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「ヘルミさん ご招待ありがとう」

「お越しいただきありがとうございます フェデリーコ殿下」


「殿下 学園には慣れましたか?」

「はい 皆さん良くしてくれますので アレクシーは今も本科生?」

「はい私は今年三年になります」


今日はアルヴェーン邸での茶会、以前ヘルミとの話で出た小さな演奏会も兼ねた茶会だ。

今まで音楽の話は殆どしてこなかったようで、お互いの嗜む楽器について驚いたり納得したりだったのが前回の茶会だった。


「僕はチェロを弾くんだけれど 殿下と同じだからお茶会の日はフルートにしようかな」

意外と言っては失礼だが、音楽への造詣が最も深かったのはイクセルだった。

「ポリーナのレッスンの伴奏でピアノを弾くこともあるよ ポリーナはねヴァイオリンを習い始めたんだー」


「イクセル様がここまで多才とは知りませんでしたわ」

「でしょでしょー褒めてー アンナちゃんは何が得意なの?」

「今はヴィオラをレッスンしています」

「今はってことは以前は別の楽器を?」

「ええ 幼い頃はヴァイオリンでした」

「そうなんだね ヴィオラは弾いたことがないや 楽しい?」

「ええ・・・私オーケストラに入りたくて・・・」

「僕もなんだー入れるといいよね 頑張ろうね」

「はい!」


「ソフィア様とベンヤミン様はヴァイオリンをお弾きになるのですね 実はアレクシー兄様もその昔ヴァイオリンを弾いていらしたのよ」

「言うなって言っただろう!ずっと前に止めたんだ もう全く弾けない」

「その後はどうしたんだ?」

「剣の稽古で忙しかったんだ それ以降音楽は何もやっていない」


「私は本当はハープを弾いてみたかったんです」

「そうだったのかソフィア」

「ええ でも領地では教えていただける方が見つからず 一年の半分しか弾けないのでしたら上達もできないと思いまして ヴァイオリンにしました」


『ソフィア 今でもハープに興味がある?』

「はい でも全くの初心者ではハープのクラスを選択できませんから」

『そうだね 学園で学ぶことは難しいだろう でも趣味で楽しむのはどう?一人先生に心当たりがあるよ』

「レオ様もハープを?」

『いや私は全く でもソフィアが弾いてみたいのなら話をしてあげることはできるよ』

「よろしいのでしょうか・・・この歳になるまで一度も触れたことがありませんが・・・」

「初めは誰だってそうさ 俺はソフィアがハープを弾くところを見てみたい」

「ベンヤミン様・・・

 レオ様 ご紹介いただいても構いませんか?」

『もちろんだよ 王妃殿下もお喜びになるだろう』


「え・・・」

「レオ もしかして心当たりというのは」

『ああ 私はハープに関して全くの素人だが 王妃殿下のハープ演奏はとても素晴らしいよ』

「あの・・・やはりこのお話はなかったことに・・・」

『厳しくはないよ お優しい方だから心配することはない』

「レオ・・・ソフィアの身にもなってやれ 王妃殿下直々に教えていただくなど荷が重すぎる」

『そうか・・・私が興味を示さなかったことがとても残念なようだったから お喜びになることは間違いないのだが 仕方ないな』


「レオ様 ソフィア様 私もご一緒させていただきたいと言いましたらご迷惑でしょうか」

「スイーリ様!ご一緒していただけるのですか?」

「まだお聴かせできるほどのものではありませんが ハープは嗜んでおりまして

 ソフィア様がよろしければ 一度私のハープを触りにいらっしゃいませんか?」

「ありがとうございますスイーリ様 是非お伺いさせてください

 レオ様 本当に私のようなものが王妃殿下に教えを乞うてもよろしいのでしょうか」

『殿下には話を伝えておくよ 二人へは私から連絡をする』

「良かったなソフィア 願いが叶って いつか俺にも聴かせて」

「はい嬉しいです ありがとうございます」




「そろそろ演奏を始めましょうか」

話の区切りがついたところで、ヘルミから声がかかった。

「申し訳ありません 少々指先を傷つけてしまい今日は皆様の演奏を聴かせていただきに参りました」

「まあソフィア様 お怪我を?大丈夫なのですか?」

「些細なものなのですが ヴァイオリンを弾くのは少し難しくて・・・」

「俺は楽器は弾けないから聴く専門だ だからソフィアも気にするな」


「これって後になる方がプレッシャーだよな 俺たちから弾かせてもらおう」

そう言ってピアノの前へ向かったのはデニス、そしてヴァイオリンを持ったベンヤミンが続いた。

「お二人で合奏ですね!楽しみだわ」

