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「うわーレオ!どうしたの?」
「おい、思い切ったな」
「驚きましたわ」
友人らが私を見ては口々に騒ぎ立てる。普段ならうんざりすることもあるが、今日ばかりは気分がいい。
「レオ様が入学される秋が来れば、王都で大流行しそうですわね」
そんなことを言ったのは今日の茶会を主催するヘルミだ。
爽やかな6月のとある日曜日、私たちは今アルヴェーン家の庭にいる。騎士科の特別訓練に参加したいというアレクシーが欠席したため8人での茶会だ。私はアレクシーの代わりにスイーリを邸へ迎えに行って、共にここへやってきた。代わりといいつつ最初にスイーリに見て欲しかったというのが、迎えに行った1番の理由だ。
「レオ様、髪!」
スイーリもやっぱり真っ先に私の髪を見て驚いてくれた。
『カツラではないよ、どう かな』
「はい!とんでもなくお似合いです」
2人で語り合ったスイーリの誕生日の日以来、彼女の言葉選びは少し変わったような気がする。とんでもなく似合う、か。以前のスイーリなら使わなかったはずの言い回しだ。不思議だな、とても自然に聞こえる。かつての彼女の人格がそう言わせているのだろうか。
私はスイーリの知るレオ像に徹底的に抗うことを約束した。根底にある覆し難い人格が、私という人間を形作っている核であるということは、悔しいが認めざるを得ない。が、それらを包む外殻は私のものだ。外見もその1つ。安直ではあるが手っ取り早く印象を変えるために髪を切った。もともと好きな髪型ではなかったんだ。
この世界で生きている男は得てして髪が長い。比較的短髪が多い騎士の中にでも、伸ばした髪を括っているものは決して珍しくはない。騎士を除けば私の知る限り貴族で髪を刈り上げているものは1人もいないだろう。いや、騎士でも見かけたことはない、かな。
前髪も然り。目に入りそうな長さにはずっと不満だったのだ。私の髪を長年切ってきたものは、涙目になりながらも最終的には要望通りに切ってくれた。アップバングは貴族はおろか平民にもまず見かけない。
ツーブロなどかつての世界では珍しくもなんともない髪型だったが、ここでは明らかに異端だ。もしも私が王子ではなかったら後ろ指をさされていたことだろう。こんな時王子の肩書は頼もしい。使えるものはとことん使ってやるさ。
『夏になるからな、試験も近いしさっぱりしたくなった』
「夏って、毎年来てるじゃないか」
口実ってやつだよ。それくらいベンヤミンだってわかってるだろう?
「試験なんてレオなら満点だよ。さっぱりして何目指す気だよー」
『なんだよ、そんなに似合わないか?』
簡単に言ってくれるなよ。初めて受ける試験なんだぞ。そりゃ合格を目指しているさ。
「そうは言ってない、ムカつくがよく似合っている」
『ムカつくんだ』
デニスには不愉快らしい。理不尽だ。
「何やっても似合うからさ。あ、わかった嫉妬だよ嫉妬」
嫉妬と言いながら笑い出したデニスは、首の後ろで束ねた髪を長く垂らしている。
『デニスには長い髪が良く似合っているよ。私には似合わないからな』
仲間内の中で唯一デニスは長髪だ。いつも後ろですっきりと束ねていてデニスにはとても似合っていると思う。
「今年は3人が入学するんだな」
ベンヤミンと私、そしてヘルミがこの秋学園へ入学する予定だ。
「僕たち取り残されちゃうね」
「イクセル様たちは来年なのですからまだいいですわ。私だけあと2年もありますもの」
最年少のアンナは頬を膨らませて訴えているが、こればかりはどうしようもない。
『皆で待っているよ、アンナが来るのを』
「はい、待っていてくださいね。そして時々はお茶会にお呼びくださいね」
両手を握り締めて懇願するように訴え続けるアンナを見て、改めてアンナが2歳年下だったことを思い出した。アンナは初めて会った頃から受け答えもしっかりとしていて、幼さを感じなかったんだ。
