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「それにしてもレオの なんと言うんだ?凄いな」
「回避能力 でしょうか」
「ヘルミ上手いこと言うな」
「少人数での行き届いた指導をいくつも受けられるなんて 羨ましいぜ」
『・・・』
「後は何を選択しているんだ?想像もできないから教えてくれよ」
「私も気になりますわ」
『私はごく普通に選択して行ったつもりだ』
「それでレオは後何を普通に選択してあるんだ?今日はこれから何の授業を受けるんだ?」
『宗教学と音楽だ』
「あ 私も同じです」
「俺もだ 因みに音楽はなんだ?歌か?それとも楽器?」
『ピアノだ』
「・・・普通だな」
『だろ?
二人は音楽は何を専攻にしたんだ?』
「俺はヴァイオリン これしか弾けないからな」
「私はピアノにしました レオ様ご一緒ですね」
『ヘルミがいてくれて良かったよ』
音楽は人前で歌いたくなかったので、消去法でピアノを選択した。あまり得意でも好きでもなかったが、幼いころから習ってはきていた。私がレオになる以前から。
音楽とダンスは貴族には必須の嗜みらしい。どちらにも興味が薄い私には幼い頃より義務としか思えない授業だった。音楽は陛下の勧めるままピアノを学んだ。が、思い返しても陛下と音楽の話をした記憶はない。どうやら音楽に対する熱量の低さは父親似らしい。
レオは何を選択していたのだろうか、そういや剣術以外聞いてなかったな、スイーリに確認しておけばよかったか・・・いやもう決まったことだ、今更どうこうできることではない。
「まー初日がたまたま強烈だったのかもしれないな パルード語と剣術はいかにもレオが選択しそうだったからさ 残りの座学や実技はバランスよく選択されているだろう」
『そうであってくれと願うよ』
「では宗教学の教室へ参りましょうか」
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「レオ様良かったですね 宗教学もピアノも例年並みの人数だったそうです」
『うん ほっとした
ヘルミのピアノはとても美しいね 音楽の表現はあまりわからないが ヘルミの音色からは主役の音がした』
「ありがとうございます レオ様もあの難しい曲を弾きこなしておられて驚きました」
『私のは暗記した通りに指を動かしているだけだ
ヘルミはソロコースにするのだろう?』
「はい そのつもりでいます レオ様は?」
『私は伴奏コースを希望している』
ピアノはオーケストラ選抜がないのでソロコース、そして声楽や他の楽器の伴奏を務める伴奏コースの二つに分かれている。
「以前なら驚いたかもしれませんが レオ様らしいご選択ですね・・・などと私が申し上げてよいものなのか・・・失礼申し上げました」
『とんでもないよヘルミ 私のことを理解してもらえてとても嬉しいよ』
「そうだ 今度アルヴェーンの邸でピアノをお弾きになりませんか?スイーリ様にもお聴かせ致したいですわ」
『私のはともかくとして ヘルミの演奏は皆で聴きたいね』
「では次のお茶会の時に皆様へご提案いたしますね」
『せっかくの機会だ ベンヤミンのヴァイオリンも聴かせてもらおうか』
「皆様も様々な楽器を嗜んでおられるでしょうからお願いしてみましょう 楽しみですわ」
『そうだ そういうことならフレッドにも声をかけよう』
「フェデリーコ殿下はチェロのご専攻でしたね」
『ああ きっと喜ぶだろう』
その翌日は外国語と乗馬の授業があった。
選択科目には必須単位が決まっているものと、単位数を選べるものがある。外国語のみが必須六だ。よって週に三回授業がある。
「ノシュール君のホベック語レベルは 留学経験者クラスだね」
〈上級生のクラスに入るかい?それとも他の教室へ移りたいようだったら私から直接担当へ掛け合ってあげることもできるが〉
〈いえ このクラスで勉強します 数か月も経てば皆追いつくと思いますので〉
〈素晴らしい よく言ってくれた!〉
「たった今このクラスの目標が決まった 冬休みまでの三ヵ月で基本的な会話までは習得する それ以降授業中ステファンマルク語の使用は一切禁止だ 一年後には全員をノシュール君のレベルまで持っていくぞ」
「ノシュール君は当面四名と別カリキュラムで進めよう その間に皆を一気に上げていくからな」
「はい よろしくお願いします」
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〈今日のホベック語授業はここまで〉
〈〈〈〈《ありがとうございました》〉〉〉〉
「基礎が身に着くまで宿題はなしだ 代わりに復習はしっかり済ませておくように」
「「「「『はい』」」」」
「一年で留学経験者クラスに・・・僕自信ありません」
『前向きに考えようマルクス 私たちの中にそれほどの実力を持つものがいることが幸運だ ベンヤミンに私たちの勉強を見てもらおうか』
「それ賛成 俺の勉強にもなるし」
『他の二人にも声をかけよう ベンヤミンどのくらいのペースなら引き受けられる?』
「毎日でも! 早く皆がホベック語に馴染んでくれたら俺も嬉しいし」
『では次のホベック語授業の前に相談しよう どうだ?マルクス』
「はい!ありがとうございます お二人と同じ授業を選択して本当に良かったです」
「次俺たち乗馬を受けるんだが マルクスは?」
「僕も乗馬です」
「それなら歩きながら話そうぜ」
乗馬も人気の授業だ。男女問わず実技で最も人数の集まる授業だろう。体育という概念がどうやら存在していないらしいため、女子生徒が唯一参加するスポーツという位置づけのようだ。尤も人気のクラスであるため、馬の休憩も考え一学年につき二単位までしか取ることはできないが。
馬場へ向かうには訓練場を横切る必要がある。
訓練場の端を三人で歩いていくと、見慣れた姿を発見した。
『この時間は三年生の剣術か』
「お?!・・・
見つけた」
「ダールイベック先輩ですか?」
「よくわかったな」
「三年生では一番有名な方ですよ 特に女子生徒から」
「え?そうなの?アレクシーが?というかマルクス詳しいな」
「三年生に姉がいるもので」
「なるほどな」
「そうだ 来年には美人の妹が入学してくるぞ なっレオ」
『はっ? ああそうだな』
「ああ!殿下・・・レオ様の!」
『その話は今はやめておこう』
口元を隠してやや早歩きになる。
「耳赤いぞ レオ」
『うるさい 急ごう遅れるぞ』
 