二人が演奏した曲は、軽快で小気味の良いカノンだった。流石兄弟と言いたくなる息の合った演奏だ。

「凄いよーデニスとベンヤミン!息ぴったりだったねー!」

『素晴らしかったよ』

皆が拍手を送る。

「ありがとう 練習してきてよかったなベンヤミン」


さて、早く終わらせた方がいいよな。立ち上がろうとしたら強く腕をつかまれた。しかも両方から。

「私たちは最後にしましょう レオ」

「当然トリはレオだろう まだ行かせないぜ」

『・・・』

不満だ、納得いかない。こういう場は音楽への理解が高いものが最後を飾るべきではないか。まあいい、私は伴奏役、今日の主役はフレッドだからな。


「私が・・・よろしいでしょうか」

立ち上がったのはスイーリ、手にはフルートを持っている。

ゆっくりと優雅に一礼してフルートを構える。拍手と共に早くも感想が囁かれ出した。

「凄いな譜面なしか」

「スイーリ様は暗譜ですのね!」

彼女が奏で始めたのは、静かで物悲しいどこかで聴いたことのある曲だった。いつ聴いたのだろう記憶を辿りつつ演奏に耳を傾ける。すると転調し途端軽やかで楽しい曲が顔を出した。これは・・・

映画、多分映画で使われていた曲だ、名前も内容も思い出せないがこの曲だけは私の記憶の中にも残っていた。目頭が少し熱くなる。

演奏が終わり、再び礼をしたスイーリへ割れんばかりの拍手が起こる。

「凄い!凄いよー!スイーリちゃんが作曲した曲なの?転調してからのメロディーがとても印象的だったよー頭から離れそうにないや またいつか聴かせて?」

イクセルが珍しく早口になっている。

「私の作った曲ではありませんが・・・」

頬を染めたスイーリはイクセルの質問攻めに合っている。

〈初めて聴いた曲だ 良い演奏だったね〉

フレッドも感心した様子で拍手を送り続けていた。

《ああとても印象的な良い演奏だったな》


「では次もフルートだよ」

小鳥のさえずりのように始まったイクセルの演奏は、まるで一つの物語を聴いているかのようだった。一本の楽器でここまで豊かな表現ができるとは。

ここでも大歓声が巻き起こった。

「ありがとうございました」


「素晴らしいですイクセル あなたの演奏には魂が宿っていました 私は今とても感動しています」

「ありがとうございます フェデリーコ殿下に評していただけてとても光栄です」

「素晴らしかったですわ イクセル様 私イクセル様を見る目が変わりそうです」

「えへへ もっと褒めていいんだよー ありがとうヘルミちゃん」


続いてヘルミのピアノ、アンナがヴィオラを披露する。

『ヘルミのピアノは何度か聴く機会があったが いつも惹き込まれるよ いつまでも聴いていたくなる』

「これ 途方もなく難易度の高い曲だよねーこれを弾きこなすなんて凄いよー」

「ありがとうございます レオ様イクセル様」


「僕ヴィオラのソロ演奏を聴いたのは初めてなんだ とてもいい音色だね 僕も弾いてみたくなっちゃった」

「アンナさん素晴らしい演奏でした 今度私とアンサンブルを楽しみませんか?」

「光栄です フェデリーコ殿下」

〈レオ 社交辞令ではないと伝えたい 代わりに言ってくれないか〉

『アンナ フレッドは社交辞令ではないから是非にと言っているよ』

「はい ありがとうございます!」

「こちらこそ アンナさん一緒に演奏できる日を楽しみにしています」


「さて 僕たちの番だよレオ」

『そうだな』

フレッドがリクエストした曲の中から私の弾ける曲を伝え、何度か合わせてみた。これから伴奏を引き受ける機会も増えることから、フレッドとの合奏は私にとってもいい経験になったのだ。

「チェロコンチェルトですわ」

「王子殿下お二人の競演なんてとても贅沢です 私たちだけで聴くのが惜しいわ」


「どうもありがとう」

フレッドが立ち上がり礼をする。

一拍置いて大拍手が起こった。芸術留学するだけのことはあるよな、フレッドのチェロは音楽がわからない私が聴いても惹きつけられる魅力がある。


口々に皆が賛辞を口にしている中、今まで饒舌だったイクセルだけが呆然とした表情をしている。


「はっ・・・僕感動して声も出なかったよ

 フェデリーコ殿下素晴らしい演奏でした 僕今日ここに来れて良かったです」

「ありがとうございます イクセル」

そして私の方を向くなり両腕をがっしりと掴んで輝いた瞳を見せたイクセルは

「僕もレオと弾いてみたい お願い!今度僕とも合わせて!」

『私でいいのか?』

「うん!レオの伴奏で弾きたい!」

『練習するよ』

「僕も練習する!フェデリーコ殿下のように弾けるようになりたい!」

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