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「レオ様 お帰りなさいませ。お疲れさまでした」


『ただいまロニー』


迎えの馬車でロニーと向かい合って座る。


「陛下より、お戻りになりましたら執務室へいらっしゃるようにと仰せつかっております」


『わかった』


城へ戻りそのまま陛下の執務室へ向かう。


『陛下、ただいま戻りました』


「お帰りレオ。初日はどうだったかね』


この秋から呼び方を改め、父上のことは陛下、母上のことは王妃殿下とお呼びしている。お2人からは今までのままで構わないと言われたのだが、なんとなくけじめとして私がそうしたかったのだ。食事の席など極めてプライベートな時間だけは、お2人の要望もあって以前のようにお呼びすることもあるのだが。


『はい、問題なく過ごせたかと』


「そうか。今日は夕食を共にしたいと思ってね、イレネも一緒だ」


『ありがとうございます。ご一緒させていただきます』


お2人と食事をする機会はあまり多くはない。最近ではこうして誘いがあった時くらいだ。


「後で呼びにやる。それまで一休みしなさい」


『はい、では一度失礼いたします』


自室に戻り着替える。

校章を外し、クラヴァットを緩めた。


学園には制服がある。ダークグレーの上着とパンツ、シルバーグレーのウエストコートが男子生徒の基本だ。クラヴァットは学年によって色が定められていて、1年生はベージュだ。因みに女子生徒がボレロタイプの上着の襟に結ぶスカーフも同じ色になっている。


校章は知恵をつかさどるアマリア神とフクロウがモチーフになっており、フクロウの目には知性を意味するトパーズがあしらわれている。


『制服があるのはいいことだよな』


夕食の時間まではまだある。今日の復習は食後に回して今は少し身体を動かしたい。


「お茶をお持ちしましょうか」


『いや、今はいい。ちょっと身体を動かしたいんだ』


走りに行くのも悪くない。が、汗をたっぷりと流したところで呼びに来られては困る。

とりあえず剣を取ることにした。


「まだ動かし足りませんでしたか、 騎士も顔負けの体力でございますね」


いやいや、騎士と一緒にされては敵わない。あいつらの体力は無尽蔵だ。なにせサウナに入ったら復活するんだからな。


『そんなことないさ。学園では座ってばかりなのだし』


「つい先程まで弓術のお時間だったのでは?」



何故知っている?



----------

翌日ー始業前。


「レオ、弓術には何人いた?」


登校早々、挨拶もそこそこにベンヤミンが話しかけてきた。


『2人だ。私ともう1人』


「1人ではなかったんだな!でさ、剣術のクラスは何人だったと思う?」


弓術は受講者がゼロの年もあるくらいだから、少ないことは驚くところではない。剣術か、恐らくは残りの男子生徒全員だろう、確か今年入学の男子生徒は48人。


『46人』


「ハズレ、70人だ」


それには私も驚いた。けれど次の瞬間気がついたのさ。


『上級生と合同だったのか?』


それなら納得だと思った。私たちはまだ学園に通い始めて2日目だからな。授業の進め方について知らないことも数多い。けれど、それも正解ではなかった。


「違うよ、24人は女子生徒だ」


へー。

案外と剣術を嗜む令嬢も多いんだな。


『そうなのか。今年は騎士を目指す女子生徒が多いんだ?』


女性騎士はまだまだ少ない。未来に女性騎士が増えることはいいことだろう、多分。

そう納得しかけたのに。ベンヤミンはまたしても素っ頓狂な大声をあげた。


「何言ってんだ!パルード語のクラスも凄い人数だったらしいぜ。全部レオ目当てだよ」


『それは違うだろう。私は剣術もパルード語も選択するとは言っていないぞ』


履修届は学園へ直接届けることになっている。それが公開されることはなくて、現に昨日ベンヤミンですら私の履修科目を知らなかった。事前にお互い話さなかったからな。


「そうさ。皆勝手に思い込んで届けを出したってことだ」


「言いましたでしょう?レオ様。ここは戦場だと」


いつの間にか話に加わっていたヘルミから諭すように言われる。今、初めてその言葉の意味が少しわかったような気がした。



「パルード語はわからんが、剣術に集まった女子生徒は殆どがDクラスとEクラスだった。手っ取り早くレオと近づけると思って選択したんだろうな」



話し続けるベンヤミンの言葉に、私は相槌すら打つことができなくなった。


「だがなぁ、ランドルッツ卿が流石にこれは見過ごせないと言い出して、今頃大騒ぎになってるはずだ」


『どういうことだ』


「想像してみろ。授業に来てみたら目当てのレオがいないんだ、やる気なんてあると思うか?今まで剣を触ったことすらない令嬢たちだぜ」


試しにソフィアが剣を持つ姿を想像してみようとした。けれど無理だった。とてもじゃないが、ソフィアが剣を構える様子は想像すらできそうにない。そしてあの熱心なランドルッツ卿が教師。


『卿が黙っているとは思えないな』


「多分特例が認められると思う。デニス兄が言ってた」


おい!なんでデニスが知ってるんだ?デニスは2年生じゃないか。ここまでくると、私の方がパニックだ。


『もうデニスの耳にも入ってるのか!』


「とっくに学園中に知れ渡ってるんじゃない?」


片方が熱くなれば、もう片方は冷静になるもんだ。ベンヤミンは絶望的なことをあっさりと言ってのけた。ああ、落ち込んだよ。



『初日から問題を起こしてしまっていたのか』


問題なく過ごしてきた、昨日そう言ったばかりなのに。


「レオ様が責任をお感じになる必要など、微塵もございませんわ」


「その通りだぜ。レオが気にする必要はない」


2人は慰めようとしているけれど。学園に無用な面倒ごとを持ち込んだのは事実、だ。


「ランドルッツ卿が上手く取り計らってくれるはずさ」


だといいけど。


その日の昼休憩時、掲示板には新しく1枚の掲示が貼りだされた。


~剣術を選択した新入生は本日に限り再選択を許可する。尚、下記の単位は不可とする。

 ・弓術

以上~


『物凄く個人宛の文面に感じる』


「気にするな、レオとは無関係だ」



再提出の結果、刺繍の選択生徒が24名増えたらしい。

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