとスイーリが立ち上がると、ベンヤミンも立って殿下を見送った。


「レオ 俺本当に次も見学に来ていいのかな?」

ベンヤミンはすっかりその気のようだ。

『殿下は了承していたぞ 後は・・・ソフィアに聞いたらどうだ?』


「ソフィア!俺また来てもいい?」

「毎回お聴かせ出来るかわかりませんが・・・それでも構いませんか?」

「構わない!勿論構わないさ」


スイーリと顔を見合わせる。そしてソフィアとも。そして三人同時に笑ってしまった。気がついていないのはベンヤミン一人だけだ。

『よかったなベンヤミン 次回も声をかけるよ 次からはノシュールの馬車も呼ぶといい』

「うん!そうする!皆ありがとうな!」

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