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レオ様に打ち明けてしまった・・・。
今日は私の十四回目の誕生日でした。書きたいことはどっさりあるけれど、とても順を追って書いていくことなどできません。支離滅裂になるかもしれませんが、全て書き残そうと思うわ。
レオ様は私に前世の記憶があることをご存じでした。いえ、それどころかご自身がゲームのキャラクターであることまでご存じだったのです。信じられないわ。私以外にもこの世界に来ていた人がいたのね。
残念ながらもうお亡くなりになった方のようですので、お会いすることは叶いませんが、その方からお聞きしていたのでしょう。
でもゲームについてはほぼご存じではありませんでした。そうよね、まずスマホがこの世界では説明のしようもありません。私も毎日触っていたけれど、仕組みなんて一つも説明ができないわ。物語の書いてある本のようなものを想像なさっているのかもしれません。
それに私のことをヒロインだと勘違いなさっていました。そのことをお話しすると、レオ様はとても憤慨されました。レオ様がお怒りになったところを見たのは初めてです。
主人公の少女が意中の男性―王子であるレオ様や高位貴族を攻略していく話だと聞いて、レオ様は口には出しませんでしたが眉をひそめていらしたわ。
レオ様はとても私のことを心配してくださっていました。全く気がついていませんでしたが、時折表情に表れていたのだそうです。最初はご自身の身が儚くなるのだろうとお考えだったそうです。『私が死ぬことを知っているのかと思っていた』と言われたときはひゅっと息を呑みました。そんな恐ろしいこと考えたくもないわ。
そしてきっぱりと言われました。『変えられるものは全て変える』と。原作改変―今まで一人で頑張ってきたけれど、心強いいいえ最強の味方ができました。レオ様と一緒に原作を変える。きっとできるわ!
『大切な日を台無しにしてしまったね』
とレオ様は言われましたがとんでもありません、真逆です。とても嬉しい忘れられない・・・レオ様との想い出は全て忘れることは決してないけれど、今日のことは特に大切な想い出の一つとして、このノートと心の中にしまっておこうと思います。
レオ様は、ゲームの中のレオ様とは別物だと何度か言っておられました。そうなのです。お聞きしたお好みはゲームのデータとは全然違いました。好きな色は黒と紫って言ってくれた・・・。
それにケーキをお作りになれるなんて全く知りませんでした。だってゲームの中のレオ様は甘いものはお好きですらなかったですもの。[いい男は甘いものを食べない]なんて固定観念が古すぎるのよ。一緒に美味しいものを食べて美味しいねって言い合える方が何倍も素敵だわ!
もう私は心配はしないわ。少しは気になるけれど、レオ様が信じろとおっしゃって下さったのですもの。誕生日に何よりも嬉しいものをいただけたわ。
大切なことは書ききったので、ようやくそれ以外のことを書こうと思うわ。
今日はレオ様がお休みを取って一日お祝いをしようと言ってくれていました。夕方からお会いしてお食事をご一緒した去年の誕生日もとても素敵でしたが、今年はもっと長い時間一緒にいられるのです。レオ様は今年の秋には学園へ入学されますから、今年だけは二人でゆっくり過ごそうとおっしゃってくださって・・・
朝はロニーさんが邸まで迎えに来てくれました。事前にお手紙で伺っておりましたので驚くこともなくお城へと向かいました。
通されたお部屋で窓の外の美しい景色を眺めていましたら、レオ様が来られました。
白い柔らかなシャツをお召で―珍しくウエストコートを着ていらっしゃらないわ、と思ったらエプロン!黒いエプロンをしているではありませんか!えええ?どうして?ギャルソンのようなそのお姿も堪らなく魅力的ですが、今エプロンをしていらっしゃるということは・・・
「ご想像通りでございます こちらはレオ様がお一人で作られたのですよ」
ロニーさんが答えを教えてくださいました。
いちごがたっぷりと乗ったショートケーキです!レオ様がお料理なさるなんて知らなかったわ!それもこんなにも美しいケーキ。
キャンドルを吹き消し、お祝いをいただきます。とても幸せ。
ケーキは素晴らしいお味でした。食べたことのない濃厚なクリーム、あれは王室の特別な牛から採られたクリームだったのかしら。もう一度食べたいわ。
初めていただくレオ様の手作りケーキに感動していましたら、さらに驚くことを聞かされました。私は今までにもレオ様のお手製スイーツをいただいたことがあったそうなのです。どのスイーツだったのかしら、ちっともわからないわ。もうレオ様の特技はスイーツ作りと言っていいのではないかしら。そうね!また一つ原作を改変できたわ!
その後、なんとレオ様の私室にお招きいただいたのです。
柔らかな日差しが差し込むそのお部屋は、装飾が少なくシンプルながらとても落ち着くレオ様らしいお部屋でした。机の上には初めてのデートで交換した小鳥の置物が飾られていて嬉しくなりました。私もレオ様にいただいた猫の置物大切にしています。
プレゼントにブローチをいただきました。ホワイトパールとダイヤモンドがたっぷりとあしらわれたとてもとても素敵なブローチ。バールは大小さまざまな大きさのものが全部で十四個使われていました。これは偶然・・・ではないと思います。今年のためにご用意いただいたのですね。嬉しいです。レオ様が私のことを大切に思ってくださっていること、もう私は信じることができます。ブローチをいただいたから、というわけではありません。レオ様のお部屋に入ったのは私が初めてなのだそうです。なんだかとても特別なことを経験した気持ちです。実際特別なことよね!王子様の私室に招かれるなんて!思い出しただけでまた緊張してきてしまうわ。
その後も夢のような時間は続きました。
テラスで美味しいランチをいただいてから、レオ様の愛馬で森へ出かけたのです。体温が感じられる距離に心臓がバクバクと煩くて、レオ様に気がつかれるのではないかとひやひやしました。
着いた場所は息が止まるほど美しい花畑。
王宮の中にこのような美しい場所があったなんて。泉のほとりに静かにたたずむ東屋には二人でちょうどの小さなベンチが一つだけ置いてありました。そのベンチに座り、レオ様と長い長い会話を交わしました。そして・・・
ああこれだけは書くことができないわ。最後に素晴らしいプレゼントをいただきました。初めての・・・レオ様にとっても初めてだったかしら。そうだと信じるわ。




