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クリスマスマーケットを見に行こう。だからオシャレは不要だよ。
と事前にお伝えいただいておりましたが、レオ様のお姿を見て驚きました。飾り気のないシンプルなお上着と同じようにシンプルなパンツをお履きです。いえそれよりも驚いたのはコート。朝に邸の前でお会いした時は上質な黒のロングコートを羽織っておられましたが、今ロニーさんからお受け取りになったものは、まるで旅人の装いのような砂色のコートです。
今日の私は飾りの少ないものを選びはしましたが、白いシルクのワンピースです。襟には宝石が散りばめられています。コートも白いものを着てきました。どうしよう、レオ様に合わせたつもりがこれでは浮いてしまうわ。
『今日は人の目を気にせずスイーリとの時間を楽しみたくて、どうかな?』
ああそんな上目遣いで私を殺すおつもりですか!レオ様のこんな表情が見られるなんて!
『好きなものを選んで着替えて。急がなくていいよ、隣の部屋で待っている』
レオ様に連れてきていただいたお部屋の中には可愛らしいワンピースが何枚も掛けられていました。コートやブーツ、それにカツラも。一体いくつあるのかしら。
「本日お手伝いさせていただきますオリヴィアと申します。お好きなものをお選びいただくようにと仰せつかております。ゆっくりとご覧くださいませ」
「ありがとう」
パッと目に入った1枚のワンピースがあります。マスタードイエローのワンピースで、スカートの裾の部分に幅10センチほどモスグリーンの切り替えがあります。その部分には同系色の刺繍が施されていて、カフスも同じデザインになっています。レオ様にいただいたミトンとお揃いみたい。
手に取り鏡の前で合わせてみました。いつもレオ様にお会いするときは少しでも大人っぽく見せたいと、可愛らしいデザインのものは控えていましたが、可愛いものは大好きです。でも、いつもと違いすぎて変に思われないかしら。
「とてもお似合いです。こちらにいたしましょうか?」
オリヴィアさんは褒めてくださるけれど、似合わないからやめろとは間違えても言えないでしょう?信用できないと言うのではないのよ。でもー
「子供っぽくないかしら?」
「いいえダールイベック様によく似合っておいでですよ。それにこちらは殿下が特に気に入ってお選びになったものなのです」
本当?
王都に戻ってまだ2日しか経っていないのよ?私のためにそんなに時間をかけてくださったの?
もう着替える前から胸がいっぱいになりました。私、今日生きて邸に帰れるかしら。まだ出発もしていないのに息絶えそうよ。
「そうでしたの?」
それでも努めて平静を装えた私を自分で褒めたいと思います。鏡に映るワンピースを見ながらオリヴィアさんとの会話を続けました。
「はい。殿下からは口止めされておりましたが、お選びになった後ですから問題ありませんよね」
オリヴィアさんは鏡越しにニッコリと笑っています。あら、この笑顔にはなぜだか既視感が。
「この部分がレオ様のパンツのお色とお揃いね。これを着せてください」
「かしこまりました。小物はいかがいたしましょう」
そうね、こんなにもたくさんあると迷ってしまうわ。それに正直に言うとよくわからないの。
「このようなワンピースにはどんな靴を合わせるのかしら?」
「そうですね、こちらの温かい靴下をお履きになってから編み上げのブーツでいかがでしょうか」
事前に下調べをして下さったのかしら。オリヴィアさんはあっという間に小物を揃えてくれたの。
「ええ素敵。それにするわ」
着替えが終わると
「次はこちらをお選びいただけますか?」
カツラを見て回ります。
ブロンド、ジンジャー、ブルネット、ピンクやお母様のような白銀もあります。カツラを被るのは初めてです。嬉しい、ちょっとドキドキするわ。
「これを」
肩につくかつかないかという長さのふんわりとウエーブのかかったピンクブロンドの鬘が目に留まりました。
「かしこまりました」
オリヴィアさんが私の髪を小さくまとめ、あっという間にカツラを整えてくれます。
「わぁー!これが私?」
「大変身でございますね。殿下も驚かれることでしょう」
最後にコートを選びました。オリヴィアさんによると、今下町では赤いコートが流行なのだそうです。大きなフードのついた赤いコートを羽織りました。赤ずきんちゃんみたいです。(この世界に赤ずきんの童話はありませんので、この感想は心の中でだけ呟きます。)
「冷えてはいけませんので」
と淡いピンク色のショールを巻いてもらいました。手編みの暖かいショールです。可愛いわ。
「持っていきたいものがあるのだけれど 、バッグはあるかしら?」
「こちらにいくつかご用意してございますが、お気に召すものはございますか?」
「可愛いー」
1つ1つとても可愛いものが用意されていて、これだけでも涙が出てきそうです。昨日1日でこれだけのものを用意してくださったのね。
バッグを選び、荷物を入れ替えて準備は完成です。
「では殿下をお呼びして参りますね」
オリヴィアさんが出て行ってすぐ扉が開きました。
「お待たせいたしました。レオ様、え?レ オさ ま?」
先程羽織っていらしたコート、いえこれはマントね。いいえマントではなくて驚いたのはアッシュベージュの髪です。目深に帽子を被っていらっしゃるため首の部分にちらとしか見えていませんが、ええちらとしか見えないほど短いようです。
あああワイルドだわ!いつもの完全貴公子のレオ様は素敵で堪らないけれど、目の前にいるレオ様もかっこよすぎて無理だわ。
『よし 、では行こうか』
左腕を差し出されました。ああ、すみません。一度深呼吸しても構いませんか?興奮で酸欠になりそうです。ーなんて言えるわけもなく。
「はい、とっても楽しみですね」
私、とても頑張れていると思う。ちゃんと公爵令嬢を保てているわよね?
馬車の中では秘密の相談がありました。
『今日1日はスイーリのことを別の名で呼ぼうかと思うんだ。なんと呼べばいい?』
「そ、そうですね」
レオ様から呼んでいただけるのでしたら、答えは1つしかありません。かつてゲームの中で呼ばれていた名前(ユーザー名)にしましょう。
「-では、アイリスとお呼びいただけますか?」
レオ様はとびきりお優しい笑みを浮かべながら呼んでくださいました。
『スイーリにぴったりの名前だね。アイリス、わかったよ』
でもここで超難関が立ちはだかりました。
『私のことはレオで構わないよ。'様'はなしだよ』
無理よ!絶対に無理!レオ様を呼び捨てになんてできないわ!兄様のことはできるかもしれないけれど、レオ様はどうしても無理です。だってレオ様なんですもの。
なんとかお願いしてレオ様も偽名をお呼びさせていただくことになりました。
『そうだな、リカルドと呼んでくれるか』
「はい。リカルド」
偽名であっても呼び捨てにすることは苦しいわ。なるべくお名前を呼ばなくていいようにしなくては。
『敬語はなしだよ 。今日の私たちは地方の男爵令息リカルドとその幼馴染みのアイリスだからね』
・・・レオ様と幼馴染み、レオ様と幼馴染み、その部分だけを反芻しては嚙み締めます。なんて麗しい響きなのでしょう。けれどレオ様と、いいえリカルドと敬語抜きでお話ししなくてはならないのね。私会話できるかしら。どうしよう手が震えてきたわ。




