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学園生活が始まって2ヵ月が経とうとしていた。試験の結果が出るたびにクラス編成が変わるこの学園においては、今同じ教室で過ごしている仲間も仮初めのクラスメートと言ったところなのだが、それでも私たちAクラスはなかなかに結束力のあるいい関係を築きつつあった。
Bクラス、Cクラス辺りはクラス全員がライバルであり、どこか張り詰めたところがあるらしいのだが、Aクラスには次もこのクラスで全員が集まろうという団結心のような空気が流れている。これはどの学年でもAクラス特有の雰囲気らしい。
後ろの席でヘルミは、数人の女子生徒と難しそうな顔をして話し込んでいる。
「〈まざる〉がー」
「私もなんです〈交ざる・混ざる〉が、いつもわからなくなります」
「発音が思っていたよりもずっと難しいですわ
〈彼は少年紳士と伸ばれていました。彼には1つの大きな爪がありました〉」
メルトルッカ語だ。メルトルッカ語は柔らかい印象のある言語で、女子生徒から人気が高いらしい。例年だと受講者は30名を下らないそうだが、今年は10名足らずなのだとヘルミから聞かされていた。Aクラスからは女子生徒7名のうち5名が選択しているという。
つい気になって、話に首を突っ込んだ。
『今の部分《爪》ではなくて《夢》だね。発音が似ているから難しい。それと前半の動詞の部分は《呼ばれていました》かな』
「レオ様、メルトルッカ語もお使いになるのですね!」
その令嬢の声が助けを求めているように感じて、話の輪に加わることにした。
『私で力になれそうなら協力するよ』
「よろしいのですか?実は次の授業で朗読の試験があるのです」
メルトルッカ語もペースが速いみたいだ。人数が少ないからだな。
『私もホベック語はベンヤミンから教わっているんだ 。いいよ協力する』
「俺も一緒に聞いてていい?」
さっきまで隣にいたベンヤミンも興味津々と言った体で加わった。
『もちろんだ、ベンヤミン』
せっかくなら全員で覚えるのがいいよな。
『このクラスでメルトルッカ語を取っているのは、この5人だけか?』
「あと1人いらっしゃいます。ヴィルヘルムさんですわ」
すかさずベンヤミンが立ち上がってビルを探す。
「ビル、ビルいるかー?
おーいたいた。今からレオがメルトルッカ語教えるけど、ビルも来ないか?」
ビルが言葉より先に走り寄ってきた。
「はい 行きます!」
『朗読する文章は指定されている?』
「はい、これです」
渡された紙をさっと読む。
『結構長いね。始業前のこの時間だけでは足りないか。放課後残れるものはいるかな』
「私は大丈夫ですが、レオ様とベンヤミン様のホベック語のお時間は」
ヘルミは私がベンヤミンからホベック語を習っていると言ったことを気にしているのだ。だがその心配には及ばない。
「俺たちのことなら気にしなくていいぜ。授業のあった日の放課後に復習会をしているんだ。だから今日はなし!」
と言うわけだ。説明が省けた。
「ありがとうございます。ではレオ様甘えさせていただきます」
「私たちもよろしくお願いいたします」
『うん では早速1人ずつ聞かせてもらおうか。朗読してもらえるかな』
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『皆とても良くなったよ、上達が早い。それにしても2ヵ月でこの文章を朗読させるとは、メルトルッカ語もかなり飛ばしているみたいだな』
「ホベック語もめちゃくちゃスパルタなんだよ。レオたちが少し気の毒になってる」
済まないなベンヤミン。ホベック語の授業は幼子の中に1人大人が混じっている状態だもんな。
「そうなのですか。人数が少ないことが理由でしょうか」
それは大いにある。でもなヘルミ、ホベック語に関してはそれだけじゃないんだ。
『うちの場合はベンヤミンだな、理由はそれだけだ』
「だからそれでは説明が足りないって!俺が悪いみたいじゃないか」
怒られた。簡潔で的確だと言うのに。
「ベンヤミン様が原因?なのですか?」
『うん、ベンヤミンのホベック語は指導者レベルでね、1年でそこまで追いつけと言われて大変な思いをしている』
「指導者とは言われなかったぞ」
『同じことだ』
片付けながら他愛ない話を続けていたところ、思わぬ人物が教室を訪れた。
「あ、いたいた。なんだヘルミとベンヤミンも残っていたのか。皆熱心だな」
校舎でこうして会うのは初めてだ。お互い制服を着ていると変な感じだな。
「おー、アレクシー先輩じゃないですかー。どうしたんですー?1年生の教室まで」
ニヤニヤと話しかけるベンヤミンに、アレクシーも笑っている、
「おう、ベンヤミン。いやレオに用があってさ」
私がまだ教室にいるとよくわかったな。行き違いにならなくてよかったよ。
『アレクシー何かあったのか?』
「日曜日に騎士科の模擬戦があるんだ。レオも見学に行きたいかなと思って誘いに来た」
なんとも魅力的な誘いだ。すぐにでも頷きたいところだが、惜しいことに先約がある。
『残念だが、日曜日はオーケストラ選抜の伴奏がある』
「あっ!レオ伴奏コースなんだっけ」
ようやく今年度のオーケストラ選抜試験が始まるのだ。私はその手伝いに駆り出されることになっている。伴奏として。
『ああ、この学年では私1人だからな。今週と来週は選抜の手伝いだ』
「大変だな」
アレクシーは自分が弾くのではないのに、肩を落として思い切りしょげている。いいんだぞ?アレクシーは気にせず模擬戦を見学に行ってくれ。それにそう悪い話でもないのさ。
『そうでもないさ、これのおかげで伴奏コースは試験がないからな』
選抜試験は、上級生は再挑戦のものだけが受けるため1週で終わるそうだが、1年生はそれなりの志願者がいる。私は1年生全ての試験の伴奏が担当だ。試験は課題曲1曲のみで行われる。このところの音楽の授業は志願者との伴奏合わせが続いていた。
伴奏コースは人気があるとは言えず、学年で常に1人か2人。理由は地味だからだ、と思う。貴族というものは大なり小なり目立つことを良しとする風潮がある。もちろん良い意味で。なので進んで伴奏に名乗り出るものは少ないのだ。音楽の中で唯一試験がないコースだし、悪くないと思うけどな。
『次の模擬戦は見学したいかな』
「そうだな、また誘いに来るよ」
『ああ、ありがとう』
次の模擬戦の時には予定がかち合わないといいと思う。私も見学に行きたい。
「じゃー俺行くわ。騎士科の練習に参加させてもらってるんだ」
「ランドルッツ卿によろしくなー」
「おう」
右手をひらっと上げてアレクシーは教室を出て行った。今から騎士科と鍛錬、か。少し羨ましかった。
「ん?どうした?」
ベンヤミンの声に視線を向ける。それからベンヤミンの視線の先を辿ると、そこにはヘルミと共にいた令嬢たちが並んで立っていた。
「レオ様と、ベンヤミン様と、ダールイベック先輩ー」
「絵になります。3人がご一緒する瞬間に立ち会えたなんて、私自慢しちゃうわ」
「残っていてよかったー」
ヘルミだけは少し困ったように眉を寄せていた。
「いやいや何言いだすんだよ」
ベンヤミンの声色も明らかに困惑している。
「1年生の双璧、レオ様とベンヤミン様のいらっしゃるAクラスになんとしても残らなくては」
「ええ、頑張りましょうね皆さま。」
「おい!だから何言ってるんだって」




