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『ロニーにこんなことまでさせてすまない』

「何をおっしゃるのです ただですら主に仕事を奪われて時間が有り余っております故 仕事を与えられて感謝いたしておりますよ」

『・・・』


朝学園へ向かったその足で、時々ロニーにはスイーリへの手紙を届けてもらっていた。

王宮には手紙の配達を専門にしているものが何人もいる。近いところでは王宮内へ、それから城下の宛先へ、遠くは地方の領地へと言わば郵便配達員のような職があるのだ。勿論その者たちをクビにしたくてロニーに頼んでいるわけではないのだが。

ロニーは決して口には出さないが、少しでも早くスイーリの手元へ届くようにと自ら届けてくれているのだろう。最初の頃はロニーが直接届けに寄っていることを知らなかった。スイーリからの手紙で知ったのだ。


『ありがとう 行ってくる』

「いってらっしゃいませ」

暫くスイーリにも会えていない。そう思い、日々の些細なことなどを綴った手紙を週に何度か送るようになった。スイーリからも同じように毎日の出来事を報告する手紙が届く。さながら交換日記のようだ。


「おはようございます レオ様」

『おはようクレメンティ』

「おはようございます」

『おはよう』


「おはようレオ」

『おはよう デニス ベンヤミン』

「レオ 弟から聞いた 多忙だそうだな 次週の茶会は参加が難しいか」

『多忙ではないよ伴奏があるだけだ 二週目の人数は少ないから早く終わると聞いている 着替えに戻らなければ少し遅れるとは思うが参加できるよ』

「制服のままで構わないから来ないか?」

『わかった』


「レオの学年 伴奏一人なんだって?大変だな・・・」

『試験を受けるものよりは気楽さ』

「気は楽かもしれないけど 一人出ずっぱりだぜ 何人いるんだ?」

『七十くらいだったと思う』

「七十?!・・・嘘だろう?どんなに多い年でも四十人程度だと聞いているぞ」


『・・・聞かなかったことにする』



私は多忙と言う言葉があまり好きではない。・・・少し違うな[忙しくて時間がない]と言う言い訳が嫌いだ。時間に支配されているような気になるのだ。




----------

「お帰りなさいませ お疲れ様でした」

『うん・・・ただいま』

「かなりお疲れのようですね まっすぐお戻りになられますか?」

『いや ノシュール邸へ向かってくれ』

「かしこまりました」



「レオ―!待ってたよー!わっ制服だね!」

「レオ様 お疲れ様でした」

『遅くなってすまない』


「お疲れ様 随分疲れた顔しているな 大丈夫か?」

デニスが思案顔で覗き込んでくる。

『そんなに顔に出ているか?先程ロニーにも言われた』

「クマできてる レオのそんな姿珍しいぞ いや初めて見た」

『そうか・・・すまない』

「いやこちらこそ無理に誘って悪かった」

『一応言っておくと疲れてはいないんだ』

「その顔で?無理するなよ」

『いや・・・』

同じ曲を弾き続けて飽きたとは言えない。そして強いて言うならば疲れたのは耳だ。


『走りたいな ここから城まで走って帰りたい』

「・・・そういうことか」

デニスが腹を抱えて笑い出した。あっもしかして声に出てしまった?

『今声に出したか?』

「ああ バッチリ聞こえた」


「なになにーそんなに面白いことあったの?」

『言うなデニス』

「残念イクセル 秘密だそうだ」

「うわー聞きたかったよ

 ねえねえ 来年は僕もレオの伴奏で弾けるのかな」

『いや イクセルの学年のピアノ伴奏が受け持つだろうな』

「そっかー そうだよね」


「それにしてもあの時言ったのはアンナだったか・・・見事予言が当たったな」

「何の話ですの?」

デニスの言葉に心当たりのないアンナは不思議そうな顔をしている。


「ほら レオが髪を短くしてきた茶会の時に言ってただろう 秋には短髪が大流行するって その通りになったぞ」

「レオに感謝しかないぜ 三年にもかなり増えてきたな」

『それはアレクシーが短くしたからだろう』

そうなのだ。アレクシーも夏のうちにすっかり髪を短くしていたのだ。黒い髪を短く刈り込んだ姿はアレクシーにとても似合っていて、少し羨ましい。

「すぐに乾くしさ 騎士科にもいるんだぜ 髪を括っていた先輩がいきなり刈り上げてきたときは驚いた」

『確かに増えてきたな おかげで私も目立たなくなって良かったよ』

「レオ様が目立たないということはないと思いますが・・・」

「そういうことにしておいてやれ アンナ」

デニスがこっそりアンナに耳打ちしているが聞こえているぞ。


「それはそうと席を変わろう スイーリこちらへ来ないか レオが話したがっている」

『おい』

「遠慮するな 久しぶりに会えたのだろう?それにあそこ見ろよ」

デニスが示した先ではベンヤミンとソフィアが会話に夢中になっている。

「ずっとあの調子だ 弟がソフィアを離さないんだよ」

呆れながらもデニスの視線は柔らかい。

立ち上がったアレクシーが去り際に言った。

「レオ 俺たちといる時は我慢するな」

『・・・ありがとう』

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