「当り前じゃないか。レオ、お茶会抜けたりしないよね?」
『もちろんだ。休みもあるし集まる機会はいくらでもあるさ』
茶会云々より前に、私にとってこの友人たちは全員が幼馴染のような存在だ。学園に入学する程度のことで切れる縁ではないのさ。少なくとも私にとっては。
『来年と言えば、順調に進めば来年の夏には王都でも桃が出回るようになるぞ』
以前ノシュールの周年祭に招かれたことがきっかけとなり、ノシュールの港と王都を繋ぐ運河の建設が実現した。それがあと1年ほどで完成するらしいのだ。
「レオそれ本当?わー嬉しいな。ポリーナにも桃を食べさせてあげられるね」
「レオ、それにはうちの父上も感謝していた。運河が通れば領地まで1日で戻れるようになる」
運河の話は既に広がっていて、イクセルのように個人的な楽しみで待つものもいるが、やはり最も期待を寄せているのはノシュール家だろう。
『そうだな、デニスもベンヤミンも領地へ頻繁に行き来できるようになるだろうな』
「ダールイベックへも進めているんだろう?」
そう、ステファンマルクにあるもうひとつの港、ダールイベック港へも同時に進めている。
『ああ、西は少し時間がかかるが着実に進んではいるよ』
「凄いな。この歳で地図に残る仕事をやってのけたんだからな。俺、友達だって自慢するわ」
『地図か、そうだな考えたこともなかった』
新たに作られる地図には運河の印がつけられるようになる、ベンヤミンに言われて初めて気がついた。
その後も運河の話から様々な話題に話は尽きなかった。
せっかく和やかで楽しい雰囲気だったのに、それを台無しにしたのもベンヤミンのやつだった。
「宮の名前は決まったのか?」
これだ。ベンヤミンがこんな余計なことさえ言い出さなければ。
『いや、そういうの苦手でさ。名前なんて必要ないと思わないか?』
「何言ってんだ、当然必要だろ」
成人後に移り住むことになる宮のことだ。父上は使うことがなかったため長年使われていなかった、通称東宮の工事が今年から徐々に始められていて、その管理は全て私が任されていた。
『必要か、なら決めてくれよ』
全く興味もなくて、移り住む前から投げやりだ。が、これが間違いだったんだ。
「じゃあさー、レオの宮なんだから獅子宮なんてどうかなー」
『却下』
イクセルに名付けのセンスが皆無なことはわかった。
「なんだよー、決めてくれって言うから考えたのにさー」
『恥ずかしすぎるだろ!』
レオで獅子なんて、過去に何度も使い回されてる名前に違いない。絶対あったさ!
「レオ意外に恥ずかしがりだよな。国中の人間がレオのこと知ってるんだぜ。今更照れてどうするんだよ」
「そうだよ、腹くくって獅子宮にしろよ」
なんでだよ。恥ずかしいの意味が違う。獅子宮と呼ばれるくらいならサーモン宮の方がまだマシなくらいだからな、デニス。
「獅子宮、素敵なお名前だと思いますわ」
『アンナまで!勘弁してくれ。スイーリ!助けてくれ!』
まさか令嬢から賛同の声が上がるとは思っていなかった。まずい、一気に追い込まれた気がする。
「えっ?!私ですか? 獅子宮は素敵なお名前だと思いました」
スイーリまで。残念だよ、信じていたのに。
味方はいないのか。いや1人でも戦う、これは譲れない。
「諦めて多数決に従えよ。獅子宮で決まりだ」
『嫌だ!それだけは認めない!』
失敗だ、大失敗だ。決めてくれだなんて言わなければよかった。くそ。
ここは時間を稼ごう。丁重に言って引き延ばすんだ。
『あの、真剣に考えますので時間をください』
「だって。どうする?」
「しょうがないなー、僕は待ってあげてもいいよ」
「仕方ないな。どんな素晴らしい名前に決まるかお手並み拝見だな」
く、。
数分前からやり直したい。とんだ藪蛇だった。こうなった以上本腰を入れて考えてやる。獅子宮にだけはしないからな。
1章が終わりました。スピンオフ2話を挟んで次から2章に入ります。




