[53]
式が終わり宴の時間になった。
祭りの間公館は開放されている。ホールに並べられたテーブルの上には料理がずらりと並ぶ。皆これが楽しみなのだ。この場で楽しむことは勿論のこと、家に持ち帰ることも許されているため、大きな皿を抱えてやってきているものも多い。子供たちに急かされながら皿に料理を盛っていく母親、ワインを片手に語らうものたち、皆冷えきった赤い頬を緩めて楽しんでいる。
「殿下こちらへ ご案内いたします」
至極真面目な顔を作ったデニスに案内されて奥へ進む。
談話室のような小さめの部屋に入り、マントと手袋を外した。
「レオお疲れ様 晩餐の準備が整うまで暫くここで休憩しよう」
『ああ助かる 皆もお疲れ様』
気を使ってくれたのだろう、公爵夫妻やケヴィンは別室にいるようだ。
「レオ―!とってもかっこよかったよ!凄いね!あれなんて言ってるのかわからなかったよ」
イクセルらしい言葉にホッとする。
『すまない・・・声が小さかったか』
「ち・・・違うよー!言葉が難しかったって言いたかったの!」
『冗談だよ
私も丸暗記さ』
儀式は全て古の言葉で執り行われる。覚えるだけで何日かかったことか・・・当分古典の書物は目にしたくないな・・・
「レオ様素晴らしかったです お疲れさまでした」
「レオ様の儀式感激いたしました とてもお美しかったですわ」
『あ ありがとう』
美しいはないだろう、恥ずかしくなり嚙みかけた。
「ほらスイーリ様」
「スイーリ様!」
何やら令嬢たちに押されてスイーリがジリジリと前に進み出る。
「レ レオ様・・・あの とても素敵でした」
真っ赤な頬をしたスイーリが消え入りそうな声で話しかけてくる。抱きしめたい衝動を抑えるので精一杯だ。
『スイーリにそう言ってもらえて嬉しいよ ありがとう』
「はい あの・・・素敵でしたとても・・・とても」
『髪飾り 使ってくれたんだね』
「はい 似合いますか?」
『よく似合っている 綺麗だ』
耳も鼻までも真っ赤になってしまった。
「ほら立ち話もなんだし二人とも座れ」
アレクシーが呼んでる。いいじゃないかせっかく毎日スイーリに会えるというのに、今日まで会話らしい会話もできていないんだ。
『座ろうか おいでスイーリ』
長椅子に並んで座る。皆が座ったところで茶が出された。ありがたい、緊張の連続で喉がカラカラだったのだ。
『はぁー終わった』
一気に飲み干してから両腕を頭の上に伸ばした。ようやく今夜はぐっすり眠れそうだ。
「見ているだけだとさ 落ち着いて堂々としているように見えたけれど 緊張したの?」
『したさ 人前に出るのも初めてだったし 難しい言葉忘れないようにするだけで必死だった』
「・・・そういうものなのか」
「レオも人の子なんだな 人と言っても王だけどな」
「それ聞くと ちょっと安心しちゃうね」
『なんだよそれ』
「レオにはさ 隙がないんだよ なんでもそつなくこなすしさ」
『それは買い被りというやつだ』
「でもさレオがこの国の王子で良かったよ この国の未来は安泰だな」
『そうだといいな』
「レオ様 あのお伺いしてもよろしいですか?」
ヘルミが向かいの席から身を乗り出している。
『うん?』
「とても美しい宝石ですね」
『ああ これ・・・』
『初めて見るよね これは国宝だ』
「国宝?!あっさり言っちゃったけど! いや国宝身に着けることもあるか・・・そうだよな」
ベンヤミンが腰を浮かせたり沈めたりと忙しい。
「レオ様の瞳に合わせたかのようですわ とてもお似合いです」
『ありがとう でもこれは私のものではないよ
代々ステファンマルク王家の王太子に受け継がれているものだ』
「王太子の証・・・初めて拝見いたしました」
『うん 父上の王太子時代はとても短かったから 年長者でも見たことのある人物は少ないはずだ』
「数年後には正式にレオ様のものになるのですね」
私に瑕疵がなければ成人と同時に叙任されるだろう。成人までは後五年だ。
『そうだな・・・』
「僕お茶のおかわりお願いしようかな レオもいる?」
『私ももらう』
ありがとうイクセル、この手の話を苦手にしていることをイクセルは気がついている。いつもさりげなく助け船を出してくれるイクセルに心の中で、何度目かわからない感謝の気持ちを送った。




